朝になっても不安が収まらない、あんな出来事を経験したから。
『蘭、お前まだ引きずっているのか? いい加減立ち直れよ』
『無理もない。蘭はすでに大切な人間を失い続けてきた。気持ちは痛いほどわかる』
「二人とも……ごめんね」
最初は怖かったけど話してみたら意外とそうでもない。
九龍は生意気なキョンシーだけど、まるで同い年の男の子と話をしている感覚。
ランスロットは優しいヴァンパイアだけど、まるで先生と相談しているような感覚。
いつも血に餓えていて危なっかしい二人だけど、あたしを守ると約束した。
そう考えたら気持ちが少し楽になった。
あたしは、勇気を出して想いを伝える。
「思ったんだけどね……あたしは、二人と出会ったことは呪いとは思わないよ」
『謝謝、蘭。俺も同じ気持ちだ』
『君がきてくれて本当に嬉しかった。これからも蘭を守護しよう』
「……ありがとう」
けれど、あの時の記憶を全く覚えていない。
あたしは気になって恐る恐る聞く。
「あのさ……どうやって脱出できたの?」
『ん? 聞こえないな。君を家に送るまで色々と楽しめたぞ』
『ありがたく思え、お前を助けるのに苦労したからな』
「なっ……⁉」
からかっている、でも一つだけ考えられるとするならば。
「……もしかして、ずっと眠っていたの?」
『他に何があるんだよ?』
すると、九龍があたしの頬にキスする。
「え……⁉」
『俺は本気だ』
背後から、ランスロットがあたしをぎゅっと抱きしめる。
『もう二度と蘭を離さない。さあ、おいで』
イヤな予感がしてきた、地雷を踏んだのかもしれない。
「あの……お手柔らかにお願いします……」
『勿論だ。愛してる、永遠に』
あたしの首筋に、ランスロットは鋭い犬歯を突き立てる。
力を入れたのか赤い血が流れだし彼の舌に絡みつく。
流れ出た血を見た九龍は、口を近づけ血を舐める。
二人は、あたしの頭を優しく撫でた。
最低で最悪な愛があたしを襲う。
『最高。本当にお前って、お人よしだよな。面倒みてやるぜ』
『ああ、蘭は心優しい霊感少女だ』
逃げられない……これが心霊スポットに行った末路。
信じられないでしょ、こんな出来事。
だって、九龍とランスロットは新たな兄と父になって……あたしを可愛がっていたのだから。
真っ暗な場所で、あたしは青い本を閉じた。
フッと息をかけて蝋燭を消す。
「ねえ……あなたはどんな体験をしたの?」
これがあたしが体験した話。