この章から薬物、暴力描写などがありますが、使用を容認するものではありません。
そういった出来事から数分が経ち、M達は目的地の「ワールハーフェン港」へとたどり着いた。
そして、フィロメナは上着のポケットに入れていた不自然なまでにキッチリと封された紙袋を窓からポイっと投げ捨てるとMに「ここまで送ってくれ」と数分前とは違った様子で指示をした。
「…お前、さっきまでの演技だったのか?」
「…演技?何言ってんの?…けど、それがどうかは素直に目的地まで送ってくれたら教えてあげるかもね?」
「…チッ」
Mはフィロメナに質問したが、彼女ははぐらかすような返答をした。
その態度に対してMはめんどくさげに舌打ちをし、黙って目的地へと車を走らせる。
数分前の彼女は薬物中毒者のような感じでふらふらとして呂律が回っていなかったが、港を出てからは薬物中毒者のような様子はなく、いたって普通であり、会話も普通だ。
いや、その様子は「異様なまでに」普通と言った方がいいだろう。
数分後、Mはフィロメナが指示した郊外の目的地へとたどり着き、彼女についていくようにアパートの中へと入る。
ここでもMはフィロメナに対して不信感を抱いた。
「やっぱりあんた頭良いね」
「…は?」
「あんたみたいな悪党ってバカのめんどくさがり屋ばっかだからあたしのあれを見るとそのままにしたりするのに、あんたはそういった事をしなかった」
「…ということは?」
「そう、正解。さっきまでのは演技でしたー」
フィロメナはMにそう言い、にこにこと笑い、説明を続ける。
彼女が港で投げたものの中身は小麦粉とドラッグを8:2で混ぜたもので実質小麦粉なので効果はほぼないに等しい。
だが、少量でも効果が強いものなら話は別だ。
小麦粉で中和されてる「だけ」なので、効果はそこそこある。ドラッグの効果がそんなもんだといえばそれで商売が成立する。
詐欺のような手口だが、おそらく彼女は「騙される方が悪い」といった感覚なのだろう。
「詐欺師みてぇだな」
「そう?だってあんただって分かってるでしょ?この世界は騙しあいの世界でもあるって。…まあ、あんたには説明不要か」
テーブルの上に置かれたマルボロを一本手に取り、火を付けながら話しているフィロメナはそう言い、隣に置いていた銃をMに向ける。
「じゃあ、あたしもあんたに何か「騙してる」としたらどうするぅ?」
「…。」
Mは彼女の言葉を聞き、無言になる。
彼女は薬物中毒者の演技が全てのように言っているが、Mは依頼の段階から違和感を感じていた。
薬物中毒者からの依頼はよくあることだが、大半は全く話が通じないのが基本。だが、彼女は少しろれつがおかしくても返答はする。それに、Mがこうしろと言ったら素直に応じる。
そして、一番の違和感は「彼女を見つけたところ」からだ。
彼女と最初会った場所はコンビニ内で店員とぶつかっていちゃもん付けているところだったが、普通の店員ならそんな客いたら警察に通報するだろう。
だが、してる様子はなかった。
それに、今いるこの部屋の壁、床、家具などが異様なまでに綺麗だ。まるで、昨日まで誰も住んでいなかった一室を何かに使うために準備したかのように。
だが、それらの予想が絶対当たってるという確証はない…。
「ここで外したらどうする?」
「結果は変わらない。当てても外しても結果は一緒」
Mはニヤつきながら一言言うと、フィロメナは同じように返答した。