不思議図書館・追「8:窮追(きゅうつい)」(前編)

ノーヴを圧倒した、新しい姿のむつぎとゼルル。しかし、その隙をついたスーの一撃が、みるを引き裂き、倒れたみるの魔力を奪い始めた。そこに現れたレインの言葉を受け、誰も何もできずにいた…。

「レイン…貴様が、みるを狙っていた真の黒幕か。」

「ええ。精霊を引き込み、ふらふらしていた魔界の王子に入れ知恵し、不思議図書館世界の管理者権限を奪って渡して…大変でしたよ。しかし、これでもうみるは女神になるなどという馬鹿な考えは持てない。無力な人間らしく「私に」飼われていれば良いのです。」

「ああ…やっぱり、貴様も…。」

「はい、欲しかったのです。愚兄が持っている愛らしいペットが。ですが力は本物の女神の力ですからね…。手を出せずにいたところに、仕え魔になれそうな精霊が現れたので、みるが愚兄から離れている間にじっくりと懐柔させていただきました。…貴方や大悪魔がいたせいでかなり計画が遅れましたが…王子サマのお陰で何とかなりましたし。」

「っ…貴様!!」

「動くと、みるを治療する時間が遅くなりますよ?私は最悪、仮死状態でも持って行ければ構いませんが。」

誰もレインと、スーを止められない。その状態がとても歯がゆかった。

『(それでいいのですか!?スー!!)』

その時、どこからか響き渡る声。それは間違いなくスーの双子の精霊、エーナの声だった。

「エー…ナ…?」

『(仕え魔の使命は、主と共に在ること…主を助け、主の心を汲む…私達がミィとしたかったのは、そういうことでしょう!?主に刃を向けることではありません!!)』

「で…も…ミィは…ボク達を裏切って…」

『(裏切っていません!!貴女に首輪と腕輪、そして鈴を付けて、言葉巧みに騙したのは、レ・・様で・・・・!!)』

「おや、ちょっと封印が緩みましたか?貴女は一生そこで黙っていてください。私が求めたのは女神の力でも「シル」様に適性がある方。陽の「ソル」様に適性のある貴女は大人しくエサになっていてください。」

そう言ってレインが取り出した宝玉の中心には、黒い何かが渦巻いている。レインが魔力を込めると、黒い何かは宝玉の中で大きくなった。

『(うああっ!!)』

「そんなに主と一緒になりたいなら、貴女も仮死状態にしてあげますよ。」

「ーーそこか!!」

一瞬、紅い何かが飛んで来たと思った直後、レインの持っていた宝玉はバラバラに砕ける。

「今だ!!」

すると、倒れていたみるが赤い血溜まりごと蜃気楼のように消え、無傷で銀色の鎌を降り下ろしていた。

…パキッ!!っと音を立てて壊れる、スーの首輪と腕輪と鈴。

「来い!みる!」

みるは、声の方に飛びあがり「宝玉から出てきたもの」とスーを両手に抱え、思いっきり投げた。その先には…

「…カルムっ!!」

弓を抱えながら、白と黒のウサギのぬいぐるみを手にしているカルムの姿があった。

宝玉から出てきたもの、つまり封印されていたエーナは、白いウサギのぬいぐるみ。

レインの支配から解放されたスーは、黒いウサギのぬいぐるみに吸い込まれていき、しっかりと収まる。

「えーちゃん!すーちゃん!」

2人を飛んで来たみるに手渡すと、カルムは魔法陣を展開させ、弓をレインに向けた。

『魔弓よ、その血を流星に!ブラッディ・スター!』

放たれた1本の赤い矢が、すぐさま複数に変化し、レインを壁に張り付けにして動きを封じる。まるで、みるの弾のように精密に、だが刃物のように鋭い。

「なっ…なぜここに…それに…確かに、みるはスーにやられたのに…!」

「確かにやられたと思うだろうな。別世界から観戦して機をうかがっていた貴様なら。」

「まさか…いや、いくら幻影が得意な神霊がいても「世界を超えて」幻術をかけるなんて…!」

「私にはできないわね。でも「個人を特定」していて「魔力や操作をみるが肩代り」していたら?」

「…っっ!!!」

ちょっと疲労が顔に見えるユリィの言葉に、唇をかみしめて睨み付けるレイン。

「ここに来る前、精霊の森から帰った後、黒幕の狙いが図書館ではなく、みるだと推測して、レフィールとカルムに伝えたわ。」

「そして私とレフィールで、みると関係のある人物を片っ端から脅し・・・話を聞いて、最終的にお前に絞った。」

「今「脅して」って言わなかった?」

「そして突入前にユリドールの転送先を私の屋敷に固定。ユリドールは幻術を図書館全体にかけ続け、みるが更に効果を上げて「他世界から見ても」幻術がかかるように操作する。更にレフィールが、お前に幻術を固定して様子を伺う。…おかげで今、私の屋敷がある世界は本だらけだがな。」

図書館の本の行き先が、カルムの所だったとようやくわかる一同。

「本がなだれ込んだ時点で、私はみるの自宅から精霊達の器になる筈だったウサギのぬいぐるみを持ち出し、お前が現れてエーナを捉えている物を出すまで待っていた。」

「…ちなみに、エーナがスーに呼びかけられたのは、スーが私から魔力を奪っているところから、逆に私が浄化された魔力を「ウサギ耳」に送っていたんだよ。2人の共通点で、声が届く場所だからね。これは師匠がエーナに教えてたやつを聞いて閃いたの。」

二人のウサギを抱きながら、立ち上がってレインに告げる、みる。

「そもそも、どんな隙や懸念材料があっても、無防備なみるをレフィールが何もせずに傷つけさせる筈がないのよねぇ。」

やれやれと首を振るユリィの一言が、最大の納得材料だった。

カルムはレインに近づき、再び弓を構える。

「お前の計画はこれで破綻だ、愚弟。」

「…ふふ…そうですか…少々なめすぎていたようですね。ならば…潔く…」

レインは自身の魔法陣を展開してカルムの拘束を破り、同時にノーヴを抑えていた、むつぎの魔法を破って強制的にノーヴを引き寄せた。

「その「やり切った状態」の貴方達と戦いましょうか。」

レインはどこからか魔導書を出してページを開く。くしくも、むつぎと同じ魔法道具だ。

「残念ながら、私もカルムと同じく魔術師。それも現を抜かしていた誰かさんとは違いますから、付け焼き刃の魔導書使いとは違いますよ?」

ノーヴは虚ろな瞳をしながら、悪魔の羽を現し、レインを守るように前に出て槍を構える。

「ノーヴ!やめて!」

「もちろん王子サマにも魔術をかけてありますので。ただ、こっちは精霊と違って本体に直接施したので、小道具はありませんがね。」

イミアの声も届かないノーヴの様子に、レインはフフッと余裕の笑みを見せた。

「これは…やばそうだ…。」

サラミの呟きを否定する者は、誰もいなかった。

終わる。or 関連本の追求。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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