…親友と交通事故に巻き込まれ、気が付いたら乙女ゲームの世界のサブキャラ(名前のある脇役)になっていて、親友はその友人のヒロインになっていた。
確か「LOVEらぶ☆メアリーファンタジア」とかいうタイトルだったはず。魔法がある世界で、魔導学園に入学し、3年間でイケメン男子キャラ達と愛を深め、卒業式でエンディング…という2000年代初頭時の乙女ゲームのテンプレみたいな内容のゲームだ。親友はゲームの声優さんのライブに行く程のファンだったので、大喜び。
「やったよミルン!私、ヒャルたんになっちゃった!なんか前の名前忘れてるけど!」
ミルンは私ことヒロインの友人の名前、ヒャルたん…もといヒャル・カナリルワ男爵令嬢がヒロインの名前。ファンの間では「ヒャルたん」と呼ばれている。金髪にピンクのメッシュを入れたストレートボブの髪の、元平民。実は行方不明だった男爵の娘で令嬢の頃の記憶は無いという設定。一方、友人の自分は魔法の成績が優秀で平民枠で入学する。そしてヒロインに男子キャラの情報やアドバイスをする役なのだが…
「え、私ミルンより「らぶ☆メア」知ってるから大丈夫だよ?」
友人はこのゲーム…通称「らぶ☆メア」を私より知り尽くしている。だから私の出番は実質的に無い。
「じゃあ、学園で会おうねー。ミルン!」
もの凄く上機嫌で去っていくヒャルをやや冷めた目で見送る私。
ヒャルはわかっているのだろうか。勉強も魔法の練習も、決定ボタン1つで終わるゲームとは違うことを。確かにゲーム通りに事は運ぶかも知れないが、その先は?周囲の人物の感情は?政治や世界情勢は?ラノベによくある「断罪、ざまぁ」が起きたら??
「まあ…ヒロインがああなのもお約束だし。」
ミルンは取り敢えず、この世界の決まり事を守って様子を見ることにした。
…学園に入学して、本格的に乙女ゲームの部分が始まった。ヒャルはスケジュールを組んで全ての攻略キャラとのイベントをこなしている。まさかの隠しキャラ含む逆ハーレムルートを選んでいるっぽい。
ゲームでは背景の人物まで映らないが、1人の少女を何のわだかまりも無く複数の男性が囲んでいる姿は…まるでキャ○クラみたいだ。テレビでしか見たことないけど。
それをヒソヒソと他の生徒が注目して小声でウワサしている。婚約者らしい女子生徒は、なぜかハンカチーフを嚙みしめて「キーッ!」と悔しそうにしながらも、特に何もしない。誰も何もしないのは、恐らくこれが「ゲーム進行中」だからだろう。
「(なぜか料理が日本の物そのまんまなのも、ゲーム様様なのかね。)」
そう思いながら、私は今日のランチの味噌汁をすすった。
…何だかんだありながらも、ゲームの進行には逆らえないので、おかしいと思いながらも3年が経過し、ついにエンディングの卒業式。
「私は1人になんて選べません!みんなでこの国を支えていきたいです!」
ヒャルの逆ハーレムルート用の感動的?な台詞で、卒業式用のパーティー会場は拍手の嵐。
そして…このゲームで唯一、私が納得がいかないイベントが始まる。
「でもその為には…ミルン!私は貴女の悪事を告発しなければなりません。」
そう、友人で情報通なミルンは、王子様の情報を得る為に、王族しか知ってはならない情報まで知っている。・・・しかしそれをヒャルに教えてハッピーエンドに導いているのに、コレなのだ。ましてや今のヒャルは私から何の情報も得ていない。
「罪人の魔力を抜いて、捕らえろ!」
王子の一声で護衛の魔法兵士が集まり、私の魔力を奪っていく。そこへ…
「やめるんだ!兄上!」
王子の弟、登場〜。今から起こること?もちろん私は無実でヒャルが断罪される。これがいわゆる「ざまぁ」ってやつだ。
「ねぇ、ゲームの進行は?」
「え?」
私は隣にやってきた王子の弟に問う。
「これじゃあゲームと違うじゃん。まだゲーム終わってないよ?」
「良いんだよ、だってこれは「乙女ゲームに転生した話」なんだから。お花畑で舞い上がってる親友でヒロインを、サブキャラで最後に無実の罪で裁かれる主人公がヒーローとともに全員ギャフンと言わせて幸せになる。そういう話だよ?」
「うん。じゃあ話を変えよう。どうして「本当に」2人の女の子を話の中に入れちゃうの?」
「・・・・・は?」
「何人の女の子が、やりたくもないヒロインをして、やりたくもないサブキャラをやって、友達を…親友を断罪して悲しんだと思ってんの?その後、現実に戻った2人はどうなったと思う!?」
「もちろん、みーんな、破滅したよ。自ら現実から去った子も何人もいた。だから何?その破滅が僕の栄養なんだから仕方ないでしょ?友達に売られる絶望感…たまらなく美味しいんだよ。」
「あーそうですか、そうですか。」
「ところでさぁ、キミの名前。確か設定だと「ミラン」だった筈なんだよね。」
「そうだね、サブキャラになった主人公の名前は「ミラン」だね。でも、私は…」
私は隠していた銀色の鎌のチャームを手にし、本来の大きさに変えて振るった。
「「みる」だから。」
パーティー会場が、破れた紙のようにバラバラになっていく。ヒロインだった女の子の魂も、元の世界へ戻っていった。
「お前…僕のエサを…!!」
「本当の破滅と絶望を…教えてあげるっ!!」
銀色の鎌は、王子の弟の姿をした、悪意の集まりを切り裂いた。
・
「あーめんどかった。」
「おかえり、みる。冷たいジュース飲む?」
「さんきゅー、むつぎ。あと、これね。」
本の中から戻った、みるにむつぎはジュースを用意する。そんなむつぎに、みるは本を手渡した。タイトルは【乙女ゲームに転生したら、親友はヒロインで私はサブキャラだった。】という、2008年に発売し2年後に再販もした、そこそこ人気があったライトノベルの原本。
そこには、主人公が王子の弟と出会った時に区切りがあり、別の誰かが後の話を加筆した形跡があった。
作者は本当は主人公とヒロインを断罪したくなかったので、そこで筆を止めたが「売れたいと思う誰か」が続きを書いてしまった。書いた者が、読者が、もっと断罪を、破滅を、絶望をと望む思いが、本に悪意の集合体を生み出してしまい、悪意は本当に現実の女の子を本に引きずり込んで、その後の破滅と絶望をエサにして生き続けていたのだ。
その悪意を、みるは斬った。もう誰かが被害者にも加害者にもなることはない。
「こういうのが何冊もあるんだろうな~。」
「だろうね。その度に行くんだろう?」
「そりゃあ、影響が出るくらいなら行くよ。作者さんの良心も、本も、苦しいだろうし。」
そう言って、みるはジュースを一気飲みした。
ここは、あらゆる本が置いてある不思議図書館。本の中に入り、宿る想いを観る力を持つ少女「みる」は今日も本を手にする。
ー今日の本は、どんな本でしょうか?ー
不思議図書館「乙女ゲームに転生したら、親友はヒロインで私はサブキャラだった。」
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※補足…今回みるはヒャルになった転生者の親友の願いを感じ「ミラン」役を「ミルン」という代役に変えて入っています。ヒャルの転生者の情報は親友から教えてもらいました。
(10/11、サムネ変更・加筆修正。)