みるがやられた…と思ったのは、ユリィとみるが見せていた幻影で、加えてレフィールとカルムの暗躍で見事、黒幕のレインを引き摺り出し、エーナとスーの2人の精霊を助け出せた。
だがレインはノーヴを操り、自らも愛用の魔導書を開いて戦闘態勢でいる。
改めて戦闘態勢を取る、カルム、レフィール、むつぎ、ゼルル、サラミ。そんな中、ユリィはイミアとみるを呼び寄せて言った。
「イミア、もう王子サマがやられる姿を見るのは辛いでしょう。みるとウサギ達と図書館を出なさい。」
「先生の言葉でも、イヤです。あたしはこの戦いの最後までノーヴの傍にいたい。それがノーヴに気づいてあげられなかった、あたしの責任です。」
「私も、みんなを残して出るなんて出来ない。だから師匠が、えーちゃんとすーちゃんを連れて…」
「私も戦いますっ!」「ボクもっ!」
首を横に振るイミアとみる。それに続くように、みるの腕の中から2匹のウサギのぬいぐるみが動いて顔を上げた。
「2人はダメ!ただでさえレインに痛めつけられているのに…。」
「そのレイン様に一矢向くいたいのです!」
「勝手に誘拐して、勝手に操って、やられっぱなしなんてヤダ!絶対にお返ししてやる!…よくもボクにミィを傷つけさせようとして…」
「気持ちはわかるけど、今の2人じゃ…。」
「なら、今ここで仕え魔契約をしなさい。」
「は!?」「「えっ!」」
ユリィの一言に驚く、みる。そしてちょっとだけ目を輝かせる2匹…いや2人のウサギ…エーナとスー。
「そうすれば傷も治るし、魔力も増大するわ。」
「でも、契約はそんな早く終わらないし…。」
「私とイミアで防御するわ。…覚悟が決まったら、思念話で他の人にも宣言しなさい。」
思念話とは、思うだけで相手に言葉が届く会話方法。敵や遠くの仲間と声に出したくない会話をする時に使えるものだ。
「えーちゃん、すーちゃん…。」
みるはエーナとスーを見る。やっと再会できた初めての友達。だが、自分に関わったせいで2人は今まで酷い目にあったのは事実。まだ、みるには2人をレフィールのように全てを共にする覚悟はなかった。
「私は…私は……」
せっかく自由になったのに、自分のせいでまた縛られてほしくない。みるの気持ちはそれだけ。だが…
「ミィ、私達は「こうなる事」も全て受け入れると誓ったのです。」
「そう、ボク達はあの日の前の夜に、そう誓った。だって、女神の仕え魔だよ?狙われるなんて当たり前じゃん。」
「今回のことで私達は、ミィを責めたり、仕え魔を辞退したいなど思っていません。」
「むしろボク達は助けてもらった側なんだ。だから…」
「「みる、共に貴女の力になりたい。」」
ギュッと小さな2つの手が、みるの手を握る。
みるは目を一瞬閉じ、それから開いて頷いた。
『みんな!今から仕え魔契約をするから、レインとノーヴの気を逸らして!』
思念話で仲間達に宣言した、みる。誰もそれに反対せずに動いた。
その間、魔法陣を展開させたみるは、星型のブローチからハート形の宝石を現す。
【願望の双女神の魂に誓い、ここに契約を為す。この2人の精霊を我が仕え魔とする。】
2人の身体がウサギのぬいぐるみから、少女の姿へと変化を見せる。
「っ…仕え魔契約!?止めなければ…」
ノーヴに強化魔術をかけながら、攻撃魔法を放っていたレインが気付き、攻撃対象をみるに絞って攻撃魔法を繰り出したが…
「「させるか!!」」
レフィールの黒い羽根とカルムの赤い矢が雨霰のように降り注ぎ、それを阻む。
「今みるに、指1本でも出してみろ。」
「絶対に斬り倒す。」
「あの2人…相当怒っていますわね…罪な女神ですわ…。」
コウモリ人形達を操りつつ見ていたゼルルが、ボソッと呟く。
「そしてこちらはこちらで…」
ゼルルが振り返ると、大悪魔化したむつぎがノーヴの槍を完全に防御し、背後からサラミが掴みにかかり、むつぎの陰からイミアが大剣を振るう。
「やめて、ノーヴ!目を覚まして!」
大剣が不発になる度、むつぎとサラミがイミアをサポートして前にいかせる。ノーヴを正気に戻せるのはイミアしかいない。皆わかっていた。
「やっぱり大変ですわね、外の世界というのは。」
「あら、御令嬢様には外は広すぎたかしら?」
「…言ってくれますわね?魔女幽霊。」
「やっぱり貴女はスキじゃないわ〜。でも、言い争いをしている場合ではないわね。」
「…そうですわね、防御魔術でも組んでおかなければ。」
ユリィとゼルルの視線の先では、みるとエーナ・スーの契約が終わりつつある。
「一応聞きますわ。契約した女神はどうなりますの?」
「残念ながら…私もわからないわ。だって…」
みるの魔法陣が消えると、そこには少女姿のエーナとスーが、尻尾に白いリボンを付け、衣装も少々変化して立っていた。
特に、みるに変わった様子はない。
…だが…
「行くよ、エーナ、スー!」
「了解ですっ!」「任せてよ、ミィ!」
『フォーカシング・リレイション!』
『サイド・スーシル!』
パンッ!と3人が手を合わせると、桃色だった魔法陣に銀色の光が増え、みる達を銀色の光が包む。
一瞬で銀色の毛先と瞳の光を持つ姿の、みるが現れ鎌をくるくると振るった。
「さあ、銀色の女神の破滅と絶望!」
【たっぷり味合わせてあげる!】
みるの口からの声と、スーの頭に響く声がこだまする。
「…彼女は「人間の少女で女神」だもの。」
ユリィは彼女達の可能性に、ただ驚愕しながら言うしかなかった。
終わる。or 関連本の追求。