ある日の放課後。
残っている女生徒たちが椅子に座って窓際で黄昏れている、シアの姿を見て言い出した。
「あのさ、少しお話があるんだけど聞いてくれない?」
「そうそう、肩の力を抜いていいんだから」
シアが彼女たちの方を向き頷く、それも睨みつけながら。
「何かしら?」
「公園の近くにあるお化け屋敷って知ってる? あれってもう少しで閉まっちゃうんだ」
「そこでなんだけどホラーが得意そうな、シアさんと行きたいなと思って」
「しかも学生無料なんだよね。運試しにうちらで行こうよ」
シアはお化け屋敷という言葉を聞いて少し難しい顔をした。
クラスの多くは知っている、彼女は魔女と呼ばれるくらいオカルトには詳しいのだ。
俺、城ヶ崎狂哉(ジョウガサキ・キョウヤ)は彼女たちの様子をじっと見ていた。
「……いいわよ。いついくの?」
「やった! 明日の休日なんてどう?」
「勿論、来ないなんてことないよね?」
「私はウソはつかないわ」
きっぱりとした声で言うと、彼女たちは悔しそうな表情をしながら教室から出た。
「ぜ、絶対に来なさいよね!」
「待ってるから」
(何をやってんだか、くだらねえ)
緊迫した空気はすぐに消えた。
他の生徒たちは焦った顔をしながら話し出す。
「え? お化け屋敷ってあそこの⁉」
「ウワサだと入ったら二度と帰ってこれない、ってやつだよな……」
「あいつら正気かよ……マジでやめたほうがいいって」
確かに風の噂でその話は聞いたことがある。
だが皆、俺の方を見た瞬間逃げるように教室から出ていった。
どうやら怖がられているらしい。
シアがため息をつくと俺は立ち上がり彼女のほうへと向かう。
「おい、別に気にすることはないだろう」
「仕方がないでしょ。これは私の問題なんだから」
「いずれ、後悔するぞ」
「別に。あなたには関係ないわ。アンニョン(さよなら)」
彼女は立ち上がり、教室からささっと出ていった。
俺は少し腹が立ち考え事をした。
「……ちっ! なんだよ。あんな顔はウソの顔だぜ」
シアの瞳が一瞬だけ切ない表情に変化していたのを見逃さなかった。
俺の中で何かが、こみあがってくる。
(なんだよ。この胸騒ぎは。絶対、あいつを救いたい……)
悔しい自分とどうでもいいと思う自分がいる。
だが、自分が想ったことだ。
何を言われようが構わない、覚悟だってある。
だが、俺はあいつがただの人間ではないと思い始めた……。