だがまだ安心はできない。
シアが落ち着き深呼吸する。
俺は後をつけていたと謝った。
「気にしないで。まさかあなたが助けに来るなんて思わなかったから……」
「いいってことよ。だが……どうやって出るかだな」
お化け屋敷には来たものの、俺は入る前に受付のヤツが何か仕掛けたことを見逃さなかったのを思い出す。
(あの笑顔……今度会ったらタダじゃおかないぞ!)
霊は気に食わないが、シアをここに置いていくことなどできない。
だから俺は彼女に言った。
「頼む! シアの知識でここから脱出する方法を考えてくれ」
「……もちろんよ。ちなみに狂哉君って霊感あるの?」
「ああ。最近になって目覚めた。多分親を失ったからだろうな」
「……チンチャミアン(ごめんなさい)」
「あ、謝るなよ」
気まずい空気になってきた。
なにか別の話題はないだろうか。
「あー、シアはなにかこう……霊能力とか使えるのか?」
「いいえ。確かに霊感はあるけれど能力は使えない。昔から狙われやすい体質だから」
そう言うと彼女は自分の首につけている円形のペンダントを見た。
アンティーク調っていうのだろうか。
とにかくお嬢様が持っていてもおかしくないくらい高価そうなものだけはわかる。
十字架のマークが描いてあるということは、クリスチャンだろうか?
「そういえば、あなたはどうして出られないってわかったの? なんの証拠もナシに」
「あの受付がやりやがったんだ。もちろん霊だったし……そう簡単に帰してくれるはずない」
「けれど、あの子たちは逃げたのよ?」
「知らねえよ。自業自得ってヤツだな」
あの時、そいつが鍵を閉める仕草をしているのを少しだけ見たのだ。
もしウワサで言っていたように、二度と帰ってこれないのがマジだとしたら。
俺たちは完全にはめられたのだ。
辺りを見回すが誰かが襲ってくる気配がない。
「なあ。お化け役がどこにも見当たらないが……」
するとシアはため息をついてとんでもないことを言う。
「彼らは……本物よ。けれど半分が幻ね」
「マジかよ⁉ なんでもアリだな……」
無料だとかインチキかと思っているよりも深刻な話になってきた。
ただここで立ち止まっても仕方がない、いつ襲いにくるかもわからない。
俺はシアに手を差し出す。
「行こうぜ。必ずここから出るぞ」
「ええ」
シアは立ち上がりスカートの裾を直す。
この不気味な空間からさっさと出て行きたいものだ。
「あ、言い忘れていたけれど」
「なんだよ急に」
シアは真剣な眼差しで俺の目をみた。
緊張してきたのか手が震えてくる。
「私ね、魔女の末裔なの」
「は?」
「意外かもしれないけれどね。他の子には内緒よ?」
「……マジかよ。わかった」
俺は今の発言で何を信じればいいかわからなくなってしまった。
悔しいんだよ、自分は信じたくないが。