「は?」
(まずい、混乱してきたぞ……)
冷香がシアを誘拐でもしたのか、それとも別の何かではぐれたのか。
どうしたらいいか悩んでいたとき。
『お前、誰かとはぐれたのか? 正直に話していいんだぜ?』
低い声が俺の耳元でささやく。
振り返ると、そこにいたのは黒ジャケットにファーがついていて十字架のピアスを耳につけている茶髪の男だった。
高身長で俺を見下ろしているその鋭い目は、どこか得物を狙っている怪しい目にもみえた。
「お前……何者だ?」
『俺はアダン・ライオンハート。ここの幽霊屋敷に迷い込んでね』
「そうか。俺は城ヶ崎狂哉。じゃあ聞くが、知り合いがいないとなぜわかった?」
アダンはゆっくりと俺に近寄り、両手をつき口から牙を出し唸り声をあげた。
(なんか獣の匂いがするのは気のせいだろうか……)
『勘だ。俺は幸運なことに五感が優れていてね』
「マジかよ」
すると窓側のカーテンが勝手に開き月の光がアダンに差す。
嫌な予感がした俺は逃げようと抵抗するが彼は放してくれそうにない。
『だって俺、狼男(ウェアウルフ)だからさ。たとえお前がどんな理由があれ勝手についていくぜ』
「はあ!?」
『どいつもこいつも俺を視て逃げ出すんだよ。でもお前は違うようだ』
「おい! 何をするんだ!」
アダンは俺に構ってほしくて仕方がないようだ。
俺はこいつの姿が少しずつ変貌していく様を見ていることしかできなかった。
『狂哉っていい奴だな。一目みただけでわかる』
「おい、至近距離近すぎんだろ! 調子狂うな……」
『可愛いヤツだ。なんなら首輪で縛りつけてもいいぜ?』
「ふざけんな! お前に好かれる筋合いなんてねぇよ」
なぜなら、足が震えて動かないから。
クソ……シアはどこに行ったんだ。