「だから! 別に俺はお前の餌になるつもりはねえよ!」
『でもよ。見つけてしまったのは仕方ねえじゃねえか?』
俺はアダンが今にも良からぬことをしようとしているのを全力で止めていた。
いきなり耳や尻尾が生えてきたから最初は驚いたが、なんだかこのままではまずいと思った気がして。
両手を握りしめ両者、にらみ合い。
「俺がいったい何をしたっていうんだ? はっきりしろよ……」
『本能には逆らえないんだよ』
「てめえ……!」
「あの!」
どこかで聞き覚えのある声が耳に届き、無意識に俺はアダンにケリをつけていた。
(シアだ、彼女に違いない!)
「どこに行っていたんだ。探したぞ」
「私も驚いたの……。冷香さんが助けてくれたから」
「冷香? ああ、この雪女が守っていたのか」
しかし、冷香がアダンにたいして何か言いたげの様子。
俺はシアに今まで何があったのかを問う。
そして一言。
「……逃げましょう。狂哉君」
「は?」
(なぜだ、意味がわからない)
逃げるとはいったい。
するとシアは言った。
「今、気が付いたの。だって……」
俺はいつの間にか、シアに手を握られていた。
すると、冷香とアダンが恨めしそうな顔で俺らを見る。
「え? マジでどういうこと?」
「私たち、このままだと一生出られないわ」
気がついたら俺とシアは走り出していた。
彼らを置いてどこまでも。
「試していたのね……今なら脱出できるはずよ」
「おい!」
だが、彼らは何を伝えたかったのだろうか。
闇の中で二人が言う。
『やっぱり……逃げ出したわね』
『あーあ、でも俺は二人を諦めたつもりはないから』
『これからどうするの?』
『決まってんだろ』
声はどんどん遠ざかる……。
無事に戻ることができた俺とシアは出口前で息を整える。
しかし俺は気がついていた。
シアが言った発言、試していた。
彼女は最初から知っていたのだろうか。
まるでこの場所を全て理解しているかのよう。
それ以来……俺は記憶がない。