※注意 この物語には一部百合要素、流血、ホラーな描写があります
※挿絵 Cici AI https://www.ciciai.com/chat/bot/discover?tagId=1
ACT4 力と呪縛の密室
【月冴 視点】
私は思わず目を覚ました。
時刻は午前五時半。
別に悪い夢をみたわけでもない。
ただ、昨夜の件。
あのイタズラは、きっと。
「何か、【ある】な。ここは」
早起きして、私服に着替えた私は部屋から出た。
栞里はまだ眠っているだろうな。
二階へ降りる。
「ん?」
自慢じゃないが、私は【匂いに敏感】だ。
(これは……薬品か)
そういえば……ここには昔、科学者がいたと話に出てきたことを思い出す。
私はその【匂い】の後をたどって行った。
「この部屋だな」
ノックをしてドアを開ける。
「ここは……研究室か」
まわりには、テーブルにフラスコや何かの薬品が厳重に保管されている。
大きなレントゲンもある。
「本当に科学者が使っていそうな場所だな」
するとあるものに目がいく。
鎖?
繋がれている形跡がある。
そこをたどっていくと。
「げっ」
思わず声をあげた。
そこにいたのは、鎖に繋がれている背の高い男が眠っていた。
しかも顔や腕に縫い目が所々に目立つ。
どうやら、いかついロックな男ではなさそうだ。
「マジかよ」
コイツがなんなのかわかった。
私は、この場所が危険であると知りすぐここから出ようとした。
しかし……。
「おいおい。冗談キツイぜ。まさか密室だと?」
さっきまで開いていたのに、急に閉まるとか。
起きて栞里が鍵をかけたとも思えない。
すると、大きな唸り声が背後から響いた。
「なっ⁉」
繋がれていた鎖を解き放ち、そいつはゆっくりと私を見る。
振り返るのを後悔した、大きな手が伸びる。
「は?お前は……」
『やっとみつけた。オレの創造主が』
私は彼のことをじっと見つめる。
無意識にドアに向かっていた。
「開かない」
『どうした、お前』
ジェスチャーで伝えてみる。
(なあ、フランケンシュタインの怪物)
『行かせないぞ。人間』
お互いに、にらみ合い続けた……。
【栞里 視点】
ひたひた……。
わたしは息切れしながら、ベッドから起きる。
「はあっ……はあっ……夢か」
イヤな予感がしてあたりを見渡す。
(先生は、どこ?)
無事でいますように、と心の中で唱える。
わたしは急いで私服に着替えて身なりを整える。
「こんな、なさけない姿じゃ、意味ないよ……」
その時、別の部屋から誰かの悲鳴が聞こえた。
「あれは……先生の声だ!」
わたしは急いで声のした方へと向かう。
(今から助けないといけないのにっ)
わたしなんてどうでもいい、先生が無事なら。
ドアを強く開ける。
「月冴先生っ!」
しかし、彼女の姿はどこにもいない。
気のせいじゃなかった、あれは間違いなく先生の声だった。
自慢じゃないけれど、わたしは【耳】がいい。
勘が当たっていればいいけど。
「どこにいるの……?月冴先生……」
するとドン!と何かにぶつかった。
「きゃっ!」
体制を崩し、思わずしゃがみ込む。
さっきの声は本当に?寝ぼけているわけでもない。
「これは?」
大きな黒い箱が置かれていた。
楽器ケースにもみえてくる。
ぶつかったのはこれのことだろう。
「開けてみる?」
あんまり中身を開けたくないが、好奇心が勝ってしまう。
わたしはゆっくりと蓋を持つ。
「うううっ……! ええいっ!」
重たい、何が入っているのかが気になるばかり。
思い切って深呼吸。
ゆっくりと見ていくと……。
「ひっ」
中には男性が横になって眠っている。
黒いトレンチコートがよく目立ち、顔立ちもいい。
(も、もしかして。月冴先生が話していた【教授の遺体】だったりして……)
その時、彼の目が醒める。
怖くなってきて、思わず後ずさる。
するとドアの方から違和感を感じた。
つーっと冷や汗が流れる。
「まさか」
わたしはドアを開けようとした。
けれど……。
「うそ……開かない」
何度もドアノブを回すが開く気配がない。
すると背後から足音がした。
思わず振り返ると……。
「きゃああああああああっ!」
『君かな?俺のことを起こしてくれたのは』
箱で眠っていた男性が興味深そうにわたしを見つめる。
(あれはもしかして、棺⁉)
わたしは後悔した。
声に騙されて密室に閉じ込められた。
「ゆ……許してください」
『気にしていない。ああ、なんて可愛らしい娘だろう』
自分がしたことを呪い、思わず涙が止まらない。
男性が口から鋭い犬歯を出す。
「あっ……」
『おや。気絶してしまったか。だが、安心しろ。俺が傍にいてやる』
ACT6 交渉タイム
【月冴 視点】
やっぱり私には、我慢という言葉が似合わない。
黙っていても仕方ない。
だったら話してみるか。
「えーと。起こしてしまったらすまない。三条院月冴だ」
『オレは、チェイス。ツカサはオレが怖いか?』
「……最初は驚いた。ここから出る方法を考えよう。無駄な争いはしたくない」
『そうか!同意するぜ。力仕事なら任せろ』
意外と交渉って簡単なんだな。
それはそうと、脱出するのが先だった。
何か手がかりがないか、辺りを探す。
チェイスは私を興味深そうに見る。
「まさかお前が仕掛けたんじゃないだろうな?」
『疑っているのか?違うな、オレはずっとここで眠っていただけだ』
「ならいいさ」
こんな怪物の男と話すのも変な感じだが。
本物であることは間違いないな。
余計なことは考えずに策をたてないと。
するとテーブルの下に白く光輝くものがあった。
「なんだこれは」
『クラウス博士?オレを生み出した人間だぜ』
メモらしきものには、二十代後半の男の顔写真が貼ってある。
本名はラーグ・クラウスと書かれている。
だがそれ以降は、ドイツ語で何が書いてあるのかは知らない。
「ドイツ語はわからない」
『あんまり気にするなよ。ツカサは博士がどこにいるか……あ?』
急にしゃがみ込むチェイス。
私は大きな衝撃でゆらりと体制を崩す。
そして、彼が私を鎖で巻きつけた。
「な、なんだよ……」
『お前。クラウスか?』
私はチェイスの発言に違和感を覚える。
「は?どういうことだ」
『ツカサは、クラウスだったのか!ああ、やっと会えたぞ花嫁に!』
するとフラスコやテーブルがガタガタと音を立てる。
窓ガラスも割れた。
ドアが開き私はチャンスと感じ、無意識にこの部屋から出ていた。
が、なぜか足が思うように動かずそのまま・・・・・。
栞里 視点
「うーん……」
わたしは目が醒めた。
どうしてこんなに胸が苦しいのかわからない。
月冴先生にはやく会いたいのに。
すると何かに抱きしめられている感覚がした。
「っ……⁉」
大きな箱が棺だと理解し、冷や汗が止まらない。
さっきの男性がわたしの肌を見つめている。
もしかしてと、わたしは震える声で話す。
「あなたは、いったい?……はっ⁉も、もしかして教授の幽霊⁉」
『教授……?俺が、か。どうだろうな』
「お、教えてください。わたしは、美耶栞里ですっ!」
『ほう、良い名前だ。俺はハイマ・グラン。いわゆるヴァンパイアというところかな』
頭の中で電流がビリビリと走ったように、わたしは固まった。
話し方は温厚で教授っぽいが、まさかの怪物。
わたしの行動次第では、ろくでない結末になること間違い無し。
(だから、わたしの肌を見ていたのね)
「あの、ハイマさん。離してもいいでしょうか?」
『栞里、少しだけ我慢してもいいか。俺は我慢できない』
うまく身体が動かない、まるで重いものを持たされているような感覚。
わたしは彼がこれから何をするのかが予想できた。
ゆっくりと、肩の力を抜いて身体を動かす。
わたしはするりと、彼から離れた。
『ほう、少しは勇気があるようだな』
「っ!」
この気持ち悪くなりそうな部屋から出たい、わたしの願いはそれだけ。
彼に構う暇なんてないんだから。
(大きな箱に、ヒントがあるのかな)
あんまり棺なんて見たくないけど。
背後から舌なめずりが聞こえてくる。
犬歯が鋭く、わたしの近くまで迫る。
「あ!」
すると、小さな蝶がひらひらと飛んできた。
雪のように透けて、ドアに向かう。
わたしは蝶に導かれるようにドアノブに手をかける。
「開いた!」
運が良かったわたしは、蝶に感謝してそのまま部屋から出た。
『やはり栞里が……俺の花嫁。もう迷いはない』
低い笑い声が、わたしの耳元に残る。
問題:はたして彼女たちは無事に脱出することができたでしょうか?
答えは読者のみなさんに任せます。
結末に様々な可能性を入れて。
また次回。