solitario: chapter3.Countdown to Collapse「16.A broken heart①」

※この話から犯罪、暴力描写、戦争等のバイオレンス表現があります。できるだけ描写はぼかしますが、苦手な人は読むのを控えてください。 

Mは騒然とした現場から逃げることが出来たが、無関係な市民の犠牲を出してしまった罪悪感は仕事で人を殺める事のあるMでも強く感じる。
頬を伝う血を拭いながら、場所を移動する。

どこに行けば逃げられる…という考えは捨て、「どこにいようが逃げ場はない」という考えに改めることにした。
気づかない間に冷静に考えることが出来なくなっている上に、オリビアの思うがままにされている。普通だったらこの状況で街中にいたらどうなるか予想つくはずだ。だが、今回は逆の発想をしてしまった。
現状、Mは何をしようが彼女の作り上げたいくつものルートのある「シナリオ」の登場人物でしかない。

「…ちっ…くそ…」

Mは舌打ちをした。いや、今の彼女にはそれぐらいしか出来ない…。髪をクシャっと掻き乱し、苛立ちながらどうするか必死に考える。

2001年8月下旬 アメリカ コロラド州
とある小さな町の一家がある場所へ向け、身支度を進めていた。
旅行とかそういった明るいものではない。夫婦はNGO活動をしており、今回もその為の準備だ。

「パパ!まだ行かないの?」

「はは、行くのは明日だろ?そんなに楽しみなのかい?」

家族の少女「メイラ・アールストロム」は両親の慈善活動に初めて参加することになったが、彼女は「旅行」と思っており一人ではしゃいでいた。
家族の行く場所は紛争地帯や貧困など様々な問題があるような場所なので、娘を連れていきたくないのが親の気持ちだ。
だが、両親の家族は慈善活動に反対していて、忠告を聞かなかったことにより絶縁されてしまい、預け先がない。
そういった家庭の事情があり、娘のメイラを「異文化交流」という建前で連れて行く事にした。


それから数日が経ち、9月。
アフガニスタンで両親が慈善活動をしている間、メイラは現地の子供たちと楽しく遊んでいた。
言語は通じないものの、不思議とコミュニケーションが取れており、彼女と現地の子供たちの間には友情が芽生えていた。その光景を見て両親は嬉しくなった。

それから数日経ったある日、慈善団体の基地にある一報が届く。それは、アメリカでテロ事件が起きたというものだ。
テロの規模はかなり大きく、これまでの歴史を変えてしまうほどの物だった。
慈善団体の施設内に「対テロ戦争開戦前に職員を避難させる」という一報が数分後に届き、施設内の職員全員は不安と恐怖の気持ちを必死に我慢しながら部隊が来るのを待った。

それから数時間後、眠りについていたメイラは隣の部屋から聞こえてくる大きな物音で目を覚ました。
現地の言葉で何を言っているのか分からないが、とんでもないことが起きていると察する。

「…!…!!」

「だめ…!そっちは…!」

ドアの向こうで現地民と母親が何か言い争っているのが聞こえ、メイラはとっさに近くの窓から外に出て何とか逃げ出した。

パンッ

外からでも聞こえてくるわが子を守ろうとする母親の声が銃声とともに途絶える。
メイラは何が起きたかすぐに理解できたが、「戻ってはだめだ」と本能で感じ、暗い路地裏を足に切り傷が出来ようがお構いなしにあてもなく必死に逃げ続けた。

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柏木桜

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