ノーヴの心にかかった雲の切れ目から、ゆっくりと落下するノーヴの姿があった。
「ノーヴ!!」
「ちょっ…イミア!手を離したら!」
みるの静止も聞かずに、イミアはみるの手を離してしまった。落下しながらも、しっかりノーヴの手を握ったイミア。
「やっと…やっと手を掴めた!ノーヴ…良かった…あたし、貴方を失いたくなかったんだ。ひとりぼっちになんてしたくなかった。だって…」
涙を浮かべながら微笑むイミア。もしこれで下に叩きつけられても、ノーヴは1人ではない。イミアも1人ではない。
「2人でなら…きっと…。」
どこまでも落ちていく2人を薄桃色の光が包み込んで止めた。
「馬鹿イミア!!」
雲の隙間から光が差し込む中、上からゆっくりと下降してきた、みるの第一声が響きわたる。
「何っっ回言えばわかるの!死んだら意味ないの!2人だろうが1人だろうが、死んだら好きな事もやりたい事もできないの!!」
「みる…。」
「ヤバめ王子の馬鹿が移った?…誰かの為に死ぬ?アホにも程があるよ!!それで喜ぶ奴の為に自分の命を捨てるな!!例え誰もが自分の死を願っても、「その時」だけは自分で決めろ!誰も巻き込むな!アンタもよ、ヤバめ王子!!」
「うるさい…」
まるで頭痛がしているかのように、怠そうにしながらも目を開けて上半身を起こすノーヴ。
「イミアが自分のものだって主張したいなら!自分もイミアのものって自覚してアプローチしなさい!独占したいなら、イミアを正当に愛して、イミアに認められなさい!あと、何であろうと浮気したら絶対に許さない。」
『ミィ、他人の事情に自分の事情を絡めてはダメですよ…?いえ、浮気はダメですが。』
カンカンに怒っている、みるを宥めるエーナ。その怒り具合と理由が、今いる世界…心の主であるノーヴにビシビシと伝わっていた。
「な、なんか…その………悪かったよ…。」
「ん。じゃあさっさと外に帰るよ!」
まだ怒っているのか、恥ずかしくなったのか、みるはプイっと顔を背けて脱出の準備をする。
「みるにあんなに怒られたの…初めて。」
「それだけ、イミアに簡単に死を選んで欲しくなかったんだよ。アイツは。」
そこにノーヴ本人も含まれていることは、あえて口にはしなかった。
脱出中の空間で、ノーヴはイミアにつぶやいた。
「イミア…その…ごめん。勝手に思い込んで暴走して…ブローチの事やレインの言葉に簡単に騙されて…。」
「ううん、あたしこそゴメン。ノーヴの気持ちを全くわかってなくて…。」
「他の奴らにも謝らないとな…。」
「あたしも一緒に謝るよ!それから…ちょっとずつ勉強していこう?一緒に。」
「一緒に…?」
「うん!一緒に!」
「…ありがとうな、イミア。」
そんな2人のほっこりする会話を聞き耳立てる、みるとエーナ。
『(羨ましいですか?ミィ。)』
「(そっそんなことないもん!)」
『(ふふ…帰ったらレフィール様にどう接するか…見ものですね。)』
「(その前にカルムが抱きついてきてまた喧嘩になるんだよね…。)」
『(ミィも幸せものです。)』
そうして2人と1匹?は図書館に帰還し、ノーヴも目を覚ました。
「「みる!イミア!」」『ミィ!エーナ!』
みるとイミアに駆け寄る者達。皆心配していたのが顔でわかる。
「「ただいまー!」」
そんな光景を見て、ノーヴはイミアから返された赤いブローチを床に落とし、足で踏んでパキッと割った。
・・・・フッーー
ほんの一瞬、何か邪悪な気配を感じたノーヴとカルム。それは割れたブローチの欠片が一つだけ勢いで飛んでしまった直後。
まるで意思を持ったかのように壁から壁へ反射したブローチの欠片は、勢いを強めて、ある場所に刺さった。
「えっ・・・・」
イミアの、左胸に。
「なっ…」
「イミア!?」
左胸に赤い染みをつくり、イミアはその場に倒れ込む。
「イミア!イミアっ!」
誰かのイミアを呼ぶ声が、遠く聞こえるノーヴ。
その耳に、何者かの、クスクスと笑う声が、微かに聞こえた気がした。
終わる。or 関連本の追求。