※注意 この物語には一部ホラー、流血な描写があります。また実在の団体、事件とは一切関係ありません。
Prologue ファイル1
『今日はこのくらいにしておこうかしら』
薄暗い部屋で彼女は呟いた。
金髪ロングに黒いブレザー制服に赤いスカーフ、頭には警官帽をかぶっている。
制服の胸元の右側に黄色い腕章があった。
ここは、特別な人間だけが入れる書斎。
何の任務をこなすのか。
黄昏リリカは、その特別な捜査官の一人。
所属は【心理心霊課 サイキック・ファンタズマ】。
送られた【ファイル】を読み、語り手がどんな体験に出会ってしまったのかを捜査する。
だがその裏は、幽霊、妖、魔、怪異を捜査している特殊な仕事。
それにしても、ファイルの内容は怪談ばかり。
「いやいや。まず考えてこの内容は却下。作り話にもほどがある」
イタズラや作り話のダミーまである。
リリカはそれらのファイルを投げ捨てる。
けれど、ひとつのファイルに目がいく。
「まって、これはさすがに……? ああ、これか」
よし、今回はこのファイルを調査しよう。
と言っても実際に現場に行くのではなくて、読まなければいけない。
この語り手は事件にあったわけではなく、とある学生から届いたファイルなのだ。
「なんなら、本にできそうね。これは……興味深いわ」
リリカはくすっと笑うと椅子に座り紅茶を飲みながら仕事を始めた。
すると、ガチャリとドアの開く音がした。
「ふふっ。やっと来たわね。あなたはどうしてそこまで、お人好しなの? 試させてもらうわ」
ACT1 不幸
絶対に負けない、この勝負に勝たなければ。
ある日のS大学の二年の教室。
課題が出された。
しかもレポートで、ジャンルはくじ引き制。
中でも絶対にひきたくないものがある。
それは、オカルトだ。
(普通、民俗学なら国の歴史や人類学の方がまだマシだ)
僕は平凡で普通の生活を送りたいだけの人間だ。
それなのに、ハズレくじを入れるとは。
もし僕がそれをひいた暁には皆の注目の的になる。
しかも、個人ではなくペアのフィールドワークだ。
(絶対に、ひきたくない!)
「次、月城【霊子】君」
「は……はい! って僕のことは【ゆな】とお呼びください、教授」
クラス中が大爆笑。
なぜ僕が本名(マナ)を嫌うのか。
小学生から高校生まで僕は霊感少女、などと言われてきた。
「ねえ、月城さん可哀想じゃない?」
「ああ。彼女には、あのジャンルをひいてもらわないとな」
(……マジかよ)
ここの生徒たちはみんなハズレくじをひきたくないらしい。
ハズレくじは、あと一つ。
「頼む! 僕は必ず他のヤツをひいてみせる」
箱に右手を入れてガサゴソと探した。
ちなみにハズレくじをひいた友木さんは、めちゃくちゃショックを受けている。
怖いのが苦手らしい。
僕は集中した。
「……これだ!」
一枚の紙を取りそのまま席に戻る。
中身には一から八までの数字が書かれている。
四をひかなければいいだけの話だ。
任せとけこのやろう、僕はくじ運だけは神引きだからな。
なぜならおみくじではほとんど、大吉か吉しか引かないという運を持っているからなあ。
だがオカルト、てめえはダメだ。
僕はそっと折りたたんでいる紙を開く。
「うわあああああああ!」
思わず叫ぶと、生徒たちは席に集まる。
教授も驚いたのか僕の方を見て言う。
「大丈夫か? 急に大声だして騒がしいぞ」
「いえ……すみません」
僕のくじを見た生徒たちは歓喜の声をあげる。
男子は喜びのあまりガッツポーズを決める、女子はよかったと安堵。
隣で気まずそうに見つめていた友木さんがやってきた。
「あのさ。月城、話聞こうか?」
「………っ!? い、いやあ、僕は最高に運がいいなあ! これは責任を持って彼とレポートをぜひとも完成してみせよう!」
生徒たちは拍手喝采の嵐、教授もニッコリ。
「よっ! 頼むぜ、月城!」
「友木くんも頑張って!」
僕は、なんとか誤魔化して優等生キャラを演じた。
だが心の中では怒りが収まらなかった。
(どうして? 今まで不運なんてなかったのに)
これが、僕の運命を変える出来事になるとは思いたくなかった……。