第一章 孤独
「茉莉華!またテスト赤点だったの⁉あんたって子は、本当に役立たずね。」と家中に母親の怒鳴り声が聞こえる。原因はテストで赤点を取ったからだ。それでも普通は、慰めるだろう。
でも、これは茉莉華にとって日常茶飯事だった。
「・・・・。ごめんなさい・・・・。次こそは満点とるから許して・・・・。私を叩かないで・・・・!!」
母親が怒鳴ると、茉莉華は震えながら涙目で母親にそう言った。
すると母親はさらにヒートアップし、茉莉華の頬や体中を殴った。
「許して・・・?叩かないで・・・?ごめんなさい・・・⁉そんなの通じないわよw許したくもないね!中学生になっても赤点なんて、情けないわね。エリートな大学を卒業した私やパパより成績が駄目ね。茉莉華が満点になれるように、厳しく躾しないとね。お仕置きを食らいなさいーっ!!」
ーバキッ、ドカッ、パシーン!!ー
「や、やめて!!お母さん・・・!!うっ・・・ひっく・・・!!次こそは赤点とるから・・・・!!」
茉莉華は、殴ってくる母親に泣きながら必死に抵抗した。
「いつもいつもそう言っても点数も運動も駄目じゃない!!パパが帰ってきたら、茉莉華が通ってる学校やめさせるように、手続きしてもらわないとね!!」
「それだけはやめて・・・っ!!学校には大切な友達がいるの!!」
母親が、「学校辞めろ」と言うと茉莉華は猛反対をした。
それはそうだろう。中学生という年齢は受験や部活、勉強などで
イライラしやすい年頃だけど、友達と遊んだり、笑ったりと青春もしてみたいのだから。
「でも、あんたは学校でもいじめられてばかりじゃないwww原因はやっぱり、茉莉華が不器用すぎるのがいけないと思うけどwww私とパパは助けないわよ。自業自得じゃないwwww」
そう。小学校の時から茉莉華は、学校でもクラスメイトや先生にいじめられてた。友達は茉莉華を守ってくれたけど、先生がその子に刃物で脅したため、怖くて守るのを避けてしまった。
茉莉華は国語や絵を描くこと、泳ぐこと、動物と触れ合うことが
得意で大好きだったが、国語以外の勉強や運動などは苦手だった。
ただし、茉莉華の両親は小さい頃から成績が優秀でテストも満点をとり、頭のいいエリートだけが通う大学に通い、父親は病院の院長で、母親は学校の先生だった。そのため、厳しく育てられた。
しかし茉莉華の両親は、毒親だった。茉莉華が小さい頃は、何もなく普通に過ごしてたが、幼稚園生になり、運動神経の悪さが見られると、豹変したかのように急に厳しくなり、成績が上がるように夜中も眠らせないまま指導していった。外出も禁止し、ご飯も食べさせてくれず、気に障ることがあると茉莉華に暴力して育児放棄をするようになった。時には、寒い中家に入れてももらえなかった。
そんな日々を送るうちに茉莉華の心は病んでいく。部屋に籠り、
泣きながら怯えて嘆いていた。服も心もボロボロになり、現実から
逃げるためにリスカを腕にするようになった。
でも、今回は違った。 籠る気持ちどころか家出をして新しい自分を
探したい気持ちが出てくる。中学生にもなったし、親から離れたい気持ちもある。茉莉華は起き上がり、母親の目の前に立ってこう言った。
「私、もうこの家なんか嫌だ!!お父さんお母さんに暴力されるし、怒鳴るし!!縛られる生活も散々だ!こんなクソみたいな親の家なんか出て行ってやる!!」
茉莉華が怒鳴ると母親は逆切れし、ドスドスと音を立てながら父を呼びに行った。
「あんたに助ける人なんていないわよ!!まだ家にいた方がいいのに家出ですって⁉たまったもんじゃないね。パパに叱ってもらおうかしら。」
「お父さんにチクってもいいけど、後で警察に突き出してやるから。」
茉莉華が言い返すと父親が仕事部屋から目の前に現れ、呆れた顔で言った。
「お母さんから聞いたけど、もう何もできないお前の教育には疲れた。茉莉華の顔も見たくないし、産まれてこなきゃよかったな。家を出たいなら好きにしろ。出ていけ!!」
父親がそう言うと茉莉華は、部屋にある荷物をキャリーバックにまとめて家を出て行った。
「やっと地獄から脱出できる~・・・・。あんなクソみたいな親だったら、最初から出ればよかったな・・・・。」
茉莉華は安堵した顔でキャリーバックを引きずりながら歩いた。
しばらくたって交通網を乗り継ぎながら歩いていると、近くに
水族館の建物が見えた。
「あの水族館・・・・、親戚のおじちゃんが働いている所だ・・・・。中に入ってみようかな。」
キャリーバックを持ちながら水族館の建物に入り、色んな魚を見た。
魚を見て特に印象が残ったのは、シャチだった。
「うわぁっ・・・・・。イルカより凄くデカいし、牙もすごい・・・。何を食べて生きているんだろう。」
長い時間の間シャチの水槽を眺めていると、横に家族連れの人達が来た。
「ねぇ、まま!!みてみて!!すごくおおきいおさかなさんがいるよ!!あれ、なんてさかななの?いるかさんよりおおきいよ?」と小さい子供が水槽に指をさしながら親に教えた。
「それはね、シャチという生き物だよ。イルカにそっくりだけど、大きくて恐ろしい生き物なの。」
「へぇ~、そうなんだ!だからはがぎざぎざなんだね!」家族連れは、ハハハと笑いながら楽しそうに見ていた。
でも茉莉華にとっては家族連れを見るのは、とてもトラウマだった。
「・・・・。いいなぁ・・・・。家族仲良しで・・・・・。羨ましい・・・・。私は、親に一度も旅行や外出にも連れて行ってもらったことなんてないよ・・・・。」
茉莉華の感情は、かなり落ち込んでいった。今でも涙が出そうなほどに。すると後ろの方から一人の40代くらいの男性が声をかけてきた。
「おーい!茉莉華ちゃーん!」姿をよく見ると声をかけてきたのは、親戚の浦海和也さんだった。
家系的にいうと私の叔父。すごくいい人で、外出や旅行にも連れて行ってくれる。水族館の館長で、シャチの飼育員。
「和也叔父さん・・・・?」
「やぁ。久しぶりだね。茉莉華ちゃん。元気にしてたかな?」和也叔父さんは、ニコニコしながらそう言った。
「・・・・・。親の行動に耐え切れなくて・・・・、虐待も酷くて・・・、ひっく・・・っ!・・・家出しました。」
茉莉華は精神の限界に、和也おじさんの前で涙をぽろぽろ流してしまった。和也叔父さんは、心配そうに見つめ、茉莉華を抱きしめた。
「・・・・。そっか、そういうことがあったんだね・・・。一人でよく頑張ったね。茉莉華ちゃんは、何も悪くない。そんな家庭だったら二度と帰らなくていい。縁を切って、私達と家族になろう。」
「・・・・!和也さんと・・・・、家族・・・⁉」
和也叔父さんの発言に茉莉華は驚いた。親戚である浦海家と家族になるんだから。夢にも思っていなかった。
「うん。今日から茉莉華ちゃんは、浦海家の家族の一員で愛しの娘だ。旅行にだってお出かけだって連れて行ってやる。何かあっても私達が守る。」
「・・・っ!和也叔父さんっ・・・!」
家族として受け入れてくれる温かい言葉に号泣してしまった。
その後、荷物を和也さんのロッカーの前に預けて、飼育員として和也さんの仕事を手伝い、シャチのお世話をした。
ー続くー