ACT6-3 一番伝えたかったのは
僕はインターホンを鳴らし、声をかけた。
「裕翔?月城だ。いるか?」
すると、慌てた声が聴こえてきた。
「ゆな⁉ 来てくれたのか。助けてくれ!」
不穏な空気が漂う。
僕は右手の拳を握りしめる。
「行くぞ!佐久夜、クライヴ!」
『もちろんよ!』
『お招き感謝する、覚悟しておけ!』
僕たちは急いで中へと入る。
靴を脱ぎ、僕らは裕翔のいる場所へと向かう。
「裕翔⁉ どこにいる?」
「あああああっ……」
僕は二階から裕翔の苦しそうな悲鳴が聞こえた。
急いで階段を駆け上がり、部屋へと向かう。
ドアは開いており、中から寒気がした。
まるでエアコンが壊れているかのような……悪寒が。
「裕翔!」
僕が部屋に入るとそこは異様な光景だった。
白いワンピース姿の少女が長い髪で裕翔の身体をしばりつけていた。
裕翔は涙を流しながら、もがき苦しんでいた。
「ゆな……助けてくれ……」
裕翔にとり憑いているのは、悪霊そのものだった。
見た目が可愛い少女だが、僕は騙されない。
「裕翔!僕は、今からキミを助ける!だから、全てを抱えなくていい!」
「けど……俺の……せいで……」
負のオーラがじわじわと身体に伝わる。
これが霊感に目覚めた、という意味。
「負けるんじゃない!キミはしぶしぶついてきてくれた。確かに、僕にもとり憑いているのがいる。けどそいつらと話せたんだ」
僕は、無意識に御札を取り出して少女の方に向かって走る。
「だから!僕はっ!……裕翔を信じたい!」
御札を貼り付けると、少女は苦しそうな声をあげる。
「これはっ……」
さっきまでしばりつけていた髪が紐のように破れ、裕翔は倒れる。
しかし、少女は僕に目を向けた。
『どうして……私の邪魔するの?彼は私の……』
「キミは何やら勘違いをしているようだ。裕翔をそうやって束縛するのは僕が許さん」
『あなたに……私の気持ちなんかわかんないよ!』
涙声で叫ぶ少女が右手をあげ、窓ガラスが突っ込んできた。
「マジかよ⁉」
もうダメかと思い目をつぶる。
ACT7 正体
その時。
『させないわよ』
佐久夜が口から冷たい冷気を吐き出した。
少女の身体が次々と凍りつき悲鳴をあげる。
『さぁ、お仕置きの時間だ』
クライヴが指をパチンと鳴らすと、無数の赤い蝙蝠たちが現れた。
流ちょうな英語で話したクライヴが、指示をする。
蝙蝠たちは、少女の方に向かい無数の超音波を流す。
『いやあああああああっ……!』
僕は言葉を失った。
佐久夜は、幽霊かと思ったがその正体はまるで……。
クライヴはいつの間にか服装が豪華になって、それはまるで王そのもので……。
「雪女とヴァンパイアロード……ウソだろ」
少女の霊は、ばたりと座り込み動かなくなった。
僕は急いで裕翔のほうに駆け込んだ。
「おい!しっかりしろ!」
「……ゆな」
「いったい何があったんだ。説明してくれ」
裕翔には、手形のアザがついていた。
具合が悪かったのは、このせいなのだろう。
「あの後、声が聴こえたんだ……。女の子のような声が」
おそらく、彼女は裕翔に憑いてきたヤツだろう。
「誰にも相談できなかったのが……悔しかったんだ」
「裕翔……」
それより、佐久夜とクライヴがいつも以上に妖艶で美しい姿へと変貌していた。
少女にとどめをさそうとしている。
『よくも、私のお友達を傷つけるなんて。次は凍らせてあげるわ』
『お前の欲望が、彼を苦しめていた。地獄へ墜としてやる』
取り返しのつかない、バケモノだ。
封印されていた意味が【やっと】理解できた。
しかし、僕はこれではいけない気がしたのだ。
「早まるな!あとは、僕がなんとかする」
『ゆなちゃん?』
『ほう、なにか策があるのだろうな?』
裕翔を傷つけたことは許せない、しかし彼女の未練を晴らさないと意味がない。
僕は霊感に目覚めたんだ。
(一番コワいのは人間だと教えてやる)
「聞かせてくれ。キミの未練を」
少女の霊は涙を流しながら、頷いた。
目が覚めていたら教室の中。
空は夕焼けでキレイだった。
ひと眠りしていたみたい。
さっさと帰らなければいけない。
けど学校から家に帰るまで時間がかかる。
生徒もいないし。
一人で帰るのが何よりイヤだった。
教室から出た瞬間、まわりが熱かった。
焦げたような匂い、火?
いつの間にか、廊下は火の海だった。
火事だ、急いで先生に連絡しなきゃ。
でも誰もいない、もしかして下校時間過ぎてる?
誰でもいいから、助けを求めていた。
そうしたらいつのまにか、自分は倒れていた。
『私は……誰でもよかったの。助けを求めていたのに』
少女はいつの間にか、青白い姿になり宙に浮いていた。
裕翔に話しかけたのは、まさにそれだったのだ。
『でも……私がそこにいるお兄さんに話したら声をかけてくれて。うれしかった』
「あの時は俺も。君が泣いていたから必死で驚いたんだ。……可哀想に」
トラウマから逃れたかった少女は、いまでも裕翔になついている。
だが、僕たち三人はまだ許してはいない。
彼女が苦しみから解放されなければ、裕翔は助からない。
僕は、残酷な現実を教えた。
「キミがつらいのはわかった。でも一番心配している人がいるんじゃないか?」
『そんなの……いるわけないじゃない。だってもう誰もわたしのことなんか見捨てたも同然・・・・・・』
すると、佐久夜とクライヴが少女を抱きしめる。
『え……?』
『いきなさい。あなたはもう一人じゃないわ』
『お前を信じてくれる人間がいるはずだ。子供なら猶更だろう』
すると、背後から声がした。
『その様子だと、無事助けたようね』
リリカだった。
隣には、ふたりの男女がいて疲れ切った表情をしている。
『⁉・・・・・・お母さん、お父さん……』
少女は二人に抱き着いた。
そして、彼女は言った。
『お姉さん、お兄さん。ありがとう』
僕とリリカは、何も言わずお辞儀する。
親と思われる男女が階段を降り少女は消えていた。
僕は緊張の糸がぷつんと切れて気を失った。