ACT4 背後に現れし可憐な少女
まるで扇風機のように冷たい風が、私の髪をふわっとあげる。
ここまで来て何も変化なし。
おどろおどろしい悲鳴が聞こえたり、急に背筋が寒くなりそうなお経も聞こえた。
青白い火の玉はゆらゆら、とこっちに向かっているが。
私はフン、と無視して先を進む。
「いっそ……ゴールがみえてきてもいいんだよ?」
私はつい本音を口にし、ヤバいと口を抑える。
あきらめた訳ではない……真凛の仇は必ずとらなければいけない。
しかし、それを遮るものがみえた。
チマチョゴリを着ている十二歳ぐらいの少女の人形。
床にちょこんと、座っている。
私を見つめているのはいいけど、まさか動くなんてことはナイだろう。
ふつうだったら、一松人形かビスクマリードールの人形じゃない?
まぁ……差別になるから口にはしないでおこう。
(ツインテールかぁ……こういう妹が欲しかったな)
兄貴と弟たちばかりだったから、姉としてはどうしても悔しくなる。
日本人形ならぬ、韓国人形か……。
すると人形の優しい瞳が、私のほうに向いたような気がした。
茶色い眼、ガシャのキャラクターならSR級。
「いや?UR級かな……どちらにせよカワイイことは確かね」
『なにを言ってるの? お姉ちゃん。でもほめてくれるのはうれしい』
うわ、喋るタイプのヤツきた。
今どきのオモチャは進化しているけど……日本語上手いし、ここまで話すかな普通?
私はこの子をさすがに無視するのは可愛そうだと思い、いい事を考え二ヤリ。
いっそこっちから逆に脅かしてやろうか。
「ねぇ、あなた。私って今どんな顔してる?」
『そうだなぁ。じゃあ……わたしのこと、ちゃんとみて』
すると、彼女の顔とチマチョゴリがどんどん血まみれになっていく。
あんなに、かわいかったのに台無しじゃない。
そしてふわりと、宙に浮いた。
『ふふっ!クェンチャナ(大丈夫だよ)、お姉ちゃんはわたしが可愛がってあげるね』
至近距離近っ⁉これはちょーっとまずいね。
私は前を向き、【わざと聞こえないフリ】をする。
「あー、コワいなぁ。きーこーえーなーいっ」
『お姉ちゃん。わたし……さびしいのがイヤ。だからともだちになって?』
「ふふっ……」
私は笑いながらそっとスマホの明かりを顔に近づける。
「いやだねぇっ!」
『⁉』
私は急いで走りだし彼女から去った。
悪い事をしたかもしれないが、そんなのお構いなし。
作戦大成功、このままゴール一直線。
ACT4-2 強い視線の先に大男
「さぁて……このままいっきに……!」
しかし、私は途中で足を踏み外し転んでしまう。
すると暗闇の中から大きな手がやってきた。
「やばっ」
私はゆっくり立ち上がるが、まだ痛む。
「しかたない」
よつんばいの体制で前を進む私。
すると、地の底から湧きあがるような低い声が聞こえた。
『うがぁあああああっ……!おい、大丈夫か?』
テノール? いや、バスに近い声かもしれない。
とにかく私は、この状況を脱出したい。
はやくしないと……いつあの人形が襲ってくるかわからない。
答えてはいけない、身体がそう叫んでいるよう。
大きな手は、私を遮るかのごとく。
『おい、無視するな』
「えっ?」
私が頭上を見上げると。
そこには高身長の男が睨みつけていた。
頭や身体に所々縫い目があり、見た目は巨人そのものだ。
赤く鋭い瞳は、私を見つめている。
「あなたも迷い込んだの?」
『まさか。俺が迷い込むはずがない。ところで、お前は人間なんだよな?』
「当たり前でしょ。暗いからもう少し近づいてもっとよく顔を見せてよ」
私が「しまった」と後悔。
男は『しめた』とあざ笑う。
大きな手が伸びてきて彼の姿がはっきりと見えた。
(肌の色がおかしい。うわ……そっちだったのか)
こいつは……おそらくあいつで間違いない。
名前は確か、フランケンシュタインの怪物だったはず。
きっとリタイア続出したのは、【こいつの存在】だろうな。
私は、よつんばいにの姿勢に戻り前を向いて歩き出す。
そんなのも、お構いなしに彼は語った。
『そうか。お前がプレイヤーだったのか。ならば話が早い。どうだ?俺と少し話をしようじゃないか』
「結構よ。私はヒマじゃないの。ここをゴールさせてもらうわ」
『面白い。その自身がどこまで続くのか楽しみだ』
すると、背後からジャリジャリと音が聴こえる。
あいつ、何か仕掛けようとしていないだろうか。
私はゆっくりと懐中電灯の明かりを頼りに進む。
しかし音は迫ってくる。
すると、私の右腕に何かが触れた。
鎖のような、チェーンのような何か……。
『安心しろ。俺が来たからにはもう何も恐れることはない。大人しく身を委ねることだな』
私は無視し続けるが、体がそろそろ限界が来てしまう。
「嘘でしょ……うっ」
気が付くと目の前が真っ白になって気を失った。