ACT4-3 気が付いてくれたのは、キミ
ねぇ、ヴォルフお兄ちゃん。
わたしは、このお姉ちゃんのことが大好きになったんだ。
うふふっ!だって最初自分を見たときに怖がるそぶりを見せなかったんだもん。
あの時、心の底から誰かを信じられるって思えたの。
捨てられた人形、メリーさんとして。
お姉さんが言った。
「でも……もし真凛がこの人形を視たら失神して私はニヤニヤと笑えるかも」
悪い顔してるね。
でも、わたしもイタズラは大好きっ♬
そっと立ち上がり、わたしはお姉ちゃんの後を追ったの。
だってぇ……、一番最高な瞬間なんだもん。
「うっ……動くはずじゃないわよね?」
ううん、いるよ。
そうまお姉ちゃんは、わたしのおともだちだから♬
気持ちは分かるぞ、ジェジュン。
俺は彼女の勇敢さをたたえたい。
けどよ、こいつはまだ隠しているんだ。
こんなデカブツ相手にここまでひるまないなんてな。
可愛らしくて、いじめてやりたいくらいだぜ。
女が言った。
「ええ……こいつのせいでリタイア続出はさすがにね。マジで引くわ……」
弱音か?それとも……武者震いか。
どちらにしても、俺はお前を見捨てることはできないな。
足音を立て、暗闇の中で彷徨うお前を。
俺は逃さない、絶対に。
「いつまでこんな体制でいられるのよ……私って度胸ありすぎ」
この手で俺は彼女を抱きしめたい。
我慢できないんだよ、おい……もしも逃げたら。
俺は地獄の底まで追いかけてやる。
そこら辺の、怯えるヤツとは違ってな。
背後でついていくことにしよう。
俺は失神したソウマを、優しく手で抑えた。
ACT5 怪異?に心配される?
『お姉ちゃん?ねぇ……お姉ちゃん!』
『安心しろ。気を失っているだけだ』
可愛らしい声と不気味な声が聞こえる。
目をあけると、小さな女の子と高身長の男がいた。
彼女は、チマチョゴリの服を着ている。
男性は顔に縫い目ができて、服装がコートでボロボロ。
これではまるで……。
「あっ…! 少し休んだら楽になったわ。ありがと」
軽く礼だけ言って立ち上がる。
すると、女の子と男性が私の背後についてくる。
『ほんとうに大丈夫なの?』
『無理をするな、俺はお前が心配だ』
お化け役にしては、あっさり。
私は念のため質問した。
「気にしていないわ。私はそうま」
『わたし、ジェジュン!』
『俺は、ヴォルフだ』
ジェジュン、ヴォルフと呼ばれるふたり。
彼女は本当に幼くてカワイイ。
彼は顔がハンサムでハードボイルドな感じ。
子役と俳優さんがお化け役なのかな。
「コホン……良ければ、ゴールする?」
『うん!』
『いいのか?感謝するぜ』
あとで謝ろう、絶対悪い事をしたと思われたみたいで罪悪感がこみあげてくる。
これは景品も失格かな。
『ねぇ……わたしあの子がいい』
『ああ。俺もそう考えていたぞ』
お化け役のふたりが、こそこそと話している。
私に隠し事なんて……イヤな予感は的中か。
まず、韓国人形とフランケンシュタインの怪物の時点で個性が強い。
私に仕返しでもしたいのか、はたまた脅かしたいだけか。
すると、ジェジュンとヴォルフが言った。
『ねぇねぇ、そうまお姉ちゃん。わたし……実は、妖怪なの!』
『俺はモンスターといったところか。ソウマ、どこまでも付き合おう』
頼もしいのか、迷惑なのかわからなくなってしまった。
「妖怪とモンスターね……本物だったら私今頃、リタイアだったわ」
そのとき、ゴール手前の扉でふたりが立ち止まる。
(あれ? 私、何かしちゃった?)
私の背後でジェジュンとヴォルフはささやいた。
『だってわたし、【ほんもの】だから』
『【俺も】だ。お前の勇敢さをたたえようぜ』
目の前には、白い光がまぶしく輝く。
私は諦めずに重たい足を動かした。
ACT5-2 油断大敵に、有名人気取り
私はふたりの、発言を無視してゴールした。
チャリン♬チャリン♬
ハンドベルの音が鳴り、店員やお客さんたちが驚きの声をあげていた。
そこには、真凛も。
「え?」
「おめでとうございます!あなたは【初めてのプレイヤ―】です!無事に脱出できてよかったですね!」
景品の箱のゲーム機とソフトが入っている袋を渡される。
重いな……でもなんだかスッキリはしたかも。
(マジだったんだ……)
驚きの歓声、大勢の拍手、SNSで写真をとってくれたりと。
そのときの私は一度だけ有名人になれた気がした。
「あはっ、やったぁ!」
すると、周りの人と真凛が顔を青ざめた。
私の背後でポタポタと、水の流れるような音がきこえて。
幼い少女と低い男性の笑い声が聞こえた。
周りが悲鳴をあげている。
ガマンできなくなった、真凛は叫んだ。
「ぎゃああああああああああ!幽霊ぃぃぃぃぃぃ!」
前言撤回だ、有名人は。