ACT6 小さな復讐は失敗?
「……ただいまー」
帰宅した私は、大きなため息をついた。
兄たちが盛り塩を持ってきて、まるで霊が入ってこないかのように。
あのね、誰かのお通夜の後じゃないんだから。
弟たちはゲーム機とソフトに夢中。
兄はギロリと睨みつけて私をみつめる。
「あっ、いっけなーい!課題やらなきゃ!」
自分の部屋に二階へとかけあがる。
兄貴たちは舌打ちをしながらも、弟たちを見守った。
私は急いでドアを閉めた。
そして、背後にいるやつに話しかける。
「あんたたちさぁ……マジの妖怪とモンスター?」
『うれしい!そうまお姉ちゃんのおかげで人の姿になれたの!』
『俺を恐れなかったご褒美として、ソウマを俺の嫁にしてやる』
可憐な女の子と、ハードボイルドでキザな男。
でも、私には【やっと】韓国人形のお化けとフランケンシュタインの怪物に見えてきた。
自分が想像していたものとは全然違うし……やられた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!それってもしかして……冗談で言っているよね?」
『冗談じゃないよ!ウソじゃないもん』
『マジに決まっているだろう。おっと、逃げようとなんて思うなよ』
たしかに私は、テーマパークで一番最恐の幽霊屋敷を攻略できたプレイヤー。
有名人になれるかなと思ったが、ふたりのせいで台無し。
真凛はともかく、周りの人や店員さんが顔を青ざめたときはパニックになりかけ。
それに私は肌で身体で実感したのだ。
あの時、背後でジェジュンは呪いの人形らしく血まみれ姿でニコニコ。
ヴォルフは、フランケンシュタインの怪物らしく大きな手で私の頭を撫でながら周囲を睨みつけていた。
「いや。あの時はマジでビックリしたんだよ? そのせいで自分の……」
『あの時は楽しかったなぁ! やっとお外に出られて解放されたからね』
『はじめての客がこんなにも肝が座っていた人間だとはな。俺も嬉しく思うぞ』
褒められているのか、ディスっているのかどっちかにしなさい。
その時、ピコンと通知が鳴りポケットからスマホを取り出す。
チャットを確認して、真凛の様子を見た。
【そうま。やっぱり何かにとり憑かれたんじゃない? お祓い行こ!】
やっぱり案の定、真凛は私を心配してくれていた。
でもお節介にもほどがあるし、まさかこの二人の正体を教える訳にもいかない。
私はチャットでこう返す。
【早まらないでよね! 幽霊なんていなかった。最後はお化け役が本気で】
【そんなはずないよ。絶対呪われたんだぁ……】
【だからぁ!大丈夫。具合は悪くないし。気にしないの】
【そ……それならいいけど。でも何かあったら言ってよ?】
【ハイハイ。またねー】
チャットを閉じて、スマホをしまう。
私はニヤニヤしているふたりを見てキレた。
「わ、笑うなぁああああああ!」
ACT7 憑かれる者、現る
悪夢を見てるみたいだった。
自分の心をズタズタにされたかのようにゲッソリしていた。
「うわぁ……ムリ。食欲失せた」
「なんだよ。だらしないな」
そこにいたのは、二年生の【月城霊子】さんだった。
霊子さんは、私の噂を聞きつけてお昼を誘ってくれた。
今は二人でお昼、先輩とお昼とかマジ緊張する。
本当だったら、真凛がいるはずなのに今日は風邪をひいて休み。
私は先輩に、恐る恐る話しかける。
「あの、月城さんはどうして私に話しかけてくれたのですか?」
「ウワサを聞いて黙っているわけにもいかなくてね。僕の勘だけど」
「だったら……どうして」
「いや。僕もキミと【似たような体験】をしてね。そいつらがしつこくてな」
「似たような体験?」
すると、先輩は黄色い小さなカードをみせる。
名刺だろうか……いったいどういうことだろう。
「何ですか?これは」
「心霊捜査官の、お偉いさんだ。僕は一度ここで、悩みみたいなのを聞いたんだ」
「なんだか……すごそうですね」
黄昏リリカ
赤い文字で書いてあったその名前は、まるで本物の警官の名刺のようだ。
顔写真からして、かなりの美少女だ。
警官帽がよく似合っている。
「なぁ。岸田が良ければなんだが。次の休日、ここの事務所に行かないか?」
「えっ⁉ 事務所?」
いきなり言われて驚く私。
「心霊関係の事をなんでも解決してくれる。僕も少しお世話になってね」
「い、いきなりですね。でも……私でいいんですか?」
ジェジュンとヴォルフは今でも私にとり憑いている。
このまま、ほおっておけば私のウワサは続いたままだ。
テーマパークの幽霊屋敷の最恐プレイヤーに本物の幽霊がとり憑いている。
まぁ、とり憑いているのは妖怪と怪物だけど。
「ムリはしないが……僕はここに行ってスッキリしたよ」
「行きます」
「マジか」
先輩の、こんなお誘いを断るわけにもいかない。
真凛やクラスのみんながお祓いしろと、うるさく気味悪がられるから。
一人で行くんじゃないし、先輩と行けば大丈夫だ。
「おいおい。断るかと思ったよ」
「いえ。月城さんの言う通りプロの方に頼んでみるのが早いです」
しかし、私はある大事なことに気が付いた。
「あ……お金」
「お代は取らないらしい。そのかわり【憑いているヤツを連れてこい】との話だが」
まさかの無料、こんな美味しい話があっていいのか。
ジェジュンとヴォルフは必ずか。
「あと」
「は、はい?」
先輩は、手を差し出した。
「ゴホン。僕のことは、【ゆな】でいい。僕の憑いているヤツも紹介するから」
「は、はぁ……ゆなさん?」
私は、先輩をじっと見つめる……。
カッコいい容姿に危うく騙されるところだった、あぶないあぶない。
「よく、僕が女だとわかったな」
「ごめんなさいっ!」
「気にするな」
私は先輩に逆らわないようにしようと心がけた。
そして、秘密を明かしてくれる友達になったのだ。