ACT10 悲しき過去の記憶
走り続ける、どこまでも。
何のために私はこの場所に来ているんだろう。
あんなの見せられたら……無言になるわけないでしょうが。
(リリカさん、この試練キツイよぉ……)
さすがの私でも弱音が出てしまった。
『キャハハハハハ!そうまお姉ちゃん、どこぉ?』
ジェジュンは、どうしても私を逃がさないんだろうな。
『ソウマ!どこだ?はやく出てこい!捕まえたらどうしてやろうかぁ?』
ヴォルフは、まだ私のことを諦めたわけではないはず。
勘弁してください、私はこんなの望んでなんかいない。
屋敷が広すぎて迷路のようだ。
「どこかに、隠れる場所ないかな……はあっ」
こうなったら、次の場所で声を出さないようにしよう。
急いでドアを閉め、私は両手を口で抑える。
(セコイやり方だけど……見逃して)
来ないでと願い続ける。
『かくれんぼするの? ふふっ! それなら、わたしが見つけてあげるね!』
『見つけたら束縛では済まないぞ……どこだ?』
(まずいよ……これ)
ハサミの音に大きなリボンが見え、鎖の引きずる音が耳障り。
鳥肌が立つし、冷や汗も止まらない。
真凛もこんな気持ちだったんだろうな。
感情がごちゃ混ぜだ。
「あれ?」
私は、頭を抱えてしまう。
なんだか……急に苦しくなってきた。
そして、気を失ってしまった。
二つの影が私を見下ろす……。
ここは、幽霊屋敷?
私は宙に浮いていた。
中学生ぐらいの女の子たちだ。
赤いワンピース姿の大人しそうな子が叫ぶ。
「네 잘못이야… … 이런 인형! 더 이상 필요 없어!(あなたのせいよ……こんな人形!もういらないっ!)」
韓国語で話している……何を言っているかは分からなかったが。
その人形はジェジュンそっくりだ。
チマチョゴリ姿の女の子の韓国人形。
無様に捨てられた人形の瞳から血の涙が流れる。
(かわいそう……)
すると向こう側から、怒鳴り声が聞こえてきた。
見渡すと、高校生ぐらいの少年が大きな怪物を見て叫んでいた。
「Hey! Don’t appear in front of me again!(おい!二度と俺の前に現れるな!)」
流ちょうな英語で慌てている。
すると、ありえないことに怪物は少年を掴み……。
女の子の人形は、大人しい子を見つけ……。
リボンらしきもので身体をしばりつけていた。
「그만해!(やめてぇ!)」
「Don’t leave me behind!(置いていくなああああ!)」
連れと思われる韓国人中学生組の女子と、イギリス人高校生組の男子たちの笑い声が響く。
(もしかして……二人は、いじめられていた?)
床が真っ赤になり、泣き声と悲鳴がこの場所で響く。
私の知らないところで、二つの悲しき事件が起きていた。
ACT10-2 二人の魂
目を覚ます私。
そこには、青白い顔をした二人の人物がいた。
さっきの女の子と少年だ。
「ゆう……れい?」
『わたし、あそこで人形になったの』
『俺、あそこで怪物になった』
舌たらずの日本語で話すふたり。
私は一つ疑問に思った。
どうして、二人の霊があのジェジュンとヴォルフに関係があることを。
本物なんていたのだろうか。
すると、私は真凛の言葉を思い出す。
「ぎゃああああああああああ!幽霊ぃぃぃぃぃぃ!」
【そうま。やっぱり何かにとり憑かれたんじゃない? お祓い行こ!】
チャットになぜ、自分の背後にとり憑いていたことがわかったのか。
私は、二人の容姿をよーく観察する。
古い赤いスカートに白いブラウス姿の少女。
ボロボロのダメージスカジャンにダメージスキニーの眼鏡をかけた不良な男。
……こんなこと、聞いていいのだろうか。
「あなた達、もしかして外国人?」
二人は強くうなずいた。
『わたし、ミン・ジェジュン』
『俺、ヴォルフ・ヴィクトリア』
チマチョゴリは韓国の伝統的な衣装。
フランケンシュタインのお話はイギリスが舞台だ。
もし……私の勘が当たっているなら。
大人しいミン、不良のヴィクトリアは容姿があの人形と怪物に似ているから。
私はおもわず、ふたりを抱きしめる。
「ミンちゃん、ヴィクトリア君。……つらかったよね」
妖怪や怪物になったのは、成仏できずにいた二人の少年少女の霊がいたのだ。
こりゃ未練が多くて苦労しそう。
「まったく!しょうがないわね。お姉さんがそのお悩み解決してあげようじゃない」
『いいの?』
『お前に何が分かるんだよ』
不安がるミンとヴィクトリア。
覚悟は決まっていた。
「私はね、そのままのあなたが好き。自分を嫌うのはダメ。簡単に言えば友達になってあげるわ」
ミンとヴィクトリアの頭を優しく撫でる。
すると我慢できなくなった二人は、泣き出した。
『お姉ちゃんが……そう言ってくれたの、はじめて……クェンチャナ』
『……お前って案外いいヤツなんだな。……サンキュ』
私は薄くなっていく二人に、手を合わせる。
(あなたたちは何も悪くない。けど復讐は絶対にダメだからね?)
まるで私の心を読んだかのように、二人はうなずいた。
そう思っていた時期が私にもありました……。
また目をウトウトして、気を失う。