ACT10-3 悪夢から覚めた時
「うーん……? はっ⁉」
私が目を覚ますと、ベッドの上だった。
そこには、罪悪感マシマシの表情のジェジュンとヴォルフがいた。
「夢……? っていうか私、何時間寝てたの?」
『あら、おはよう。四時間も寝ていたのよ。もの凄い寝言と共にね?』
リリカさんが、満足そうに言った。
えっ、寝言?何を言っていたのだろうか。
私はジェジュンとヴォルフに話す。
「あのさ。私、不思議な夢を見たの。それがまさかあなたたちに関係していたヤツだとは思わなくて……」
涙が止まらなくなった私をふたりは、優しく抱きしめた。
『そうまお姉ちゃん。助けてくれてありがとう。やっぱりあなたの事信じてよかった』
『疑って済まなかった。ソウマはやはり俺の相棒だぜ』
さすがに、夢で出会ったミンとヴィクトリアのことは言わないようにした。
(真凛、ありがとう。やっぱり持つべきものは友よね)
『ずいぶんとスッキリしたようね。いいファイルになったわ』
『ふふっ。そうまお姉ちゃん、だーい好きっ!』
『ああ。もう離さないぜ、ソウマ』
私はただ頷くことしかできなくて、泣きじゃくった。
ジェジュンとヴォルフはコワくなんかない。
孤独を抱えた怪異。
私は心から友人だと、思えるようになった。
『そういえば……あの幽霊屋敷には、昔行方不明になった子供がいて。戻ってくることはなかったそうよ』
リリカさんは、真剣な表情で話した。
けれどすぐに微笑む。
『相馬。あなたは、その迷える魂を救ったのね。後で捜査しに行かなくては』
「なにか言いました?」
「いいえ。なんでもないわ』
リリカさんは、本当にミステリアスな人だ。
こうして私の依頼は無事に解決?できたのだ。
あとで、先輩と真凛にお礼しなきゃ。
ACT10-4 忘れ去られた幽霊屋敷
『ここからは私、リリカが説明するわ。ちょっとだけ、あるトリックを使って霊子と相馬を霊視させていただいた。そこで気がついたことが。あれには【まだ続き】があるの。ここからは、彼女たちの話だけで語るわ』
幽霊屋敷に一人、青年が懐中電灯を持ちながら歩き出す。
そしてもう一人、青年が懐中電灯を持ちながら歩く。
「あれ?霊子さ……ゆなさんじゃないですか」
「奇遇だな。相馬もここにいたのか」
「はい、行きましょう」
「一人がコワかったのか?」
「まさかぁ」
笑っていられるのも今のうち。
彼女たちがこれからどんな体験をするのか。
「お、御札とロザリオネックレスが落ちてる」
「これは……リボンと鎖のチェーン?」
すると霊気と血の匂いが二人を襲う。
違和感はすぐそこにある。
「ゆなさん⁉後ろっ!」
「なっ……⁉」
白い着物姿の女と黒い燕尾服姿の男。
「相馬っ、お前も!」
「えっ⁉」
チマチョゴリ姿の少女とボロボロのコート姿の大きな男。
四人の怪異たちは、人間が来るのを待っていたかのように話しかける。
『ふふっ、私があなたを凍らせてあげるわ』
私があなたに冷気をふーっと吹きかけるの。
『ほう。自ら獲物が来るとはな。さあ、俺の目を見るんだ』
まずは俺の舌で貴様の首筋を舐めてから血を頂くとしよう。
『わたし、×××!今あなたのうしろにいるの。あーそーぼ』
このリボンであなたをくるくるーっ、ともだちの証だよ。
『よぉ、俺と楽しいことしようぜ?』
この手でお前を抱きしめて……っと、永遠に愛してくれ。
霊子と相馬は我慢していたものが、いっきに爆発した。
「マジで……?」
「嘘だろ……」
霊子と相馬はお互いに手を繋ぎ、走り出した。
四人はふたりを××××。
『なぜなら。彼女たちはもう、物を拾ったからに決まっているじゃない』
Epilogue
書斎にて。
リリカは、一枚のファイルを読み終えた。
カップに入っているココアを飲む。
『これには、苦労した。まさか本当に子供の遺体があったなんて。署の人になんて言いましょうか?』
数日後、幽霊屋敷【最恐屋敷】は、警察の捜査に入りリリカは相馬の夢を聞いた。
現地を捜査した時、床から韓国人中学生の少女(13歳)とイギリス人高校生の青年(18歳)の遺体が発見された。
後から分かった話だが、7年前に起きた、それぞれの国の学校でヒドイいじめを受けていた留学旅行でおきた悲劇が起きていた。(迷宮入りの事件で未だに解決されていなかった)
テーマパークは立ち入り禁止になり、しばらくは入れないらしい。
行方不明になっていたので、その後ミン家とヴィクトリア家の親族から感謝状が送られた。
ミンとヴィクトリアの両親はリリカと相馬に感謝したらしい。
それから、翌日。
相馬はリリカの所に来た。
霊子も一緒に。
リリカはじっと、元依頼者の顔を見る。
『月城霊子、岸田相馬。あなたは勇気を出した逸材ね。相応しいわ』
「はぁ?僕が?」
「どういうことですか?」
リリカはふたりをじっと見つめる。
『決めた、あなたは私と一緒に心霊捜査官。いえ、あなたはたちは……』
指を刺し、大きな声で勇敢に話した。
『霊子、相馬、佐久夜、クライヴ、ジェジュン、ヴォルフ。【妖魔捜査官】としてここに任命するわ!』
廃校で起こった怪現象を解決し、幽霊屋敷で起こった怪現象を解決したふたり。
リリカは、心から彼女たちと仕事がしたいと思ったのだ。
「マジか?相馬、お前なんかしたか」
「してないですよ⁉ ゆなさんこそ、何か企んでません?」
困惑している二人に、怪異たちは大喜び。
『ふふっ。これは……少しずつ近づけるという意味ね』
『なるほどな。人間観察とは興味深い。新たな仲間も増え賑やかになりそうだ』
『みんなでお仕事するの? うわぁ!わたし、がんばる!』
『これでもう逃れられなくなったな、どうするよ?』
雪女、ヴァンパイアロード、メリーさん、フランケンシュタイン。
頭を抱える、霊子と相馬が悲鳴をあげた。
「勘弁してくれ……」
「同感……」
リリカの力だけでは、どうにもできない分野を担当することになった。
だがそれは、語り手が経験したからこその代償なのかもしれない……。
賑やかな六人を見て、リリカは切なく笑った。
『私、まだがんばれそうよ』
終幕