※この物語には流血表現、ホラー要素が含まれます。フィクションです、実在の事件をは関係ありません。
またこの作品は前作【妖魔捜査官】の外伝になります
Prologue
「私は過去なんて語りたくないわ」
警官帽に制服姿の金髪の少女は、深いため息をつく。
その背後で高身長の男が正論を言う。
『何を言う、昔を語るのもまた然りだ。それとも怖気づいたか?』
ドキッと身体を震わせる彼女は、思わずA4サイズの書類を落しかけそうになった。
「……お父さん。痛いところをつくわね」
『懐かしいものだ。お前との共同作業は楽しめたぞ』
優雅に赤いワインを高価なグラスで飲む。
娘と思われる彼女は面白くない顔で父親に文句を言った。
「だからこれは、私にとって【禁断のファイル】なのよ」
『過去を振り返るのも悪くない、人間なら抱えて当然だろう』
書斎の空気がいっきにひんやりと寒くなる。
本当に開けるのか、自分の黒歴史を。
「……はぁ。わかったわ。お父さん」
『わかればいい。聞かせろ、我が娘よ……過去をな』
そしてひとつの本を開く。
これは、一人の少女が運命を変える物語。心霊捜査官になるまでの軌跡を。
ACT1 後悔
A中学で起きた不思議な出来事。
放課後、教室に残っている少女たちが何かを話している。
机の上には、占い板が置かれていた。
方位を示すアルファベットの頭文字が上。
時計の秒針のように二つの針が見える。
「これでよしっと、さあ……あとは願い事を言うだけ」
「いいんだ。もう逃げられないよ」
「だいじょうぶ。うちらは気にしない」
「これで自分の不幸体質が治るといいけど」
一人、ボブヘアーのアクティブな少女が不安そうに彼女たちをみる。
わざわざこんな【おまじない】で物事がうまくいくのだろうか。
彼女たちは息を吐き、手を握る。
そしてこう唱えた。
『エンジェル様、エンジェル様。どうか、私たちのお願いごとを聞いてください』
『願わくば、そこの彼女に不幸体質を治し運命の人を教えてください』
(やめて……頭が痛いよ。わたしはそんなの望んでない。お願いだからやめて!)
彼女が心の中で強く願うと、占い版がバリン!と耳障りな音を立てて粉々に壊れた。
クラスメートたちが顔を青ざめ、悲鳴をあげる。
失敗したのだ。
やってしまった、だからやらなければいいと願ったのに。
なんて言えなかった。
「きゃっ!……大丈夫?」
「ねぇ、帰ろうよ……」
「ねぇ、これさ。珠莉が持っていってよ」
そうだ、壊したのは自分だ。
すると教室内がぐにゃりと歪んだ、一瞬。
それは【珠莉だけしか】みえなかった。
「ねぇ、どうしたの?」
珠莉が声をかけようとした瞬間。
彼女たちは悲鳴をあげて、珠莉から離れていった。
どうして、また?
窓ガラスに、違和感を覚える。
そこに映っていたのは、青白い顔の着物を着た青年だった。
恨めしそうに青白い顔が、珠莉を見つめる。
やるんじゃなかった、こんなおまじないなんて。
「うっ……⁉」
占い板が粉々に割れて、珠莉は思わず衝撃で床にへばりつく。
声が聞こえた。
『お前が……俺の……』
「きゃああああああああ!」
珠莉は教室から急いで去った。
青年が窓からスッ……と教室に入る。
『必ず……守る……』
ACT2 守護
黄昏リリカは家を出るとスマホから着信が鳴っていることに気づきスマホを手に取る。
それは母親からのチャットのメッセージからだ。
【リリカ。ごめんね、今日から夜遅くまで仕事なの。夕飯は作っておいたから適当に食べてね。お友達も呼んでいいから】
「大変だなぁ。私も学校がんばろう」
中学三年生にもなって、流石になれてきた。
リリカと母親の有栖(ありす)は二人で仲良く暮らしていた。
シングルマザーなんて今時珍しくもない。
有栖は学校のカウンセラーの臨時教師をしている。
リリカは心優しく穏やかな性格だ。
思いやりがある大人をめざして。
しかし、リリカには欠点があった。
「まあ……この能力は消えないか」
テレパス能力、霊視と少しの未来予知ができる。
いつまで隠し通せるのか時間の問題。
「おはよう!リリカちゃん」
「あ、珠莉。おはよう」
桜宮珠莉(オウミヤ・ジュリ)、リリカの小学時代の幼馴染だ。
唯一、リリカのテレパス能力を信じている。
「あのさ、今日からお母さん忙しくなるから良かったら夕飯どう?」
「いいの⁉ いくいくー」
(よかったぁ、今日は一人だからヒマだしどーしよって思ったよ)
こんな感じでイヤでも他人の心の声が聞こえてしまう。
だがリリカはそのおかげで、瞬発力と危機管理能力に目覚め体育の成績はベスト。
リリカは珠莉を責めたりはせず、ただ黙って微笑んだ。
「いいから早く学校行こう」
「そうだね」
「そういえば、珠莉って昨日テスト勉強するって張り切ってたね。順調?」
「えっ⁉……どーかな」
一瞬、顔を青ざめる珠莉。
通学路を歩いているだけなのに、恐怖心が伝わってくる。
(どうしよう。リリカちゃん、わたしやってない)
「なるほどね」
いたずらに笑うリリカに、珠莉はビクッとした。
「わかっちゃうか。さすがテレパス」
「やめなさい。卒業まで隠し通すんだもの」
真実だけを知りたいリリカは、他人のこれ以上の思念を見ることはできない。
友人だからじゃない、人間として。
(だけど、こうも不幸体質ってわけでもなさそうね。イヤな予感がするわ)
リリカは口にはせず、珠莉からあふれ出る負のオーラを感じとった。
胸騒ぎを抱えたまま、ふたりは学校へと登校した。
ACT3 異変
昼休みになり、何事もなく授業が終わったかと思いきや。
今日はクラスの半分が熱で休んでいた。
秋とはいえ、風邪が流行る季節だと思うがリリカはそうは思わなかった。
「さてと、今日は進路面談で残らないといけないな……」
午後の時間を把握し、お弁当を食べ終わる。
「ごちそうさまでした」
するとどこからか声が聞こえた。
『血をよこせ、娘よ……俺は我慢できない』
『必ず護る……どこだ……俺の……』
幽霊か怪異のどちらかだ。
リリカは霊感が強すぎるため、教室の中で話すというわけにもいかない。
(低い男の声だわ……けど、どこから?)
すると廊下から歩いてくる、うつむいている生徒を見つける。
体育の時間だったのだろう、隣のクラスは張り切っていたから。
しかしその正体を知り、リリカは驚く。
「珠莉⁉」
珠莉の背後には背の高い男が妖しく笑い、犬歯を出していた。
しかも霊力が尋常じゃないほど強い。
そして……。
バリン!
廊下の窓ガラスが割れて珠莉が倒れた。
クラスの子たちが悲鳴をあげる。
「大変だわ!」
「きゃああああ」
「行きたくない……危ないよ」
「窓ガラスが割れるなんて……こんなの祟りだわ!」
リリカは男を睨みつけ、珠莉の目の前を走る。
生徒たちはそれを見て叫んだりしている。
(珠莉っ……!)
ガラスの破片が落ちそうになり、素早く珠莉を抱きしめる。
そして喝を入れた。
「みんな!急いで先生を呼んで!私は桜宮さんを保健室に連れていくわ!」
『……わかったっ』
リリカは珠莉を抱えて保健室まで走る。
すると珠莉の声がきこえた。
(ごめんね……わたしのせいで不幸になっちゃった)
「違うわ。こんなの偶然過ぎる。不幸だったら今ごろ……」
珠莉の首筋から赤い血が流れる。
二本の穴に気付いた。
正体は口に出さず、今は保健室が先。
(ウソ……貧血なんてツイてない。エンジェル様なんてしなきゃよかった)
「エンジェル様⁉危険な黒魔術……こっくりさんよりタチが悪いわ」
貧血のせいなのは、男だ。
吸血しているのが見えたから。
リリカはその瞬間、何かが見えた。
珠莉に鎖が繋がれ……もがき苦しむ。
ずっと一緒だったのに、縁が切られようとしている。
何かにとり憑いている。
「これは……いったいどういうことなの?」
保健室のドアを開け、リリカは先生にSOSを言った。