ACT4 契約
五限目が終わり、休み時間。
リリカはチャイムと同時に、保健室に向かう。
あれが予知夢なのか、予言なのか。
どちらにせよ……珠莉に危機が迫っているのは間違いない。
今までは何でもない不幸だったけど。
窓ガラスが割れるくらいなら、祟りとしかありえない。
私は強く、ドアを開けた。
「失礼します!」
すると保健室は血の匂いが充満していた。
担当の先生がぐったりしていている。
「先生っ!しっかり!」
(あれはなんだったの……綺麗な男の人だったわ)
誘惑状態、意識はある。
でも今は……。
「珠莉っ……今、開けるよ。大丈夫?」
白いカーテンをさっと開ける。
珠莉が横になって苦しんでいるのがみえた。
ヤツはまだいる、というかとり憑いている。
(助けて……苦しいよ。誰かっ……)
珠莉に意識はある。
だが精神状態はかなりまずい。
ヤツは珠莉のことを……。
私は覚悟を決めて、交渉した。
「ねぇ、珠莉から離れて。何が目的なの?」
男は私に気が付きこちらを向く。
この世のものとは思えない美しさでカッコいい。
だけど私には、その程度にはのらない。
低い声で話した。
『ほう。この俺の誘惑に騙されないとは……なんと強気な奴だ。関心した』
「彼女は何も悪くないでしょ。今すぐに離れて」
『せっかくディナーを楽しめていたのにな。随分と余裕がある小娘だ』
「あなたは何者なの?幽霊ではないことは確かだけど……」
私が言葉につまると、男は珠莉から離れた。
しかし背後から異変を感じ、私にとり憑いていた。
「い、いつの間に……」
『俺はいわゆる魔王だ。吸血鬼の王。リベリオン・ファントム』
「魔王?ということは……⁉珠莉の魂が望みなの?」
『いいや。お前のその力が気になってな』
(まさか……このテレパスの力?そんなの)
(なんだと?お前の未来予知の力……さては)
すると、リベリオンは私を力強く抱きしめた。
『お前、【本当に人間】か?どちらかが、吸血鬼の可能性があるな』
「失礼ね!私はごく普通の人間よ。母親も。父親はいないけど……」
『ますます興味深い……これを逃せば後はないな』
そして、近くまで迫って来た。
「お願いっ!珠莉を見逃してっ。私が代わりになるわ!」
『気に入った。名は?』
「黄昏リリカ」
『だったら、俺と契約しろ。そうしたらお友達は助けてやる』
「は?」
リベリオンの鋭い瞳が、私を困惑させる。
ACT5 娘と父
「け、契約?……まってよ。どうしてそうなるの?」
悪魔ではあるだろうけど……見た目からしてどこに魔王要素が。
すると、リベリオンはコウモリの大きな羽を広げた。
『これでどうだ?俺は魔界から追放された。少し昔話をしようではないか』
「いえそれは間に合ってます」
あっけない私の回答にリベリオンは眉をひそめる。
そして舌なめずりと共に、鋭い犬歯を近づける。
『それは残念だ。だがイヤでも聞かせてもらうぞ。それともお友達がどうなってもいいんだな?』
このままでは、空回りしたのと同じ。
珠莉は今でも息切れを起こしている。
(……苦しいよ。助けて……)
「……っ!わかった、契約するわ」
私は両手を掲げ、リベリオンに背を向ける。
ぎゅっと抱きしめられる感覚。
『その言葉を待っていたぞ。そうだな……俺は今日からリリカの父になろうでなはいか』
「父親になる!? たしかに私は父はいないとは言ったけど」
魔王が父親……考えただけでも強くて恐ろしくて逆らえない。
お母さんになんて説明すればいいかもわからない。
(けれど、お母さんは霊感がないし。リベリオンの姿も視えないわ)
たしかに魂を狙われるよりはマシかもしれない。
吸血鬼の魔王なんて、とんでもないヤツに好かれたようだ。
『彼女を助けたいのだろう。それなら俺も協力しよう。なに、痛いのは一瞬だけだ』
さぁ、契約しろと言わんばかりの目力で私はおもわず息をのむ。
(こうなったら、覚悟を決めるしかない)
私は珠莉を助けるためならなんだってする。
あの予知が本当なら……。
「黄昏リリカ、あなたと契約します。だから珠莉を助けてください!」
『よかろう。我が、リベリオン・ファントムがお前を守護すると約束しよう!』
(我に血を捧げよ)
リベリオンは私の肌に犬歯を刺し、吸血した。
すると、さっきまで苦しんでいた珠莉が穏やかな顔になりながら眠りについた。
(珠莉!しっかりして!)
(案ずるな。彼女の不幸体質が少しづつ消えていく。だが代償は重い。命にかかわることはない)
珠莉の霊力がどんどん強くなっていく。
霊感に目覚めるのも時間の問題だろう。
(でも、苦しそうな顔ではないわね。よかった)
こうして私は、リベリオンの言う通り娘となった。
『彼女の家はどこだ?連れていってやろう』
「わかったわ、教えてあげる」
保健室から出ると、気を失っていた先生がきょとんとしながらふらふらしていた。
あとがき(ちょっとだけ)
こんにちは、幽刻ネオンです。
本文中に少しヒントを。
黄昏リリカと
リベリオン・ファントムがでてきましたね。
彼らはどうやってこの怪事件を解決するのか。
イメージはこんな感じです。※挿絵:Cici Ai
どうでしょうか。
二人のコンビの物語をお楽しみに。
では、また次回。