ACT8 もうひとつの問題
翌日の土曜になってしまい、電話をかけることをためらってしまった。
なぜなら私の中で珠莉の思念がシャットアウトされたような気配を感じたから。
「……おはよう」
『おはよう。浮かない顔だな。何かあったのか』
リベリオンが朝食を作ってくれていた。
結局、お母さんが帰ってくる様子はない。
「ねぇ、お母さんがまだ帰ってこないのだけど……」
『リリカの母親は、なんという名だ?』
「ありす、黄昏有栖。カウンセラーの教師をしているわ」
その名前を聞いた瞬間、リベリオンの表情が曇る。
犬歯をむき出し私のほうに飛び掛かる。
「な、なによ⁉」
『有栖(アリス)か。……【ヴォクシーの夫】で間違いないぞ』
「なんですって」
リベリオンが捜していた、未来予知ができる子ども。
彼はウソをつくような目ではない。
「お母さんが……ヴォクシーさんと付き合っていた?まさかね……」
『間違いないぞ。そこの写真を見てまさかと思ったが……思った通りだ』
だとしたらその子どもというのは……。
リベリオンは私をじっと見つめる。
(やめて、心の中を覗かないで)
すると、リベリオンは魔王の姿になり大きな蝙蝠の羽根を羽ばたかせる。
鋭い爪、鋭い瞳、腕が伸び私の頭をそっと撫でる。
(今……何をしたの?)
『やはりな。俺はお前を護らなければいけない。そういえば、珠莉君には父親がいたようだな』
トドメを差すかの如く、言った。
『彼は【義父】ではあるまいな?』
私はうまく言葉に出せなかった。
そう、昨夜会った……珠莉の父親は本当の父親ではない。
詳しくは知らないが、お母さんが言うには【里親】と言っていた……。
背筋が凍る。
「まさか……珠莉とお母さんは」
『どうやら解決すべき者がもう一人増えたようだな、我が娘よ』
私は胸騒ぎの原因がなんなのかようやく理解した。
でも珠莉が先だ、お母さんはメンタルが強い。
その時、インターホンがなる。
違和感がどんどん近づいてくる。
私は何も言わず、玄関へ向かう。
ドアを開けるとそこにいたのは、顔を青ざめていた珠莉のお義父様だった。
「おはようございます、どうされました?」
「黄昏さん、助けてください!珠莉が何者かに誘拐されたんだ!」
背後からリベリオンの笑い声が聞こえてきた。
まるで全て最初から知っていたかのように。
でもまずは彼を落ち着かせよう。
「……わかりました。珠莉は必ず私が助けてあげます」
「どうか……お願いします……」
背後にいた警官たちが、彼を連れてパトカーに乗せる。
事情聴取でもするのだろう……。
そこに、めちゃくちゃイケメンの刑事がいた。
「黄昏リリカさんですよね?少し署へ来てもらえませんか?」
この時、私はこれから起こる奇妙な出来事に遭遇することも知らずに……。
ACT8-2 心霊捜査官リリカ、誕生
一軒家のような事務所にリベリオンと向かった私。
警察官がなぜ関わるのか、誘拐と聞いて黙ってられないのだろう。
刑事さんは、フランクに話した。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。君は親友とお母さんを助けたいんだよな?」
「は、はい……なぜ?」
『リリカ、彼はなぜだか霊力が強い。不思議なヤツだ』
「ちょっと、お父さん!」
すると刑事さんは、笑い出した。
何か気に障るようなことをしたのだろうか。
「す、すみません!うちの父が……」
「気にしない。僕は【心霊捜査官】の一人さ」
「し、心霊捜査官?」
「さぁ、入って」
招かれた客の如く、私は入っていく。
アンティーク調で西洋式の中、まるで洋館じゃない。
探偵事務所としてもおかしくない場所だった。
書斎と思われる部屋に入る。
「ようこそ。黄昏リリカさん、リベリオン・ファントム」
刑事さんが挨拶をして、私とリベリオンも会釈した。
そして共に座る。
「君の友人が誘拐されたようだね。でも犯人は人間じゃないよ』
「なぜそれがわかるのですか?」
『貴様、ヴォクシーだな』
その名前を聞いて私は驚いた。
刑事さんは、ただ微笑んでる。
「本気なの……あなたが……?」
『ああ。そうだよ。おっと、ここでは【霧島と呼んでくれ】。人間に気付かれると面倒だ』
「は、はぁ……わかりました」
ヴォクシー……いや霧島刑事は私の目をみる。
この人はリベリオンが言った【伝説の吸血鬼】。
でも今は、心霊捜査官とやらの仕事で人間界にいる。
(珠莉と、お母さんを本当に助けられるの?)
『ああ、助けられるよ。君はテレパス少女だからね。おっと、まずは心霊捜査官がなんなのか説明しよう』
霧島刑事は一枚のA4ファイルを取り出し語りだす。
(長いため私が代わりに簡潔に説明するわ……)
【心霊捜査官とは……幽霊、妖、魔、怪異を捜査している特殊な仕事。簡単に言ってしまえば公の場では絶対にムリな心霊関係の捜査をしている。SPとして活動していいと言われる所属特殊な場である】
『ということだ。わかったかな?』
「も、もちろんです。わかりました」
吸血鬼の長話って緊張するものなんだな……。
私は冷や汗が止まらないままだ。
『ヴォクシー、ということは俺の娘と共に珠莉君を助けろといいたいのだな?』
『さすがは魔王様。話が早い。君には難しかったかな?』
(ついていけないけれど・・・・とにかく、リベリオンと一緒に珠莉を助ければいいのね)
霧島刑事は力強く頷いた。
それと同時にあるものを取り出した。
「これは?」
『君、専用の証明書だ。警官風でカッコいいだろう。合格だ』
学生証とはまた違う証明書。
私は言葉を失った。
「まさか……私が……?」
『黄昏リリカ、今日から君は心霊捜査官として働いてもらう。リベリオンもそれでいいね?』
『構わん。好きにするがいい』
普通の女の子としての、日常が今崩れていった。