ACT2 準備を怠らない
「そう。だったらその依頼、喜んで受けましょう。お父さんもいいわよね?」
『ああ。とても面白そうな予感がするぞ。そんなに怖がらなくていい』
裕翔は彼を見て思わずしゃがみ込む。
「犬歯……鋭い瞳……リリカさん・・・・これって」
「無理もないわね。父よ。こんな見た目だけど優しいから」
リリカがリベリオンを睨みつける。
リベリオンはそんなのもお構いなしに、マントを翻し裕翔の頭を撫でる。
「うわっ」
『よろしく頼むよ。俺は、リベリオンだ。安心しろ、君は俺が守護してやるからな』
さすがのリリカもため息をつきドン引きだ。
「は、はぁ……信じていいのか?」
「……父は子どもが大好きなの。純粋な子が特に。それより」
話題を変えるためにリリカは両手をパチンと叩いた。
裕翔の目を見て真剣に話す。
「裕翔君。捜査を始める前に色々と準備をしなくては、地図とかは?」
「あります。これ。一応、写真も撮ってきました」
メモ用紙くらいのサイズに書かれてある紙を取り出す。
リリカとリベリオンはじっと見つめ、現場の見取り図を確認した。
今回捜査する場所は探索するところが多い。
しかも写真を見た限り、お金持ちが住んでいるというよりは。
(アンティーク調で、絵に書いたような幽霊屋敷みたいね。西洋の雰囲気が感じられるけれど……)
(所々に、死霊や魔が視えるぞ。リリカには、オーブにしか視えないだろうがな)
(さすがお父さんね。心霊写真過ぎて、正直呆れるわ……私は)
裕翔に真実を話すと失神するだろうから、言わぬが花だ。
「あの……大丈夫ですか?」
二人は気を取り直して、裕翔の方を見た。
「なんでもないわ、引き受けましょう」
笑顔で誤魔化すが、リリカは【もう一人の心霊捜査官】が気になっていた……。
ACT3 影の心霊捜査官現る
時刻、十八時五十分。逢魔が時とはまさにこのこと。
リリカたちは裕翔が見たと言う現場に到着した。
写真よりも雰囲気が禍々しい。
黒が余計に目立つゴシックなデザイン。
大きな豪邸、森の中にあるかと思ったら住宅街にある。
「やっぱり……イヤな気分がする」
「裕翔君は、霊感が身についたようね。無理しないで」
「すいません、でも俺は大丈夫です」
強がっているけれど、身体が震えているのは正直な証だ。
懐中時計や捜査に必要な物は全て揃えてる。
リリカは真面目だから、ミニリュックを背負っている。
『入った瞬間から、闇の住人がお出迎えだ』
「マジか。俺、正気でいられるか……?」
「大丈夫よ。私たちから離れなければいいから。さぁ、捜査開始……」
その時、不気味な低い笑い声と共に人影が現れた。
娘父が戦闘態勢に入る。
裕翔は人影の姿が明かされると声を上げた。
「ああっ!お前……この前の」
リリカと同じ警官帽を被り、制服姿。
しかし所々に両耳にピアス、両手には包帯。
血のように深紅の鋭い瞳は、まるで人ならず者のような威厳を表していた。
「お初にお目にかかる。俺は白夜亨(ビャクヤ・リョウ)だ」
「初めまして。私は黄昏リリカです。心霊捜査官よ」
二人はそれぞれ証明書を取り出す。
警官風とはいえ、同じ所属ではあっても見た目が違うだけだ。
「裕翔から話は聞いたぜ。お前、そうとう出来るヤツらしいな」
「そうね。あなたからは…とてつもない霊力を、感じる…」
「お前もだ。ほう……。とても甘い香りがするようだ」
異次元の会話をしているため、二人はバチバチになっている。
裕翔が困惑し、リベリオンに聞く。
「あの二人……雰囲気が強すぎますね」
『ああ。まるで天使と悪魔だ。亨君から血の匂いを感じる』
オーラが違いすぎるのだ。
まるで、リリカからは白い羽根が、亨からは黒い羽根が見えてくるよう。
「亨さん、これから私達は裕翔君の依頼を受けるの。邪魔をしないでください」
「そうはいかないぜ、リリカ。やっと会えたのが嬉しいよ」
リリカが顔を青ざめ、冷や汗が流れる。
亨はそっと近づき口から鋭い犬歯を出した。
「あ……あなたとは、どこかでお会いしたかしら?これでも女子高だったのよ」
「もう忘れたのか。それに、まさか心霊捜査官だとは思わなかったよ。縁に感謝しなければね』
リリカが恐怖に怯えるのは、過去の因縁以来だ。
裕翔は罪悪感を感じ前に出ようとするが、リベリオンが止める。
「なんだ……?リリカさんの様子がおかしいだろ」
『少し娘には、覚悟というものが足りないのだ。いい刺激になるだろう』
裕翔は友人に期待していいと言われていたリリカの評判が怪しくなってきた。
別に喧嘩はしてないが、ギスギスなのは変わりない。
「決めた。俺は依頼者の代償が目当てだからな。ついていくぜ」
「……好きにしなさい。ただし、依頼者に傷をつけたら許さないわ」
リリカと亨はビジネスの中での協力者だと裕翔は理解した。
リベリオンは、亨から流れる妖気に気付いていた。
結局、リリカたちは亨とも協力し洋館の捜査をはじめた。