ACT4 二手に別れよう
中に入り、暗闇を照らす。
懐中電灯は探索に欠かせない必需品。
手放すのは絶対に許されない行為だ。
リリカと亨は今でもにらみ合う。
「すいません、俺のせいで負担をかけてしまって……」
「いいえ。裕翔君は悪くないの。おかげで最高のファイルが出来そうよ」
「裕翔が気にすることじゃねえ。こんなの日常茶飯事だぜ」
天使のように微笑むリリカと、悪魔のようにあざ笑う亨。
(やっぱり、なんかヤバイぜ。余計なこと言わないようにしよう……)
裕翔がふらふらしていることに気付いたリベリオンはそっと抱えた。
『大丈夫か?具合が悪そうだが』
「……大丈夫です。ただ気分が悪くなって」
リリカは裕翔の表情を見て霊感に目覚めたばかりだと理解している。
亨も既に理解していた。
依頼者の裕翔のメンタルが大事になってくる。
すると、リリカは閃く。
「ねぇお父さん。裕翔君の面倒をお願いね。悔しいけれど私は亨さんと行動するわ」
『任せておけ。必ず守ると約束しよう。裕翔君、いいかな?』
「……ああ。お二人は、大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、それに亨さんの手柄も気になるし」
「言ったな。リリカの手腕もお手並み拝見といこうじゃあないか」
「こ、こぇぇ……」
あまりにも広すぎる為、お互いの無事を祈り探索を始めた。
【洋館の中で誰かの足音が聞こえる。ここはどこだろう、なぜ自分はここにいるのか。記憶を失っているが、覚えているのは名前だけ。あの甘い香りはなんだろう、好奇心が強くなり嗅いでみる。ねぇ……誰なの。振り向くとそこにいたのは】
【Give your Blood you can,t ran away any more】
ACT4-2 忘却 リリカ&亨 サイド
それにしても、辺りはどよんとした空気でいっぱいだ。
ふたりが歩くと物音や人魂が脅かしてくる。
「フン。ただの戯言ね。彼らに害はない。私はそう感じるの」
「いいのか?俺と捜査なんて。気に食わないじゃなかったのか?」
私的には、亨と組むのは正直乗り気ではなかった。
しかしこれはあくまで捜査。
私にもプライドがある。
「勘違いしないで。あなたとは【ビジネス仲間】よ」
「おやおや。リリカは随分と余裕そうだ。霊たちが俺らを歓迎してくれるぜ」
「……はぁ、お気楽。亨さんはプロそのものね」
亨は嬉しそうに笑った。
しかし、私は少し疑問に思った。
亨の見た目から妖気を感じる。
気のせいだと思いたい、人間であってほしい。
ダーク気質で痛い奴だと思えば楽だろう。
「書斎を調べましょう。探索なんてここが基本よ」
「いかにも出そうな雰囲気だな。そういえば今夜は満月だな」
「まさか狼男になるなんて言わないでしょうね。そんな冗談は効かないわよ」
「いいねそれ。そうしたら俺はリリカを誘惑してやろうか」
あきれた……思わず、大きなため息をついてしまった。
それから私達は本をあさったり机などを調べたが、これといった物は見つからない。
私は亨に依頼内容を伝える。
「裕翔君から伝えられたのは行方不明者の捜索らしいわ。まったく、肝試し感覚で来るものじゃないわね」
「行方不明者ねぇ……表向きの依頼だろ?」
「ええ。彼のお父様が警察官なのよ。だからそれを見込んで頼んだのね」
「納得だ。おい……何か落ちてるぜ」
亨がなにか拾って私に見せつける。
ロケットペンダントのようだ、しかも首からかけるやつ。
私は中身を開けてみることにした。
すると……。
「………修道院に身をまとう、シスターの少女と騎士?」
「結構昔の時代のヤツだな、それにしても微笑ましい絵だぜ」
これはとても重要な物だと直感がそう告げる。
その時、私は背後を振り向く。
「イヤな予感がするわ。お父さんと裕翔君のところに行きましょう」
「ほう……闇からの刺客か?面白くなってきたな」
油断していたのが、仇となる。
書斎を後にして私達は走り出した。
ACT4-3 二人のやり取りは凸凹? 裕翔&リベリオン サイド
一方その頃。
俺はリベリオンさんと広間を探索していた。
リリカさんと亨さんの心配もしたけど……。
あの二人はその程度でリタイアする人じゃない。
「マジで……暗すぎておかしくなりそう」
『人間はこの程度で悲鳴をあげるらしいと思ったが、本当のようだ』
「……もしかして、あなたは」
俺は信じたくはなかった。
あの時、級友の月城ゆなが俺を助けてくれたときに霊感に目覚めてしまった。
だから彼が人間とは思えないんだ。
『安心しろ、裕翔君の血は吸わないさ。娘に叱られるからな』
「ヴァンパイア……マジか」
寒気と同時に俺は自分の心配をするべきだと身体に言い聞かせる。
リリカさんに父親がいるとは初耳だったが、似てないな。
口には出さないでおくか。
「あはは……それにしても何もないな」
『鍵を探すわけでもあるまい。この洋館は魔の通り道でもある。簡単に言うとあの世の境目の道がどこかにあるんだ』
霊道ならぬ、鬼門……。
幽霊よりもおっかないヤツがいるのかと思うと俺の精神がもつかどうか心配だ。
だけど、あの時……リベリオンが頭を優しく撫でて貰ったときなぜか安心できた。
「俺がしっかりしなきゃ……ビビッてばかりもいられない」
『無理は身体に毒だ。おや、これは』
大きな箱だろうか、俺は気になって持ち上げてみたが。
(重すぎる…! ウソだろ)
しかし、リベリオンは涼しい顔で箱を軽々と持ち上げた。
身長はデカイのに……。
「力持ちなんだな……あんた」
『こんな物、俺には容易い。だが……こいつは棺のようだ』
棺と言う単語で俺はしゃがみ込んだ。
冷や汗が止まらない……あの時と同じ感覚。
すると、棺を置いたリベリオンが真剣な顔で言った。
『そうだ、今から【演劇】をしようじゃないか』
「演劇?……どういうことですか」
『ここは、疲れを癒す我らのような妖魔の楽園。それを知って人間が気付いたらどうする?幽霊屋敷ではなく、魔の館だ』
「……え?ますます理解が……」
真顔で言ってるし、冗談に聞こえないのが怖い。
俺は辺りを見渡す……すると部屋が少し明るくなった。
Give your Blood you can,t ran away any more
壁に突如現れた謎の血文字。
英語で書いてあるが意味が分からない。
「うわっ⁉ なんだこれっ……」
『【血を捧げろ、お前に逃げ場はない】と言う意味だ。さぁ、作戦を開始しよう。君はハンター役だ』
「ブラックジョークもいいところだな……⁉ うわぁああああああ!」
Give up. Come on、Let me hear your scream!
「またかよ!今度はなんだよ!?」
『【さぁこっちへ来い、お前の悲鳴を聞かせろ!】だな。派手にお出迎えだ』
俺は親切に意味を教えてくれているリベリオンに少し恐怖した。