ACT5 不思議な少女と妖しき騎士
広間から悲鳴が聞こえてきた。
私は足元に気を付けながら、走り続ける。
間違いない、裕翔の声だ。
「ねぇ、これって……」
思わず声をひそめた時、亨は怪しく笑う。
「なんだか面白そうな雰囲気だな。ヒュー!テンション上がってきたぜ」
イヤな予感が当たってない事を信じ、広間に着く。
私は暗闇の中を懐中電灯で照らし、裕翔たちを探す。
「裕翔君!お父さん!どこにいるの? ……えっ!?」
「どうした?ワオ……こいつはスゴイぜ」
裕翔とリベリオンが、なぜか踊っていたのだ。
しかも周りの壁には英語の血文字が。
「あ……あなたを倒しにここに……来たの!」
『可愛い顔もできるようになったな。さぁ……こっちへおいで』
何かがおかしい、違和感を感じる。
「どういう状況なのこれ?……」
「操られてるのか?無様で笑えるぜ!」
ワインのような鉄のような強い匂いが広間中にひろがる。
そして亨の言った【操られている】という発言に引っかかる。
脳内に電流が走り、私は大声で叫んだ。
「二人とも!【おふざけ】はおしまいよ!広間から離れてっ!」
「⁉」
「なるほどな。リリカには分かったか」
言われた通りに、裕翔とリベリオンは広間から離れる。
すると血文字は消えていた。
「あれ……?俺はいったい」
『おのれ……いつの間に憑かれていたのか』
私は何があったのか説明した。
これはどうやって対処するべきなのか。
「裕翔君には【少女の生霊がとり憑いて】、お父さんは本来の姿に変貌したのよ」
「危なかったな。お、噂をすれば』
私達の背後から気配を感じ振り向く。
そこにいたのは、シスターの衣装を身にまとった美少女。
彼女の背後には蝙蝠の羽根を広げている騎士の男性が憑いていた。
話が通じるかとりあえず、私は交渉してみる。
「あなたはいったい誰なの?」
「你好!我、燐美麗。我会说日语、但不会写。很高兴见到你!」
『Yo。I’m Mark Garradin。I’m a incubus、knight and I protect her』
なぜか、二人は母国語で自己紹介した。
「は?えーっと、お二人はなんて?」
「彼女はリン・メイリー。そっちの彼はマーク・ガラディンよ」
『美麗君は日本語は話せるが書くことが苦手。マーク君は騎士で彼女を守護しているインキュバスだ』
「なるほどな。裕翔、理解できたか?」
「ま、マジか……な、なんとなく。流ちょう過ぎて驚いたぜ……」
第一印象があまりにも、個性的すぎるため裕翔はドン引き状態。
幽霊が出たのではないのかと焦ったが。
「そうだったのね。よければ、日本語で話してくれると嬉しいわ」
「ごめんなさい。わたしったら、誰かに会えて嬉しくて」
『失敬。僕は、君たちを驚かせるつもりは全くなかったんだ』
美麗とマークは反省し礼をした。
私は一安心して、裕翔たちを見る。
「それより……裕翔、お父さん。無事でよかったわ」
「大変な目にあったよ……まったく」
その後、自己紹介をして……二人はここで何をしているのかを聞いた。
すると美麗は私が持っているロケットペンダントに反応した。
「あの……リリカちゃん。それって」
「探索中に拾ったの。もしかしてあなたの?」
「そう!嬉しいわ、谢谢!これは大切な宝物なの」
首にかけて、大事そうに目をつぶる。
私はまだ気になることがあった……。
ACT5-2 謎が謎を呼ぶ
シスターの少女とインキュバスの騎士に出会った私たち。
だが中身は美少女中国人と美男な魔族。
私は二人になぜ出会ったか聞いてみることにした。
亨たちもそれを知りたいだろう。
「ねぇ……ふたりはどこで知り合ったか聞かせてくれる?」
「そいつは同意だ。シスターとインキュバスって独特な組み合わせだしな」
「おい!失礼じゃないか。それに……そいつ化け物なんだろ?」
『焦るな。霊のようにとり憑くのは何故か、興味深いものだ』
言わずもがな、考えていることは皆同じだった。
探索を続けながら私たちはふたりの話を聞いていた。
「わたしはシスターではないの。気が付いたらここにいたんだ。それ以外のことは覚えてない。面白くないけれど話してみるね……」
『メイリ―がそう言うなら僕もまぜてもらうよ。とてもいい出会いだったのさ』
二人は何があったのかを語りだす……。
「元々、わたしはフツーの高校生で日本に引っ越してきた者です。このお守りは大切な母の形見です。最初はここを脱出するためになんとかがんばりました。けど、なぜかここは【不思議な空間】でわたしを帰らせてくれない。なんでこんな服を着ているのかもわからないのです……」
『迷っている彼女の声が聞こえてきて面白そうだと思った。背後からガシッとね。とり憑いた理由は簡単。メイリーの居心地が良かったからだ。脱出する代わりに契約もした。あの壁にある【血文字は僕が作った結界】みたいなもの。驚いてくれてちょっと嬉しかったな』
記憶を失っている少女とその隙に少女の心にとり憑いた魔。
まるでこの洋館が生きているみたいで、気味が悪くなってきた。
ロケットペンダントの中にある写真は関係ないわけではなさそう。
挑戦状を受けるかの如く、私はなぜか闘争心が燃えてきた。
「探索していく内に謎が解いていくみたいね。美麗、マーク。アナタたちも同行してもらいましょうか」
「ちょっとリリカさん⁉正気っすか?あやしくて信じていいのか……」
裕翔は純粋だから疑ってしまうのも仕方がない。
父と亨が冷静すぎて、まるで私が決めろと言わんばかりニヤニヤしている。
(ちょっと、黙ってないで何か言いなさいよ)
(俺は一向に構わんぞ。面白くなることは確かだからな)
「やっぱり俺の思った通りだな。リリカがいると何か起こる。ビンゴだぜ」
どこからその調子が湧いてくるのやら……思わず呆れる。
美麗とマークは共に同行することに賛成していた。
「お願いします。一人だと心細かったので」
『僕がいるじゃないか。謙遜しないでほしいよ。リリカ、よろしく』
新たな仲間が増え、探索を続行したのだ……。