それから何日も逃げ続け、二週間以上が経過した。
飲み水は普通なら飲もうと思わない色をしている水を我慢しながら飲み、食事は盗めるのなら盗み、盗めなかったらその辺に生えてる雑草を食べて何とか飢えをしのいだ。
食べているとはいえ、体はどんどんやつれていく。
「早くこの時が終われ」と思いながら、少しずつ感情の出し方を忘れ、いつ笑っただろう…いつ悲しんだのだろう…と思うこともなくなってきた。
さらに数日経過したある日、メイラは何かないかと思って入り込んだ建物内で引き出しをガサガサと漁ると、奥底にハンドガンが入っているのに気づき、手に取る。
手にずしっと重みと金属特有の冷たさを感じる。操作方法は分からないが、銃にある突起を押してみるとマガジンがゴトッと床に落ち、鈍い音を立てる。
弾は満タンに入っているようだ。
「持っている銃を下せ」
マガジンを拾い上げ、おぼつかない動作で元の場所に入れていると背後から男の声が聞こえ、メイラは持っている銃を向けるように振り返る。
男は迷彩服でマシンガンを持っており現地民でないことがすぐに分かった。それに、男が何言ってるか聞き取れた。数週間ぶりの英語だ。
だが、メイラは「助かった」という気持ちよりも「殺される」というワードが頭の中に浮かび、引き金に指を添える。戦争の影響で正常な考えが出来なくなってしまったのだ。
男はゆっくりと少しずつ近寄り、「大丈夫だ…」とメイラを安心させる為に声をかけながら銃を奪おうとするが、メイラは恐怖のあまり男に向け何発も発砲した。
弾は全て命中し、男は床に倒れ、メイラのことを見る。
少し意識はあるが、視界が霞んでいくのでそう長くはないと男は察した。
「は…はは…」
メイラは自分のしたことが何なのか分からなくなり、軽く笑うと持っていた銃を投げ捨て、その場から逃げ出した。自己防衛とはいえ、これがメイラにとって初めての殺人だ。
あの一件から数日後の夜、メイラはふらつきながらあてもなく歩き続ける。
体が異様に寒く、怠い。ずっと気持ち悪く、意識が朦朧とする。体が言うことを聞かない。まっすぐ歩いている感覚すらない。一歩で異常なほどに体力を使う。
自分がどこを歩き、どこへ向かっているのかも分からない。もう長くないと子供でも分かる。
メイラは体のだるさに耐え、少ない体力を絞り出しながらある扉を開け、中に入る。
扉は異様に重く、開けるのがやっとだ。
中にあるものをかき分け、少しずつ奥へと進んでい…。
ドサッ
ヨーロッパのとある港町。
スーツを着た男たちがコンテナを開けると中から凄まじく強烈な臭いに襲われ、男たちは鼻と口を押さえながらコンテナ内を確認すると、中に死んでいるに近い少女が横たわっていた。
「…もしもし。…コンテナの中に少女?…うん、生きてるのね。じゃあ、その子をすぐに病院に連れて行きなさい。あとは私でどうにかしておくわ」
とある屋敷内で、「女性」は煙草を吸いながらコンテナの中を見てすぐに電話を掛けた男たちに指示をする。
ブツッと電話を切ると女性は吸っていた煙草を灰皿に捨て、車のキーを手に取り、部屋を出た。
solitario: chapter3.Countdown to Collapse「17.A broken heart②」
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