ACT7 捜査中断
その時、悲鳴と絶叫が響く。
リリカは声に反応して辺りを見回す。
「⁉この声は……裕翔?」
音はしなかったがここまでかと、ショックを受ける。
イヤな予感がしてきて振り返ると、二人はにやりと笑った。
「行くわよ!」
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……」
『リリカは悪運だけは仕事してくれるからな』
ムカつくけど……言い返す言葉も出ない。
急いで裕翔たちのところへ向かう。
走り出すが、所々に妖しい数列が浮かびあがる。
それだけじゃない。
「裕翔の……霊気?ここまで漂うなんて……」
寒気より吹雪のような感覚。
ドアが見えてきてリリカはドアノブを強く握りしめた。
亨が足で強く蹴り、バタンと音をたてながら開いた。
「おやおやこいつは……」
「ウソでしょう……?こんなのありえないわ」
裕翔がしゃがみ込み、美麗とマークの姿がない。
ないと言うよりは……。
『驚いた。まさか一番予測できない状況だとな』
さすがのリベリオンでも、この状況を把握することはできなかった。
マークが美麗をお姫様抱っこ状態で羽根を広げていた。
その背後には一つの扉のようなものが見える。
「美麗っ!……どういうことなんだ」
『ごめんなさい。その子の身体は返すから安心して』
『メイリーの中に眠っていた、清らかな乙女の魂は俺が貰う』
清らかな乙女の魂……その発言にリリカは納得した。
裕翔は美麗が連れていかれるんじゃないかと不安げ。
リリカはトドメをさした。
「裕翔。彼女は……美麗に【とり憑いていた女の子】は。彼女じゃない」
「なんだって?」
訳が分からない裕翔に、亨は教えてやった。
「美麗の中には、別の女の魂が入っていてマークはそれを取り除いたんだろうな」
「じゃあ……美麗はどうなるんだよ⁉」
リベリオンがマークを睨みつけ、ゆっくりと近づく。
異常な重たい穢れが辺りを取り囲む。
『愛人の魂か。随分と欲深き夢魔だな』
『おっしゃる通りだ。彼女は俺の……大事な獲物だから』
裕翔は美麗の前にいる、一人の修道士姿の女性を見て青ざめる。
リリカは裕翔の前で、手を差し出した。
「美麗さんは無事よ。マークは最初から怪しいと思っていたみたい。誰かに似るのは大変なことだから……」
「マジかよ……」
思い出したくないあの出来事。
友だと思っていた者が急に姿を変えて偽りの姿で接する。
リリカは痛いほど美麗の気持ちがわかっていた。
亨の鋭い瞳に妖しい光が輝き裕翔の肩をたたいた。
「何するんだよ……?」
「お前の代償を今ここで頂く。さぁ、いい子にしていろ」
やはり彼は影の心霊捜査官。
代償は体験したことそのものの記憶をうえつける。
リリカは黙っていなかった。
すると大きな揺れが全員を襲う。
「いけない!この洋館が崩れるわ。さぁ、逃げるわよ」
「なっ……美麗っ!」
気を失った美麗を抱き上げる裕翔。
マークは蝙蝠の翼を広げて魂を扉に入れる。
リリカたちは、崩れる中急いでここから出た。
Epilogue 光と影のファイル
その後、洋館は崩れ落ちボロボロになった。
キープアウトの線で立ち入り禁止になった。
警察の調べでは遺体もなくそれらしき遺品もなかった。
外に出ると、すっかり暗くなっていた。
裕翔と美麗は気を失い病院へと運ばれた。
幸い命に別状はなくただ悪夢を見たと叫んでいたらしい。
マークは美麗の親戚の友人に変装して二人を見守っていた。
書斎へと戻った、リリカたち。
それぞれ言い合っている。
「全く……代償をそこまでして欲しがるなんてあなたって人は」
「お前だって怪談をファイルにして奪ったくせに。よく言うぜ」
『ははっ!かわいらしい喧嘩だな。料金ではなく己の欲求を満たすなど……くだらない』
今回の捜査は禁断のファイルと同じくらい極秘。
完璧に解決できなかったのが悔しいリリカ。
面白いモノを見れて大満足のリベリオン。
そして、亨は魔人としての力を使い依頼者に現実を突きつけた。
特別な力を持つ者たちはそれぞれの想いに身をよせていた。
「亨。あなたは不思議な人よ。肝が座りすぎるの」
「この普通の人間には、見えない手錠で裕翔をしばりつけた。あの鎖はもうなくなったぜ」
亨が言うには、裕翔には既に穢れが満ち溢れておりあと少しでも遅かったら……。
あの洋館は写真を見た通り死霊たちの巣食う楽園だった。
美麗に憑いていた修道院の女の霊は、マークにとって餌だ。
リベリオンは何も言わずただ、人間たちの行いを見守っていたのだ。
「あの扉は霊界へと繋ぐ場所なの?」
『違う。あれは魔界だ。裕翔君と美麗君にとっては毒だったようだな』
「逆に教えないのが怖いだろ。ま、知らない方が幸せかもな」
リリカたちは知っていた。
裕翔、美麗は憑かれやすい体質。
闇の住人にとっては最高のご馳走。
マークは二人を助けたはいいものの、この後どうするかは不明。
「まぁ……インキュバスだから甘い夢でも魅せるのでしょうね」
「代償を貰ったんだ。後は警察の仕事だろ」
『フフッ。リリカと亨は仲がいいコンビだな』
痛いところをつかれ、バチバチににらみ合う。
けれど。
「ふふっ……亨とは気が合いそうね」
「かもな、ありがとう。リリカ」
素直じゃないと、リベリオンは言おうとしたが黙った。
光と影のバランスが良くないと、この世は成り立たないのだから。
ドアが開く。
「あら…ようこそ。心霊捜査官本部へ。また面白い怪談が聞けそうね」
「次は負けないぞ。さぁ、聞かせてくれよ」
リベリオンは鼻で笑うと姿を消した。
依頼者の背後で犬歯を近づけながら。
『逃げられるかな?君に』
書斎に三人の笑い声が響き渡る……。
終幕