憎たらしい程に青々とした情景が天井へと浮かんでおりました。それはもう海に混じりあうように地平線と境界線が見えないくらい。磯の香りに噎せそうになりながら、潮風に一人揺られていました。伸び盛りの髪を靡かせながら。
ブロック塀が不自然に崩れたままの民家を横目に、虫が集っている自動販売機の隙間から虫の呻き声が聞こえてくる。まるで化け物みたいな鳴き声みたいだった。変な声だねって返した時、それは反応を示さなかった。
ただ存在しているだけの並んだ集合の団地の梺で、良くない噂が蔓延っているらしい。
こういう田舎寄りの県境にはよくあるオカルト話で、ダムの中から出てきたゴム手袋みたいにぶよぶよしたものとか。自分は見たことがないけれど、ここの周辺ではビッグニュースを通り越してもはや当たり前で誰も話題にしたがらない。良くない話をこの土地から、もみ消したいという意図があるのかもしれないが。こういったオカルトチックな話の類というのはインターネット上から消し去るというのは難しい話で。
ダムの近くの橋によく誰に向けたものか分からない花束やお菓子で溢れている(今はアリやハエの人気スポットだ。)追悼の意なんだろうが、それに虫が集るというのは比喩的な表現なのか?情報に群がるマスコミのようなものにさえ思えてくる。
暗い団地の下に、稀に人が立っていることがある。無言で。ここで手を振り返した人は神隠し的なものに遭ってしまう。どういう意図でそう至ってしまうのかは分からないが、一説によると手を振ることでこちらとあちらがお互いに”認知する”ことでこちらに入り込み、突如として失踪してしまうらしい。
その被害者の人影を観た人がいる。それは団地の屋上だったり、はたまたダム近くの橋の手すりに立っていたり。自動販売機の下から「おーい」と無差別に人を呼ぶ声が聞こえてくる人もいたらしい。目撃した人、曰く見るたびに人が変わっているようで、神隠しでいなくなった人を久々に見かけて声をかけてみたら終始無言で手を振られ、その空間は日の出ている時間だったのにも関わらず、暗く肌寒い上に不気味だったという。
前に団地の駐車場に虫の死骸が多量に放置されていたことがあった。何かの法則に従って置かれているようで、屋上から身を乗り出すと見える。まるで屋上の誰かのために配置されたみたいだった。丸い円で囲まれた魔法陣類に近いマークのようなもの。中心には目玉のような装飾があり、見下ろした時に丁度目と目が合うように設計されていた。
上手くは言えないがこれは人為的に用意されたもののように思えた。というのも、虫の亡骸で数字ようなものが書かれており一つ一つ乱雑に置いているようだった。その稚拙さが非常に気味が悪い。人為的だというのなら猶更のこと。更に丁寧なことに、中身がないもぬけの殻のような空洞ができており触ったらすぐにでも壊れてしまうような状態だった(まるで虫の中身を食べたみたいな感じ)この人間らしさと常識の逸脱のバランスが絶妙な気持ち悪さを覚える。
漢字の方は解像度が悪いのか曖昧なのか潰れているようだった。書けないのを誤魔化しているような…?

あ、見物人が来たみたい。
手を振る。
手を振る。
手を振る。