数日後、私は目を覚ました。
薬臭く、天井が白い。そして、暖かい。数時間前と比べれば天国だと思うぐらいに快適だ。
まだだるさはあるが、あの時のような生死を彷徨う感じはない。
腕には点滴が刺さっていて、これのおかげで軽くなっているのだろう。
白い天井を見た時、「私は死んだんだ…」と思ったが、そういうわけではないようだ。
「目が覚めた?」
そう思っていると、右側から知らない女性の声が聞こえた。
目をやると、誰がどう見ても金持ちだとわかる見た目の女性が私の事を心配そうに見ていた。
私は人間不信になっていて一度も彼女とは話さなかったが、彼女は私に色々話しかけてくれた。
彼女の名前は「ロゼレム」で、アパレルメーカーの社長だという。
私はロゼレムのサポートにより、数か月後に退院することができた。
治療費やその他もろもろ全て彼女が出し、これからの生活もサポートすると彼女は退院後の車の中で話した。
住む場所が決まったのは正直嬉しいが、何か裏がありそうだなと感じた。
ロゼレムの豪邸に到着し、中へ案内されたが異様なまでに静かだ。
私はその日何も話さなかったが、ロゼレムと彼女の旦那と二人暮らしのようだ。そして、彼女の旦那は私の事を受け入れる気がないというのが嫌でも伝わってくる。
むしろ邪魔者と思っている様子だった。
そこから先は自宅で一人基礎勉強をし、ロゼレムとは必要最小限の会話をするという感じで、何事もなく生活する日々が続いた。
私ぐらいの歳なら「外で遊びたい」や「友達と遊びたい」、「どこかに行きたい」といった感情が出てくると思うが、私はそういったものが一切無く、今の生活が苦でなかった。
あの一件が起きるまでは…。
数年経ち、私が15歳になった頃。
私は完全に習慣化していた勉強の息抜きの為、部屋を出るとリビングの方から二人が言い争っている声が聞こえた。
内容は私の事のようだ。何気なく聞いてると、ロゼレムが私の事を受け入れたのは「自分達の子供が欲しかったから」という理由だと話す。
だが、旦那の方は子供なんて要らないと言い、稼業の跡継ぎになる「男の子供」ならまだ許せたが、女でしかも戦争孤児。
しかも自分の仕事の荷物から出てきた子ということでとにかく邪魔でしかないようだ。
おそらく私のせいで彼の評価が何らかの形で下がったのだろう。正直知ったこっちゃない。
そう思いながらで聞いていると、旦那がロゼレムを殴った音が聞こえ、旦那はイラつきながら部屋を出て私と目が合うと舌打ちをし、豪邸を出た。
リビングを眺めると、震えながら悔しそうに私に背を向けているロゼレムの姿があった。
私がいることは気づいているのだろうが、今の感情を私に見せないようにしているのだろう。
私は表情には出さなかったが、悲しい気持ちよりも別の感情がふつふつと沸き立ち、このままではだめだと心の中で強く思った。
solitario: chapter3.Countdown to Collapse「18.A broken heart③」
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