不思議図書館・追「11:ここにいる意味」

ノーヴはイミアから返された赤いブローチを床に落とし、足で踏んでパキッと割る。割れたブローチの欠片が一つだけ勢いで飛んでしまい、壁から壁へ反射したブローチの欠片は、勢いを強めて、イミアの、左胸に刺さった。

「え…?」

左胸に赤い染みをつくり、イミアはその場に倒れ込んだ。

「「イミア!!」」

まるで血が通っていないかのような青白い肌になっていくイミア。

「ウソ…だろ…なあ…イミア…これからって…これから一緒にって言ったじゃねえか!!」

ノーヴがイミアを抱き上げながら叫ぶが、イミアはピクリとも動かない。

『ミィ!』

「うん。」

ソルエーナ形態のままだったみるは、杖を手に出現させてイミアに向ける。

「…大丈夫、まだ息はある。」

「本当か!?」

「でも。・・・・今のイミアを目覚めさせるには「願う」ことになる。」

「願う…それはつまり女神(みる)に乞い願うという事ね。」

「そう、師匠達は知っていると思うけど、女神(私)に願うという事は、対価…代償を払わないとならない。」

「代償…それは…」

「払う!!代償だろうが何だろうが、払う!!だからイミアを助けてくれ!!」

戸惑う者達を無視し、みるに必死に言うノーヴ。

みるは、無言でノーヴに杖を向けて目を閉じ、集中する。

「イミアを助ける願いの対価、それは…ノーヴ、貴方の【地位と能力】。」

「地位と…能力…。」

「貴方の第三王子という地位と、能力…それが対価。つまり貴方は能力の無いただの悪魔になる。」

「ハァ?それが今更なんだ、そんなもん欲しけりゃくれてやるよ!」

【マジですの!?腐っても魔界の第三王子ですのよ!?戻れば名誉はいくらでも…】

「名誉なんて兄貴達が好きなだけ取り合えっての!俺様に必要なのはイミアだ、地位や名誉や能力の代わりにはならねえ。」

流石のゼルルも、ノーヴのその気迫に負けてそれ以上は何も言えなかった。

「…それでいいのね?」

「ああ、もちろん。だからさっさとやれ、女神!」

魔法陣を展開させたみるは、魔力を杖に集中させる。

「心の底から願って。」

『金の女神ソル・エーナの名の元に、彼の者の願いを成せ!ウィッシュ・ラジエーション!』

杖から光が広がり、何も見えなくなる。だが、それでもノーヴは手を合わせ願い続けた。

ーイミアを助けたい、これからは自分の力でイミアを守りたい、ワガママなんて言わない、イミアの隣に居られるようになりたいー

ただ、イミアの笑顔を思い浮かべながら祈り続ける。

…視界が真っ白な中、ノーヴの前にだけ薄っすらと何かが見えてきた。

白いテーブルで優雅に紅茶を飲むユリィと、イミアと同じ髪と瞳の色をした女性が向き合って座っている。

「本当に良いの?ナーレッジ。」

「ええ…じゃなかったわ、はい。」

ナーレッジと呼ばれたイミアに似た女性の表情は、真剣な時のイミアの顔とほぼ同じだった。

「どこかもっと良い場所で、普通の女の子として暮らしても良いでしょうに。」

「それも良い選択だと思います。でも、私はあの子に…イミアに自分で見つけてほしいのです。」

「今更だけど…何を?」

「ーー自分が、ここにいる「意味」を。」

(意味…ここにいる「イミ」…。)

「あの子はもうすぐひとりになってしまう。でも、万物には全て意味がある。命には必ず意味がある。例え倫理観として良くないことでも。それを探せるようにしたいの。お願いします、ユリィ様。」

頭を下げる女性に、ユリィはまた紅茶を一飲みして言う。

「貴女が天へ上らない理由はそれ。でも長く現世に留まり過ぎた霊は悪霊となり、やがて自我を失う。貴女はもう限界ね。」

「はい…ユリィ様の力で延長していただきましたが…それも「世界の理」から外れる行為…。」

「私の力ではないわ。全て私を悪霊から神霊にした、あの子の力ですもの。」

「そうです。そして、あの子達はきっと仲良くなれる。確信があります。」

「貴女の「確信が本当になる能力」でね。まだあの子の能力はわからないけれど。」

「あの子の能力も、きっとあの子の為になりますよ。」

「…そうね、母親の貴女が言うならそうでしょうね。うーん、またひとりお茶友達が居なくなってしまわれるのは寂しいわ。」

「申し訳ございません。…あの子を…イミアをよろしくお願いいたします。」

(イミアを…つまりあの人は…イミアの母上…!)

それから映像は一瞬で消え、光が収束して元の光景に戻った。

「…イミア!」

ノーヴがイミアを見ると、イミアは健康な顔色に戻り、血も出ていなかった…が、なぜかイミアの目から涙がこぼれている。

「夢を見たの・・・私が小さい時に死んじゃった・・・お母さんの・・・。」

イミアもきっと似たようなモノを見たのだろう、ノーヴはそう思い、イミアをそっと抱きしめた。

泣いているイミアと支えるノーヴを皆が安堵しながら黙って見ている中、カルムだけが、誰にも見られないよう残っていたブローチの欠片を拾い、そっと懐に隠していた。

終わる。or 関連本の追求。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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