solitario: chapter3.Countdown to Collapse「19.A broken heart④」

それから私は、密かにトレーニングを始めた。一人の時間が異常なまでに多いので、いくらでも出来た。さらに、独学だが護身術なども勉強して万全の状態でいこうと必死に取り組む。
だからと言って、のんびりはしていられない。
タイミングが見つかれば、どんな結果になろうと、準備が足りなくても実行しようという気持ちでいた。

そう思った数か月後、順調にはいかなかったが、私はロゼレムの旦那の殺害に成功した。
ソファでくつろいでる後ろから紐で首を絞めつけ、窒息させようとするが色々やったとはいえ少女の力では簡単に解かれてしまい投げ飛ばされた後、テーブルの上で旦那に首を絞められる。
とてつもない力が私の首を絞め上げ、息が出来ない。

私はこれで終わりなんだと心の中で悟ったが、幸運なことに近くに置いてあったバカラグラスを手に取り、底の角で旦那の額目掛け一心不乱に殴りつける。
旦那は力を緩め、その隙に逃げ出した私はバカラグラスを投げ捨て、ウイスキーのボトルで同じように何度も、割れてもお構いなしに数分間殴り続ける。
我を取り戻し、殴るのをやめると旦那は動かなくなっており、ボトルの底は粉々に割れ、ナイフのように尖った部分には生暖かい液体がびっしりついていた。
あとは「これ」を片づければ成功だ…と思っていたが物事は毎回上手くいくわけがなく、この光景を偶然帰宅していたロゼレムに見られてしまった。

「あなた…それ…」

「…。」

ロゼレムは私に問うが、私は何も話さなかった。彼女の反応は当たり前だ。私が普通だったら同じ事を言うだろう。
だが、今の私はロボットの様に何も感じなかった。憎んでたものを殺せた喜び、やってしまった…という焦り、銃で人を殺めた時はまだあった「もの」が全て無くなり、人を殺める事に何も感じない今の私が出来上がった。唯一あるとすれば、「ロゼレムを守る」ということだけだ。

「なんで…こんな事をしたの…?」

「お前を守るためだ」

「守るって…」

無表情で当たり前のように返答され、どうすればいいかわからないロゼレムは私の事を抱きしめる事しか出来なかった。
その後、夜遅くに私一人で旦那の遺体は旦那のアウディS8で一時間の山中に捨て、どうなったかは分からない。その時はエルヴィーラらに爆破されるまで旦那の形見を仕事道具に使うとは思っていなかった。
私とロゼレムの関係はこれで終わりだと遺体を埋めるときは薄々感じていた。どこかの施設に入れられ、その後はどうなるか考えても無駄だが、それも運命だと思っていた。
だが、ロゼレムは私に「私に協力しなさい」と言いここにいることを許した。

それから数日が経ち、稼業はロゼレムが引き継ぐ事になったが彼女は自身の仕事が優先なので、ロゼレムが2割で私が8割という感じに進めていくことになった。
それまでは一度も旦那の仕事に介入していなかったので、ロゼレムは裏稼業では全く顔を出さず、私が顔を出すというシステムにした結果面倒な場面もあったが、軌道に乗ってきたロゼレムは自身の仕事と同じぐらいまでに立て直すことに成功できた。
というよりも、彼の存在がそこまで有名でもなかったので、引継いだというより新入りという感じに扱われたのが逆に助かった。
私は良いタイミングだと思い、家を出ていき、現在の「運び屋」の形が出来上がった。今では9割私に変わっている。


現在の形が出来上がった数か月後、私はロゼレムにあることを言われた。

「ねえ、M。死って考えたことある?」

「死?何言ってるんだ?」

この頃のロゼレムは全てが上向きになっていたことに喜びつつも少し不安を感じている面があった。
それが「死」だ。以前のままでいれば考えなかったのかもしれないが、裏稼業ではどうなるか分からない。
書類で山積みの書類のデスクに置かれた一冊の聖書が、彼女の思考をより死に対する不安感にしているのだろう。

「…いいえ、独り言よ」

ロゼレムはそういうと煙草を一服吸い、外を眺める。

「ねえ、私の最期が近づいた時や誰かに殺されるってなった時…あなたの手で殺してくれない?」

「…。」

私はロゼレムの一言を(何言ってるんだか…)という感じに軽く流した。
それが彼女の本心だとしても、それだけは絶対したくない事だ。

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柏木桜

悪そうな女の子(たまに違う)、車高低い車描いたり小説書いたりする人です。 どうもよろしくです。 たまにそれ以外もやるかもです。

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