蝉時雨の夏 第1章,身近にあった駅

 ーあれは、小学校最後の夏休み。
友達と体験したあの不思議な出来事を、僕はずっと忘れないだろうー

 

  うだるように暑い夏。
外では蝉の鳴く声がジワジワと響いている。
そんな蝉時雨の中、僕は、お昼休みに図書館で借りた本を読んでいた。

「なあ、知ってるか?存在しないはずの駅の都市伝説」
「知ってる知ってる。きさらぎ駅だろ?」
「それ、オレも知ってる。一回行ってみたいよなあ」
「でもその駅って、行ってみたいって思ってるとたどり着けないって聞いたことあるぜ。なんでも、そんな駅あるワケねーだろとか思ってたり、何気なく終電に乗ってたらたどり着いてました。とか、いろいろあるよな。憧れちゃうぜ」

クラスの後ろのロッカーのところから、そんな会話が聞こえてくる。
話しているのは、オカルト研究部の岡村たちだ。
岡村たちオカルト研究部は、その名のとおり、心霊モノや妖怪といった類のものが大好きな人の集まりで、なんで も、いわくつきの廃墟に動画を撮りながら入っていったり、夏休みには夜の学校に忍び込んで肝試しをしたり、心霊写真が撮れたりしないか、学校の七不思議は本当か、などを検証している。

今話していたのは、有名なきさらぎ駅についてらしい。
どうやら本当に行ってみたいようだ。
戻れなくなったらどうするんだろう。
僕はそういう心霊モノはあまり信じないタイプだけど、実際に体験すれば信じるかもしれないと思っている。

そんなことを考えていると、ふいに岡村から声をかけられた。

「なあ、悠弥。今年の夏休みなんだけどさ、お前も一緒に現場検証やってみないか?」

すると、他の部員の鬼怒川と大田も話しかけてくる。

「お前も一応オカルト研究部なんだしさ、小学校最後の夏休みくらい思い出作ろうぜ!」
「今回こそ現場検証成功させようぜ!」

そうなのだ。僕はオカルト研究部に入っている。
小学校6年生になったとき、特に入りたい部活もないまま日々を過ごしていたら、友達の岡村たちに声をかけられ、なんとなく研究部に入ってしまった。

まぁ、それはそれで良かったんだけど、連休なんかになると、必ずといっていいほどいわくつきの廃墟や、心霊写真 が100%撮れるというウワサのトンネルなんていうところに連れ出された。

そのおかげで、心霊モノはあまり信じないと言ったけど少しずつ信じ始めているのが現状である。

「行く場所にもよるけど…。また廃墟とかトンネルだろ?こないだのゴールデンウィークのときは、心霊写真なんか1枚も撮れなかったじゃん」
「いやいや、今回はガチで確信あるんだって!ここ、名取からそんなに離れてないからさ。な?鬼怒川も言ってたように、小学校最後の思い出として、オレが調べた中で一番マジなとこに行ってみようぜ!」
「ちなみに、今度はどこなの?」
「よくぞ訊いてくれました!今度は『オオクマ駅』です!」
「オオクマ…?」

オオクマって、常磐線に乗っていったとこの、岩沼の次の駅じゃなかったっけ?
確か「逢隈」だったと思うけど。

「その逢隈駅って心霊と関係ないと思うんだけど……」

すると岡村は、人差し指をチッチッチッと振る。

「普段は逢隈だけどな。なんでも夕方に乗ってると、駅名が『逢隈』から『逢九魔』に変わって、妖怪の住む町に迷い込むってウワサだ」
「本当かなぁ……」
「岡村が念入りに調べたんだから、今回は間違いないって!」
「じゃあ、悠弥。今年の夏休みはいざ行かん逢九魔駅!ってことで!」

すると、授業のチャイムが鳴り、今学期最後の勉強が始まる。
僕はあまり集中できず、授業の半分を聞き漏らしていた。





今日から夏休みだ。
僕は、昨日聞いた逢九魔駅に行くため、その打ち合わせということで、岡村の家に集まっていた。

「それでは、小学校最後である夏休みの計画を発表したいと思います!今回は意外と近くにあった逢隈駅こと逢九魔駅に行ってみたいと思います!これが今回の目的を書いたものだ」

岡村が配ったルーズリーフの用紙を見ると、そこには、

「名取駅に18時10分に集合。そこから18時25分の常磐線に乗って、実際に逢隈駅まで行き、1時間ほど町をブラついて、また逢隈駅に戻ってくる。何もなかったらこれはただのウワサ話であり、もしなにかに出会ったら写真を撮って帰る」

とあった。

実際、なにかに出会ったら、写真を撮るどころじゃないような気もするけど……。
だが、鬼怒川も大田もそんなことは気にしていないようで、「よっしゃあ!今度こそ心霊写真撮るぞ!」「燃えてきたぜ!これでオカルト研究部の部員たちにようやく部活のおもしろさを胸張って言える!」などと、もう行く気、やる気満々だ。

「じゃあ、明日18時10分に名取駅の改札口前に集合な!カメラ忘れるなよ」

そういって今日は解散になった。
僕はあまり乗り気ではなかったが、小学校最後の夏休みくらいいいか……と、軽い気持ちで、家路についた。





「ただいまー」

そう言って玄関を開けると、お母さんが台所から現れて、声を掛けてくる。

「あら、おかえりなさい、悠弥。岡村君たちと、なにか楽しい事でもあった?」
「うん……。あのさ、お母さん。明日なんだけど、ちょっと夕方に出かけちゃダメかな……?」
「明日?なにかあるの?」
「オカルト部で小学校最後の夏休みに思い出作りをするから、ちょっと夜にならないと行動できなくて……。だから、帰りもちょっと遅くなると思う」
「あらそう」
「ダメ……かな……?」

 すると、お母さんはニッコリと笑って、

「いいわよ。小学校最後に思い出を作りたいって気持ち、お母さんとってもよく分かる。いってらっしゃい。でも、危ないことと、他のお宅に迷惑はかけちゃだめよ?」

 と優しく言ってくれた。

「うん、分かってる。ありがとう、お母さん!」

 僕は嬉しくなった。
 お母さんはいつも僕のことを応援してくれる。
 そりゃ、いけないことをしたときは怒るけど、それは、僕のことを心配して怒ってくれてるんだってこと、ちゃんと分かってる。

「悠弥、もう少しでご飯できるから、その前にシャワー浴びてきたらいいんじゃない?汗かいたでしょ?水分もしっかり取ってね?」
「うん」

 そう言って、僕は着替えを持ってお風呂場へと向かった。


                   ☆


 シュワァー……

 僕はシャワーを頭からかぶり、シャンプーで洗う。その泡で、ついでに体も洗う。
 今日は暑かったから、汗でビショビショだ。
 頭や体を洗うだけで汗が流れて、ものすごくサッパリする。
 シャワーのあと、体をふいてパジャマに着替えると、冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取りだし、コップに注いで一気に飲んだ。

 お父さんも帰ってきてからの今日の夜ご飯は、「悠弥が前期のお勉強を頑張ったから、お母さん、腕をふるっちゃった」と言って、僕の大好物のハンバーグだった。
 それも2枚重ねにしてあって、チーズとケチャップがたっぷりとかかっていて、僕は口いっぱいに頬張って夢中で食べた。
 
「そういや悠弥。明日の夜、友達と出かけるんだって?」

 と、ビールを飲んでいたお父さんが声をかけてきた。

「うん。小学校最後の夏休みだから、オカルト研究部で思い出作りをしようってなって」
「いいなぁ。やっぱり夏はオカルトだよなぁ。お父さんもオカルト研究部に入ってみたかったよ」
「お父さんはオバケとか怖くないの?」

 僕が心配そうに訊くと、お父さんは口にビールの泡をつけながら、ははは、と笑った。

「お父さんは怖い話は大好きだよ。悠弥がオカルト研究部のためって言って、夏にやる心霊番組、いっしょに観てるだろ?」
「あ……!お父さん、ガマンしてるんだと思ってた」

 そう言うとお父さんは「親に似るもんだなぁ」と言って、コップに残っていたビールをグイっと一気に飲み干し、食卓は笑いに包まれた。


                     ☆


 ついに、次の日の朝になった。
 僕は、夏休みの宿題は、学校の休み時間にやってすでに終わらせていたため、特にやることもないので、お父さんの車を洗うのを手伝っていた。

「悠弥。せっかくの夏休みなんだから、もっと遊んでいてもいいんだぞ?なんなら、夜までゲームやテレビを観ていたっていい」

 お父さんは「子供は遊んで大きくなるもの」という信念を持っていて、常に「遊ばなくて大丈夫か?」と聞いてくる。
 でも、テストが近くなってくると、ちゃんと「テストは大切だから先生の話はよく聞いて、なるべく100点を取るようにな」と言ってくれる。
 もし、100点を取れなくて、80点を取ってしまったとしても、お父さんは怒ったりせずに、「分からないままにしていくのが一番良くないからな」と口癖のように言って、僕といっしょに復習をしてくれる。
 そのおかげで、僕は学校の勉強は遅れをとることなく、ちゃんとついていけている。

 ちなみに、僕のお父さんは子供好きで、となり町の中学校の用務員をしている。
 その中学校でも、生徒に相談されて勉強を教えたりしていることもあり、お父さんの勉強のやり方は独特で、なんなら学校の先生よりも教え方が上手かったりする。

 僕はお父さんに言う。

「ううん。僕、お父さんの車洗うの好きなんだ。遊ぶのもいいけど、夏だからお水使っていて気持ちいいし」
「そうか。悠弥は本当にしっかりしているな。お父さんもお母さんも、悠弥が真面目に育ってくれて嬉しいなぁ」

 急に褒められたものだから、僕は照れて顔が熱くなり、ホースの水を顔にかけた。


                       ☆


 そして夜になった。
 僕はリュックサックの中に、財布、デジタルカメラ、念のためにスマホとその充電器も入れて部屋を出る。デジカメを探していたら、遅くなっちゃった。

 玄関へ向かっていると、リビングからお父さんが出てきて声を掛けてきた。

「お、悠弥。出かけるのか?」
「うん。きのう言ったオカルト研究部の部活」
「そうだったな。あまり遅くならないようにだけ気を付けるんだぞ?」
「うん。分かってる」

 お母さんも声を掛けてくる。

「車には気を付けてね」
「うん」

 そう言って、僕はスニーカーを履く。

「じゃ、いってきます」

 そして、僕は薄暗くなりつつある道を、名取駅に向かって歩き出した。

 きのうは、岡村たちにはあまり乗り気じゃない雰囲気を出しちゃったけど、内心はものすごくワクワクしている。
 だって、まだ行ったことのない、しかも、異世界に行けるかもしれないんだから。

 いろいろと考えていたら、あっという間に名取駅に着いてしまった。
 まだ心の準備があまりできていないんだけど。

 2階の改札口前に行くと、すでに岡村と鬼怒川、大田が待っていた。

 岡村が僕に気付いて声を掛けた。

「あ、悠弥遅ぇよ!」
「ごめん、リュックに入れるデジカメがなかなか見つからなくて」
「ま、でも時間通りだからいっか。では諸君、出発しよう!」
「うおおおお!いざ逢九魔駅!」

 みんなすごいやる気だ。

 僕たちは逢隈駅までの切符を買い、18時25分の常磐線に乗り込んだ。

 電車が動き出す。

 名取駅周辺は明るかったが、館腰駅を過ぎると、明かりは徐々に少なくなっていき、辺りには田んぼと山が多くなってきた。

 そして、岩沼駅を過ぎると阿武隈川があり、そこに架かる鉄橋を渡る。

 鉄橋の中間に差し掛かったところで、僕はなんとなく不思議な感じがした。……なんだろう?気のせいかな。

 阿武隈川を渡ると、トンネルに入る。 
 周りは暗くなり、窓ガラスに映る自分と目が合う。
 そこには、期待に満ちた顔をした僕が映っていた。

 すると、アナウンスが流れる。

「まもなく、逢隈、オオクマです」

 ついに逢隈に着いたんだ。
 僕たちは電車を降りる。

 そこは、陽の跡が少しだけ残る、物静かな駅だった。
 周りには住宅地があるものの、今はどこの家でも夜ご飯の時間なのか、外は誰も歩いていない。

 岡村が声を上げる。

「特に変わったとこはないな。駅名も『逢隈』だし」
「ハズレだったか~!ウワサはガセネタだったんだな~」

 みんなはガックリと肩を落としているが、僕はさっきからなんとなくの違和感が消えない。
 そう思っていると、岡村が口を開いた。

「ま、せっかく来たんだし、ちょっと歩いてみようぜ」

 たしか1時間歩くんだったよな。
 計画のメモに書いてあったっけ。

 すると、

 クワーッ!!

 急にカラスのような鳴き声が響き、僕たちは飛び上がるくらいびっくりした。

 そして、僕は駅名を見てあぜんとした。

 そこには、さっきまであった「逢隈駅」はなく、あったのは「逢九魔駅」だった。


 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                

 

 

 

 

 

 

 

 

                

 

 

 

 

 

 

 

 

                

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 1
  • 1
  • 1

ヨウルクー

12月生まれなのでフィンランド語で12月です。 読書したり、カフェに行ったりと街中を散歩するのが趣味です。 神社が好きです。

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内