遥か
僕は新緑が赤で染まる秋にとある山道を歩いていた。
山岳の尾根が見える景色を眺めながら。
ここに来たのは初めてではない。
数えきれない程来た。
毎回あまりにも美しい景色に心が圧倒されたのを覚えている。
そして今また、訪れたこの場所の色彩に心が染められた。
今ふと思う。
あの時起こった事の分岐点がこの場所にあるということ。
そして、この場所に強く惹かれ、訪れた今日。
昨日では駄目だった。
あくまでも今日じゃないと駄目だったと思う・・・。
そんな気がする。
過去を思う。
先に見えた幾つもの情景が・・・。
僕がまだ十代だった頃、同級生だった友人との事。
そして、その友人の早過ぎた死の事。
「一緒に行こうね」
僕と友人が交わした約束。
そして、その約束の場所がこの場所であるという事。
「私が死んだらあそこへ埋めて」
そう言い残し、僕の前からいなくなってしまった。
そう、未来。未来が現在になった今。
僕は思う・・・。
その友人がいなくなってしまった事。
そして、何故この場所でなければ駄目だったのかという事。
未来が現在になった今。
遥か・・・。
そう、過去から現在が遥か遠く感じた。
遥か・・・。
そう・・・。確定されていない未来に遥かなる雄大さを感じながら・・・。