「よっし、数学も完了!」
「神田くんお疲れ様」
「夜城、グラフのとこマジでサンキューな。じゃ、帰りますか~。とりあえず仙台行こうぜ」
おれたちは荷物をまとめて教室を出る。
雪は小降りになっていて、ジャンパーのフードを被ってるだけでちょうどいい。
杜せきのした駅に向かって歩いていると、街路樹の枝から、積もった雪がドサリと落ちる。
それを見ていた夜城が言う。
「今は冬だけどさ、夏になると生えてくる半夏生って植物知ってる?」
「ハンゲショウ?」
「うん。葉っぱが白と緑の植物なんだけど、白いところが女の人の白粉みたいで、半分お化粧をしてるみたいに見えるから半分化粧で、ハンゲショウ」
「ふーん。お前詳しいな」
「僕の家のベランダに半夏生のプランターがあるんだ。僕のおばあちゃんからもらった大切なものなんだって、お母さんが言ってた。僕も好きな植物だよ」
半夏生か~。
おれは植物は詳しくないけど、こういうところで豆知識を得られるのはいい。
夜城にはいろいろと教えてもらってるし、前よりもずいぶんと知識が増えてきたように感じる。
そんなことをボーっと考えていたら、夜城の慌てた声が聞こえてきた。
「神田くん、横断歩道、赤信号だよ!」
「おっと!」
ミニストップの前の横断歩道で我に返ると、ちょうど信号が赤に変わったところでトラックが通っていったところだった。
危ない危ない。
それからおれたちはアクセス線で仙台に向かった。
電車の中は比較的空いていたけど、優先席しか空いていなかったので、おれと夜城はドア付近のつり革に摑まった。
近くでは小さな男の子が動き足したアクセス線に興奮して、お母さんと窓の外を夢中で見ていた。
おれにもこんな頃があったなぁ……。
仙台に近づくにつれて、天候が荒れていく。
そして仙台に着くと、ビル風がゴォォと襲ってくる。
おれはたまらず開けていたジャンパーのチャックを閉める。
夜城はダッフルコートのほかにマフラーと耳当てと手袋もしていて、顔の半分をマフラーにうずめている。
なんだか寒くて羽を膨らましているハトみたいだ。
今日はさすがに外はあまり出歩けないかな。
仙台は冬になると、雪は降っていなくてもビル風が半端じゃない。
さらに、これに雪が加わると、猛烈なブリザードになるため、とても目を開けていられなくなる。
おれたちは仙台駅のホームから、とりあえず地下に移動した。
やっと、ビル風から解放され、おれは「あぁ~~」とため息をつく。
夜城のほうを見やると、耳当てを外して首にかけている。そして、「冬の仙台ってすごいよね……」と弱々しく笑っていた。
「とりあえず、昼飯でも食べるか。夜城は行きたいとこある?」
「あっ、僕、こないだのお粥屋さんに行きたいな。スープ麺、すごく美味しかったから、また食べたいって思ってた」「オッケー。冷えちゃったから、おれは担々麺にしようかな!」
「僕は蒸し鶏のスープ麺。ショウガが入ってるから、温まれそう」
おれたちは粥餐庁に行ってみると、ちょっと混んでて、外に7人くらい並んでいた。
だけど、次々に呼ばれて、おれたちが呼ばれるまで20分くらいだった。
席に案内され一息つき、コップの水を飲みながらお昼を注文する。
「いや〜。今日の風は一段とヤバかったな」
「僕もあんなビル風、去年の年末以来だよ」
「お前年末、おばあさんの家に遊びに行ってるんだっけ?」
「うん。おばあちゃんは岩手に住んでるんだけど、そのときひどい吹雪にあってさ。行きの新幹線、2時間くらい仙台駅で止まっちゃって」
「うわ、大変だったなお前」
そうしているとスープ麺が運ばれてきて、おれたちは早く体を温めたくて、スープ麺をずずずっとすすり、体に熱を染み込ませていく。
食べていると体が徐々に温まってきて、やっと生き返った感じがする。
顔も体もポカポカだ。
食べ終えるころには、体がすっかり温まった。
ちょっと汗もかいている。
おれはスマホで今の仙台の天気予報をチェックしていると、仙台の荒れた天気は回復に向かってるとのことで、風もだんだんと収まってくるらしい。
おれたちの仙台に着いたときが一番荒れていたみたいだ。
おれたちは風が収まるまでハンズでも見ていようということになり、粥餐庁を出た。
ハンズはクリスマス仕様になっていて、人も多く、とても賑わっていた。
「相変わらずハンズは人気あるね〜。なんかペンとかノートとか、見てるとほしくなっちゃうなぁ。あっ、サラサの限定ボールペン!これ買っちゃおうかな」
「おっ、いいんじゃねか?お前文房具見るのが趣味だったな。買ってこいよ」
「うん。じゃあ、ちょっとだけ待ってて!」
そういうと、夜城はボールペンを一本選んで、レジへと向かっていった。
文房具かぁ。
おれはそんなにこだわりはないから、そんな夜城を見ているとなんだか微笑ましい。
会計を済ませた夜城が戻ってくる。
「神田くん、おまたせ。レジ、ちょっと混んでて……」
「いや、いいよ。あとどっか見る?」
「そうだねぇ。あっ、AERの本屋とかみてもいい?」
「おう、いいぜ。じゃあ、本屋見ながら、腹ごなしにブラつくか。風も収まってきたみたいだし」
「うん、そうだね」
おれたちは、駅の西口から外に出てみる。
天気は回復していて、陽も照っている。
風も収まっていて、歩きやすい。
夜城を見ると、この天候でも完全防備している。
うん。コイツはやっぱりハトだ。
