昭和歌謡に魅せられて~音の「すきま」、そしてスリー・ディグリーズ。

1970年代、タイトでゴージャス、かつメロウなサウンドで世界を席巻したフィラデルフィア・サウンド、人呼んで“フィリー・サウンド”。

その“フィリー・サウンド”のメッセンジャーとして、とりわけヨーロッパ、そして日本で人気を集めたキュートでセクシーな黒人女性3人組、それがスリー・ディグリーズ。

日本では1974(昭和49)年の東京音楽祭で金賞を受賞した「天使のささやき」のヒットをきっかけに人気が爆発し(それを見た本国アメリカのレコード会社もあわてて「天使のささやき」をシングル発売し大ヒット)、さっそく日本国内にて同時進行でふたつのプロジェクトが進められた。

ひとつは当時新進気鋭のミュージシャン集団“ティン・パン・アレイ”の演奏のもと、作詞には作詞家デビュー間もない松本隆さん、作曲にはやはり新進で、松本さんとは「はっぴいえんど仲間」であった細野晴臣さんというコンビを迎え、英語の歌詞で“和製フィリー・サウンド”の誕生を試みた「ミッドナイト・トレイン」。

そしてもうひとつは、編曲担当の深町純さんのもと、腕ききのミュージシャンたちを揃え、作詞には安井かずみさん、作曲には筒美京平さんというヒットメーカー・コンビを迎えて、日本語の歌詞で、いわば“和風フィリー・サウンド”の誕生を目論んだ「にがい涙」。

同時に発売された2枚のシングル、結果としては本格派寄りのサウンドで歌詞も英語の「和製」よりは「和風」、すなわちソウルフルでありつつ歌謡ポップス寄りな「にがい涙」の方がヒットしたものの、「ミッドナイト・トレイン」の方も、今日に至るまで高い評価を得ている。

さて、この「ミッドナイト・トレイン」と「にがい涙」、アルバム収録にあたって本国アメリカでバックの音やハーモニー・ヴォーカルなどが追加録音され、日本などでリリースされた(ちなみにこのアルバム“International”(邦題『世界の恋人』)は、発売される国や地域によって収録曲の一部やジャケット・デザインが異なるという、なかなか手の込んだリリース形態をとっていた)。

そこで、改めてここで考えてみたいのが、これら日本制作の2曲の、日本でシングル・リリースされたバージョンと、アルバム収録にあたり新たにアメリカで音が加えられたバージョン。

この2種類のバージョンを聴き比べてみた、その「音」の違いについてだ。

いわゆる“本格派”のサウンドを志向して制作された「ミッドナイト・トレイン」の場合、新たにアメリカで音が加えられても「お。さらに音が厚くなった感じだな」と、比較的素直に受け入れられるのだが、一方でソウルフルでありながらドメスティックなサウンドであった「にがい涙」の場合は、さらにサウンドが厚みを増すことによって、どこか奇妙な違和感を感じてしまうのだ。

具体的に言うなら、イントロ部分で分厚いホーン・セクションが、また、もともとソロ・ヴォーカルだった部分にはハーモニー・ヴォーカルがそれぞれ追加されており、なんというか、もともと素朴というかシンプルな良さ、いい意味での“音の「すきま」”があったサウンドに「余計なことしてくれたなぁー……」と、まぁそれはある意味大変失礼なのだが、日本の歌謡ポップス、その音の「すきま」すらも愛してきた日本人のリスナーのひとりとして、そんな感覚を抱いてしまったのは、確かなのだった。

☆サブスクで「ミッドナイト・トレイン」「にがい涙」を聴く方法について。

スリー・ディグリーズのアルバム“International”(邦題『世界の恋人』)は、サブスクに2種類登録されている。そのうち曲数が多い方のエディションを選び、下の方へ降りてゆくと“Midnight Train”と“Nigai Namida”の2曲は確かにあるのだが、その2曲は聴くことができない。しかし、そのすぐ上にある、違うタイトルの2曲をクリック/タップしてみると……これぞまさしく「ミッドナイト・トレイン」と「にがい涙」(もちろん、アルバム・バージョンだが…)である。※Spotifyの場合。2025年5月現在。なお、日本でリリースされたシングル・バージョンは日本のソニーが原盤を保有しており、今のところサブスクには出ていないため、日本企画のベスト盤などのCD等でお聴きいただくしかない。(了)

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しんのすけ1965

昭和歌謡などの音楽以外にも、さまざまに興味を持っています。そういったあたりも、どしどし出していけたらいいなぁ………なんて、思っております。

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