とある日の公園で
日曜の昼、僕は近所にある公園に行った。
季節は梅雨が明けたばかりの7月下旬であった。
どちらかというと、歩いていたらいつの間にか公園に着いたと表現するのが適切だと思う。
その日はとても晴れていて雲一つ無い空だった。
公園の中には土いじりができる砂場があり、他にはブランコ、滑り台、ジャングルジム、芝生に覆われた広場があった。
幼稚園児とそのお母さんの様な人、犬を散歩している人、サッカーをやっていたりしている人、どちらかと言うと犬の散歩をしている人の方が多かった。
犬も人間の様に性格があるのか、機嫌よく近寄って来る犬もいれば、まったく無関心な犬もいた。
僕はその公園に知り合いがいないか辺りを見渡した。
そうしたら近所に住んでいる僕より三つ下の女の子らしき人が犬の散歩をしていた。
僕は火照る様に差す光を左手で覆って遠くを見るような姿勢になって彼女のいる方向へ歩いて行った。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
彼女はペコリと頭を下げてこっちを見てにっこり微笑んでいた。
その笑顔を見たらなんだか少し恥ずかしくなりながらも僕も微笑んだ。
数秒の時間が経ち僕は、
「あの。もしかして僕の隣の隣の家に住んでいる柏木さんですか?」
「そうです。貴方様は汐留さんじゃないですか?」
少し立ち話をした後、僕と柏木さんは身体の芯が熱くなる程の気温の中、木々で覆われていてちょうど影になっている遠くにあったベンチへ向かい、着いて座った。
太陽はほぼ真上に有り、身体を刺す様なその夏の光は僕たちの身体を照らした。
僕と柏木さんはしばらくの間黙っては、しばらくの間談笑したり、間を持って無言になったりした。
僕は好きなこと、嫌いなこと。あるいは好きなもの、嫌いなものを話したり、柏木さんも同じ様に好きなことや興味のあること、将来成りたいことを話したりした。
1時間近くいただろうか、身体が水分を要求したようで、えらく喉が乾いた。
僕たちは二人で近くの自動販売機に向かって歩いた。
柏木さんの身長は150cm台中盤位だろうか。
僕は167cm位であまり身長が高いとはいえない。
むしろ身長は低い方であるため、女子と話す時は目線がちょっと下になる位だ。
僕は少し先を歩く彼女を少し後ろから眺めては歩いていた。
この季節のせいか、少し外にいるだけで汗で額が濡れ、脇の下もじんわりと濡れた。
彼女はその長髪を結っているせいか、毛先が腰に届きそうな位伸びていた。
僕の髪の長さはそれ程長くはない。
前髪が眉毛より少し上あたりにあり、揉み上げはバリカンで剃っていた。
襟足部分は前から見て、少し見える位の長さだった。
そんな中僕と彼女は自動販売機の前に着いた。
僕は前もってコーラを買う予定でいて、彼女はお茶を買う予定だったみたいだ。
たまたまセールの自動販売機だからなのか、ワンコインの100円で大半の飲料水
が買えた。
僕は予め決めていたコーラを買い、彼女はお茶を買った。
コーラを飲みながら僕はこの後どうしようか考えている時に彼女も同じように考えていたらしく、
「ねー」
「あのー」
などとお互いを呼び合っていた。
僕たちはそこからちょっと先にあるベンチに向かい、また歩き出した。
歩いている最中僕は彼女をそっと眺めては正面を見たり、また彼女を見たりしながら歩いた。
彼女は遠くにある一本の樹を見ているのか、その樹へ向かうように真っすぐ歩を進めていた。
その時ふと僕の中で風船が割れたような音が頭の中で鳴った気がした。
デジャブだろうか。既視感・・・?。
ふと昔にも同じ様な体験があった事を思い出した。
あれは僕が何歳の頃だろうか?と、記憶というトンネルの中に入り、真っ黒な先には光が点々と見えた様な気がした。
上手く記憶を呼び起こすことができない状態でいる時、彼女は心配したのか
「大丈夫?」
と、声をかけてくれた。
そう。彼女が今いるこの空間、景色、は全て過去の情景と一致した。
僕が5歳位の時に今日と同じように公園を訪れた記憶。
僕より少し前を歩く女の子。
しかし、そう・・・、その子はもうこの世にはいない。
公園で一緒に歩いた日から数日後事故に遭い、この世からいなくなってしまった。
そこまで思い出した時彼女は心配そうにまだ僕を見ていた。
「どうしたの?何かあった?」
「・・・うん。ちょっと昔の事を思い出していた」
と、僕は誤魔化し気味に応えた。
その子が亡くなって何年経っただろうか。
あの時も空は目で見える先の遥か先まで青に染められていた空をしていた。
空は同じような空をリンクし、雲はまだその引用先を求めているのか分からぬまま、青に染まった空の隣に待っているかの様だった。
栄えある存在。
僕もこの空の様に雄大な人間になりたいなと、気が抜けて温くなったコーラを飲みながらそう思ったのだった。完