ギブミーチート 2話 常識と非常識は紙一重

「おいツクモ、表示できたぞ。これがこの町、ラーウジーロ町の全体図だ。」

メルンダは、ものの10秒ほどで地図機の画面に、この町を上から見たときの全体図を表示させ、九十九に見せた。

「なんか、地図機に表示されているラーウジーロ町の中にうっすらと、アーエ区とかイビー区とか書いてありますけど、これは?」

九十九の言う通り、地図機の画面にはラーウジーロ町という文字やアーエ区という文字などが日本語で表示されている。

「あぁ、それはラーウジーロ町の区の名前だな。区って言うのは・・・まぁ、体のパーツみたいなものだ、多分。」

「体のパーツ?というか、多分ってなんですか?」

「アタシも詳しくは分かんねぇんだが、ざっくり言うとそうなるんだ、多分。」

「なんか、説明になってないような・・・というかあなた、そんなざっくりとした知識で、よく衛兵なんか務まりますね・・・」

「う、うるせぇな!!どうせアタシは冒険者上がりだよ!!」

九十九にジト目で見つめられたメルンダは、バツの悪そうな顔で開き直った。

「ゴホン!!まぁとにかく、ラーウジーロ町っていうのは5つの区から構成されている町なんだ。人間で言う所の頭にあたる部分が、真ん中のイーオ区。ラーウジーロで最も人口が多くて、最も栄えている区だ。そして、イーオ区の周りを囲んでいる4つの区が、手足にあたる部分だ。左上にあるのがエディー区、右上がシーウ区、左下がイビー区、右下がアーエ区だ。そして、アタシが勤めているここの詰所があるのは、右下にあるアーエ区だ。」

「なるほど、つまりここはラーウジーロ町アーエ区って訳ですね。」

「あぁ、そうなるな。」

九十九が異世界に連れてこられた当初は、この町の名前すら分からなかったが、ようやくここが一体どこなのかを理解することが出来た。その事実によって九十九の心の中に、言うならば一歩前進できた感が生まれた。

「・・・ん?」

その直後、九十九はある違和感を覚えた。それは、何故異世界の文明の利器と言えるような地図機に、地球の言葉である日本語が表示されているのだろう、という違和感だった。

「ツクモ、他に何か質問はあるか?」

「・・・・・・」

「おい、ツクモ!!」

「え、あぁ・・・すみません。えっと、他に質問したい所は・・・町全体が丸い線で囲まれてるんですが、これはなんですか?」

数秒考えても違和感は残ったままだったが、異世界ファンタジーの作品では日本人の言葉が都合よく異世界人に通じたりするので、九十九は野暮な考えだと思うことにした。

「あぁ、それは城郭、または城壁って奴だな。つまり、敵の攻撃から町を守るために作られた、デカくて頑丈な壁のことだ。」

「なるほど、他国と戦争するときとかに役立つ、アレですか。」

城壁または城郭という、異世界ファンタジーにピッタリな技術の登場に、九十九は少しにやけている。

「テメェ、なんでにやけてるんだよ・・・ていうか他国と戦争ってテメェ、知識が古臭くねぇか?」

「・・・古臭いって、どういうことですか?」

九十九は、メルンダのセリフの後半部分がよく理解できず、困惑の表情を浮かべている。

「あぁ、昔までは・・・具体的に言うと今から1000年ぐらい前までは、どっかの国が他国と戦争するってのも珍しくはなかったが、最近はそういうのはほとんどねぇんだ。なんでかと言うと・・・」

「あの、ちょっと待ってください。1000年って気の遠くなるほど長い時間なのに、まるで経験談のように語ってますが・・・」

九十九は、メルンダが地図機をテーブルに置いてから始めた、戦争の歴史についての説明の途中で、先ほどよりもわずかではあったが、違和感を覚えた。具体的に言うと、まるでメルンダが1000年以上生きているかのような違和感である。

「まるでも何も、実際の経験談なんだが・・・」

「実際の経験談・・・?あの、失礼ですが、あなた今おいくつですか?」

「えーっと・・・アタシは今、大体1500歳ぐらいだな。」

「せんごひゃ・・・」

異世界ファンタジーによく登場するエルフが、長命であることは珍しくない。それは九十九も分かってはいたが、メルンダの荒々しい言動や、当たり前のように機械を操作する姿を見ていた九十九は、そのことをつい失念していた。そのため九十九は、メルンダが1000年以上生きていると発言したことに驚愕したのである。

「・・・あの、ギルシーバさんって、エルフでしたよね?」

「そうだが、それがどうした?」

「・・・エルフの1500歳って、人間で言うと何歳ぐらいですか?」

「そうだな、人間で言うと・・・大体50歳ぐらいって所か。」

「へぇ、それはそれは・・・」

九十九は最初、メルンダの年齢を人間換算で20代半ばだと予想していたが、その倍は生きていたことが判明し、なんとも言えない表情を浮かべている。

「なんだよ、その反応は・・・もしかして、アタシが人間換算で50歳ぐらいだって、分かんなかったのか?」

「はい、全然分かりませんでした。僕はてっきり、その半分ぐらいかと・・・」

「半分って、つまりアタシは25歳ぐらいに見られたってことかよ・・・本当に人間って、エルフの年齢を見た目で判断し辛いんだな・・・」

メルンダは、自分の見た目年齢が実年齢よりもかなり低く見られた事に対し、九十九と同じようになんとも言えない表情を浮かべている。

「あの、つかぬことを伺いますが、エルフってギルシーバさんが世界中で最後の生き残りって訳じゃありませんよね?ギルシーバさんの他にも、エルフっていますよね?」

「当たり前だろ・・・アタシ以外のエルフなんて、世界中はおろかこの町にもまぁまぁいるぞ。さらに言えば、純血のエルフだけでも世界中に何千万人といるし、ハーフやクォーターを含めりゃもっといるぞ。」

「純血って、つまりエルフの子供の親が両方ともエルフってことですよね。それが何千万・・・」

九十九の頭の中に、人間よりも遥かに長生きのエルフが沢山いる光景が浮かんだ。

「んで、アタシ以外のエルフがどうした?」

「いえ、人間がエルフの年齢を見た目で判断し辛いってことは、エルフ同士とかだと分かるのかな、と思って・・・」

「あぁ、そういうことか。まぁエルフ同士なら、初対面でも大体の年齢は分かるな。さすがに、1桁単位まで細かくは分からねぇが・・・ていうか、ほとんどのエルフは自分自身の年齢を1桁単位まで正確には覚えてねぇ。実際、アタシも自分の年齢が1500といくつかは覚えてねぇ。」

「・・・自分の年齢を正確に覚えてないとか、エルフって適当過ぎませんか?」

「うるせぇな。長く生きていると、自分の年齢なんて数えるのも面倒になってくるんだよ。」

「そういうもんですかね・・・?なんかショックだな・・・」

九十九は、エルフなどのファンタジー世界に出てくる種族のことが、夢に見るほど大好きであった。そんな大好きなエルフの、あまり知りたくなかった種族性を知ってしまい、九十九の気分が少しブルーになった。

「ちなみに、人間とエルフ・・・あ、他にも種族がいる可能性もあるか。とにかく、全ての種族を含めた世界の人口って、だいたいどのぐらいなんですか?」

「世界の人口?そんなもん、何百億もいるぞ。」

「何百億・・・」

市川九十九が、異世界に飛ばされた時点での地球の人口は、80億人ぐらいであるため、この異世界の人口は地球より遥かに多いことになる。

「・・・ちょっと聞きたいんですが、その何百億といる世界人口の、種族ごとの割合ってどんな感じなんですか?ていうか、人間とエルフ以外の種族って、他に何がいるんですか?」

「大きく分けると人間とエルフの他に、獣人と魔族がいるな。」

「獣人、魔族・・・!」

獣人も魔族も、ファンタジーの世界ではエルフと同じように良く見かける種族である。九十九は、エルフと同じように、獣人や魔族も夢で見るほど大好きであったため、実際に見る事が出来るかもしれないと思い、少し心を躍らせている。

「そして今現在の種族ごとの割合だが、人間と獣人がそれぞれ、最低でも100億以上、エルフが3億ぐらいで、魔族が7億ぐらいだな。ちなみに人間以外は、ハーフやクォーターとかも含めた数だからな。」

「ということは、いわゆる純血の割合は人間が一番多い訳ですか?」

「そういうことだな。あと、今言った4つの種族を総称した言葉を、「人」と言う。」

「なるほど・・・というか、エルフや獣人はともかく、魔族も人の仲間なんですね。僕はてっきり、人ではない何か・・・例えば魔物とかの仲間かと思ってました。」

創作の世界での魔族は、人と敵対している種族であることが多い。九十九は、そんな魔族の事についてはこう思っている。やっている所業はとにかくとして、キャラクターデザインやキャラクター性などは魅力的であるため、魔族のことは大好きである、と。

とにかく九十九は無意識のうちに、魔族は人類の敵と思っているため、メルンダの発言に違和感を覚えたのである。

「あぁ・・・そりゃ誤解って奴だな。それも、滅茶苦茶大きな誤解だ。魔族は、魔物の仲間なんかじゃねぇ。むしろその逆。魔族にとって、魔物は敵だ。絶対に相容れない敵だ。実際、魔物というのは魔族にだって平気で襲い掛かる。それはアタシが生まれるよりもずっと大昔から証明されている事実だ。つまり魔族ってのは間違いなく、人間やエルフや獣人と同じ「人」なんだ。魔物の仲間でもなければ、親戚でもねぇんだ。」

「そ、そうなんですか・・・なんか僕、魔族に対して失礼なこと言っちゃったな・・・」

メルンダは、物凄く真剣な表情で、この世界の魔族はどんな存在なのかを説明した。それを聞いた九十九は、罪悪感に苛まれる。

「ツクモ、あんまり気に病まなくていい。最近は少しずつマシな方になってるとは言え、まだまだ魔族に対してテメェみたいな誤解を抱いている奴は、テメェ以外にも結構いるんだ。例えば、通っていた学校の教師や、勉強を見てくれた周りの大人が間違った歴史を教えたせいで、魔族は魔物を生み出している元凶・・・つまり魔族は全員が全員、魔物を作ってそれを操り、そして世界に災厄をもたらしているような、とんでもなく悪い奴ら・・・なーんて信じ込んでいる奴、とかな。」

「・・・つまり、今この世界にいる魔族はほぼ全員、いわゆる差別的なアレを受けているって訳ですか?」

「まぁ、そういうことだな。ツクモ、あまり大きな声で魔族差別のことを周りの奴に言うんじゃねぇぞ。変な奴に因縁つけられるかも知れねぇからな。」

「・・・なんか、色々と世知辛い世の中ですね。」

地球に様々な文化があるように、異世界にも様々な文化がある。そして、文化の違いはときに誤解や軋轢などを生む。それは地球でもファンタジーの世界でも同じであるらしい。

「ふと思ったんですが、魔族差別っていつ頃から始まってるんですか?そして、一体何が原因で魔族は差別をされているんですか?」

「うーん・・・正確に言うと差別なんてものは、とんでもないぐらいの大昔に人類が誕生したときから往々にしてあったんだと思うが・・・しかも魔族が差別されるだけではなく、逆に差別する側に回ったりとかな。」

「とんでもないぐらいの大昔って、何年ぐらい昔ですか?」

「・・・歴史の授業とかでは、100万年ぐらい昔と言われているな。」

「100万年・・・大分昔ですね。」

九十九が異世界に飛ばされた時点の地球では、科学的な観点から言うと何百万年も前には人類の祖先が誕生していたと言われている。それに比べると、異世界の人類の歴史はまだ浅いことになる。

「言っておくが、これはあくまで歴史学者とかが考えた、今の所一番当たっている可能性が高い、と言えるだけの予想に過ぎないからな。実際は100万年よりもっと昔から人類は誕生していたのかもしれねぇ。」

「歴史の授業にもなっているのに、結論を言えばただの予想なんですか?随分無責任な話ですね・・・」

地球でも、教科書に載っていた出来事や教師が行った授業の内容が、後々になって間違いだったと訂正される事はまぁまぁある。それと同じことが異世界でも起こっている現実に対して、学校に行けない引きこもりであった九十九は、憤りを感じている。

「歴史なんてそんなもんだ。無責任だろうがなんだろうが、大体は言ったもん勝ちなんだよ。そんでもって、言ったもん勝ちした奴らが、合っているかどうかも証明できねぇ歴史という名のただの予想を本にして出版して、印税で大儲けしたり、一般人にはよく分からねぇ内容の講演会とか開いて知名度や人気を集めたり、1000年以上生きているエルフや魔族の証言より、数十年しか生きてねぇ人間の書いた歴史本の内容の方が世間的には信じられていたり・・・酷いときには、どう客観的に見ても明らかな捏造が行われたり、それだけならまだしも、その捏造された歴史をゴリ押ししてくる奴らとかが現れたり・・・」

「本当に、世の中って世知辛いですね・・・」

九十九は、どうしてこの異世界はこんな所だけ、地球とよく似ているのか。ファンタジーの世界というのは、もっと自分のような異世界人にとって、都合良く出来ている世界なのではないのか。という気持ちになり、結構深めに嘆いている。

「まぁ、今言ったことはあくまで、アタシの勝手な意見に過ぎねぇ。歴史の解釈は人それぞれだ。ていうか、どうでもいい話をしちまったな。問題なのは、今現在起きている魔族差別がいつから始まったのか、そして何が原因なのか、だ。」

「・・・・・・」

九十九は、固唾を呑んでメルンダの言葉を待つ。

「だが、その前にどうしても確認しておきたいことがある。」

「・・・何を、確認したいんですか?」

魔族差別について聞けると思ったら、予想外の前置きが始まってしまい、九十九は肩透かしを食らう。

「ツクモ、テメェはさっき言った4つの種族・・・つまり人間、エルフ、獣人、魔族が、それぞれどんな「人」なのか説明できるか?」

「・・・すみません、質問の意図がよく分からないんですが。」

「テメェはさっきまで、魔族のことを魔物の親戚かなんかだと勘違いしてただろ?だったら、他の種族についても分かってないんじゃないか、と思ってな。それに、4つの種族の違いについて知っていた方が、魔族差別の説明も分かりやすいと思ってな。」

「そう言われても、正解なんて出せる自信ないですが・・・」

「別に正解なんか求めてねぇよ。アタシはただ、テメェが4つの種族についてどう認識しているのか確かめたいだけだ。」

「そうですか・・・分かりました。まず、何から説明すれば良いですか?」

「そうだな、まずは「人間」とは何かを言って貰おうか。」

「人間、ですか・・・」

九十九は、言うまでもなく人間である。それは地球での尺度で測っても、この異世界での尺度で測っても間違いはない。

だが、その人間とは何かを客観的に説明する、つまり辞書に書かれているような言葉で説明するとどうなるのか、と考えるとそう簡単には答えを出せないようである。

「そうですね・・・エルフや獣人や魔族とは違って、いわゆる身体的な特徴が何もない「人」のことを言うんじゃないですかね。例えば、エルフの特徴である長くて尖った耳を持ってなかったり、長い寿命を持ってなかったり・・・とにかく、他の種族で見られるような特徴が見当たらないような、そういう「人」のことを人間と言うんじゃないですかね・・・?」

5秒ほど考えた後、九十九はこう答えた。

「まぁ、大体は合っているが・・・アタシに言わせれば、7割は説明出来ているって評価だな。」

「7割、ですか・・・ということは、残り3割は説明出来てないってことですよね・・・」

「あくまで、アタシに言わせれば、だけどな。」

「・・・とりあえず、残り3割の解説をお願いします。」

「あぁ、分かった。」

メルンダは、九十九の言葉に頷く。

「「人間」という言葉には、「間」という字が使われてるだろ?」

「・・・えぇ、そうですね。」

「ツクモ、テメェはなぜ「間」という字が使われているんだと思う?」

「えーっと・・・」

九十九の頭の中に、この世界にも漢字という概念があるのか、という疑問も浮かんだが、それ以上に九十九の頭の中には、なぜ「間」という字が使われているのか、という疑問が浮かんでいた。

「ツクモ、さっきも言ったが、別にアタシは正解なんて求めてねぇんだ。大事なのは、テメェがどう認識しているか、だ。つまり、難しく考えずにテメェの思ったままを、言えばいいんだ。」

「それは、重々承知しています。ただ・・・」

「ただ?なんだよ。」

「イマイチ、良く分からないんですよね・・・」

「分からない?具体的に、どう分からないんだ?」

「前に、ネットで調べたんですけど・・・って、ネットって言われても分かんないか・・・」

地球にいた頃の癖で、ファンタジー世界にはないと思われるパソコンの話をしてしまった九十九は、別の言い方を考える。

「ネット?そのアクセントからすると、糸の方じゃなく、マネコンの方のネットか?テメェ、マネコンなんかするのか。」

「ま、まねきねこ?」

その最中にメルンダが発言した、マネコンという言葉に九十九は困惑し、またしても頓珍漢なセリフを吐いた。

「なんだよ、そのマネキネコって・・・猫が玄関で客を出迎えるのか?」

「あ、今のはただの妄言ですので、気にしないでください・・・」

「あぁ、そうかよ・・・んで?ネットで何を調べたって?」

「・・・え?」

「え?」

九十九とメルンダは、お互いに困惑しあった。九十九は、地球でしか通じないはずのネットという言葉が、異世界の住人であるメルンダに通じていることに対して。メルンダは、普通に会話していると思ったら、九十九が何故か困惑していることに対して。

「あの、ネットで調べるってどういう意味か、分かってるんですか?」

「なんだ?アタシが歳食ってるからって、馬鹿にしてんのか?ネットで調べるってのはアレだろ?まず、こういう四角いマネコンの画面があって、それでこんな感じの長方形で薄いキーボードがあって・・・」

「・・・・・・!!」

メルンダは、ジェスチャーでマネコンの画面やキーボードなどを表現している。

それを見た九十九は、地球にいた頃によくやっていたパソコンのことを強烈に思い出していた。

「そんでもって、キーボードをカタカタカタ・・・って感じで操作して、文字入力を行って検索なりなんなりして、世界中にある他のマネコンを使っている奴と繋がる・・・みたいな感じだろ?」

「・・・・・・!!」

「どうした?さっきから、おもちゃの銃で撃ち込まれたみたいな顔をして・・・アタシの説明、なんか間違ってたか?」

キーボードを操作するときの指の動きを再現し、そしてファンタジーの世界にはないと思われるパソコンの役割を大体は説明出来ているメルンダを見て九十九は、物凄い衝撃を受けていた。

そのせいで、これまたファンタジーの世界にはないと思われる銃という単語が出てきたことが、九十九の頭には入らなかった。

「この、世界には・・・パソコンが、あるのか・・・」

「パソコン?テメェの地元では、マネコンのことをパソコンと言うのか?」

「えぇ・・・そんな感じ、なんですが・・・あの、ギルシーバさん。」

「なんだよ?」

「マネコンって、何かの略語なんですか・・・?」

九十九は、ファンタジーの世界に対する自分の常識と、この世界の常識とのギャップに打ちのめされながら、メルンダに恐る恐る質問する。

「あぁ、確か・・・マナ・ネットワーク・コンピュータの略、だったかな・・・?」

「マナ・ネットワーク・・・?」

「アタシも、詳しいことは分かんないんだが・・・確か、マネコンの設計には特殊なマナが使われていて・・・どう特殊かと言うと、暗号化・・・みたいな感じの加工がされているマナで、それを暗号化マナと言って・・・その暗号化マナのおかげで、他人がそう簡単に干渉・・・つまり、基本的にはマネコンを買った本人にしか操作出来ないようにすることが可能になっていて・・・」

メルンダは、しどろもどろながらもパソコン、ではなくマネコンの更に細かい仕様について説明していく。

「それで、その買った本人が所有しているマネコン・・・仮にマネコンAだとして、マネコンAに干渉する許可をとった奴のマネコン・・・仮にマネコンBとするだろ?そんでもって、マネコンAとマネコンBの暗号化マナがお互いに干渉する・・・つまり暗号化マナによるネットワークを構築することによって、情報の共有などを行うコンピューター・・・つまり機械だから、マナ・ネットワーク・コンピュータと呼ばれているんだと、前にルーメダに・・・あ、ルーメダって言うのはアタシの友達なんだが・・・とにかくそいつにそう聞いたような気が・・・」

「なるほど・・・なんか、長々と説明してもらって、すみません・・・」

「別に良いっつぅの、こんぐらい・・・ていうかアタシも、今の説明で合っているかどうか自信ねぇし・・・」

「まぁ、パソコン・・・じゃなくてマネコンって、難しいですもんね・・・」

どうやら地球の住人の中に、パソコンの仕組みについて全てを説明出来る人がごく少数なのと同じように、マネコンの仕組みについて全てを説明出来る異世界ファンタジーの住人はごく少数らしい。

「というか、僕たちってなんでマネコンの話なんかしてるんでしたっけ?」

「確か・・・アタシが4種族の説明をテメェに求めて、まず人間とは何かを説明させたんだったな。そんで、テメェが人間についての説明がイマイチ出来ねぇとか言ったんじゃなかったか?」

「あぁ、そうだった・・・って、あれ?」

「どうした、ツクモ?」

「4種族の説明以前に僕たち、何かの会話が途中だったような・・・?」

「そう言えば、そうだったような・・・?」

九十九とメルンダは、ここ10分ぐらい行った会話の内容を思い出すため、少々おぼろげな記憶を辿っている。

「・・・あ、思い出した。ここ1000年ぐらい、国と国がほとんど戦争していない理由の説明が、まだ途中だった・・・」

「そうでしたね・・・」

5秒ほど記憶を辿った末に、先に思い出したのはメルンダであった。

「なんか僕たち、さっきから話が脇道に逸れてばっかりのような・・・」

「そりゃ、テメェが常識を知らなさすぎるから話が嚙み合わず、そして話が脇道に逸れるんだろ・・・」

メルンダは呆れながら、九十九に話が前に進まない理由を伝える。

「分からないことを聞いて何が悪いんですか・・・」

「面倒くせぇ後輩社員みたいなこと言ってんじゃねぇよ・・・」

「ハァ・・・なんかまた、どっと疲れが・・・」

九十九は、この世界の常識を頭に詰め込む作業に疲れてしまい、またしても机に突っ伏してしまった。

ちなみに先ほどメルンダは、ファンタジーの世界にはないと思われる会社という概念がこの世界にもあることを匂わせたが、疲れのせいで九十九はそのことに気付かなかった。

「・・・さっきからずっと喋りっぱなしだったし、一旦休憩するか。」

「ありがとうございます、女神メルンダ様・・・」

「だからアタシは女神じゃねぇっつってんだろ・・・」

メルンダは、九十九の妄言に深めのため息を吐いた。

「おいツクモ、アタシはこれから飲み物を用意するが、何が飲みたい?」

「・・・飲み物って、ここには何があるんですか?」

「何でもあるぞ。水でもジュースでも牛乳でもコーヒーでもノニクワ茶でも・・・」

「ノニクワ茶?」

「ノニクワっていう国で作られた茶のことだ。」

「・・・なんか、面白そうだからそれでお願いします。」

「分かった、ノニクワ茶だな。ちょっと待ってろ。」

注文を受けたメルンダは、詰所の奥へ向かっていった。

「・・・それにしても、タブレットによく似た地図機とやらもここにあるし、パソコンによく似たマネコンとやらもあるらしいし・・・この世界にはいったい何が無いんだ?」

残された九十九はテーブルの上にある地図機を眺めながら、地球にしか無いと思っていた物が、ファンタジーチックなこの世界にもあることに面食らっている。

「まぁこの調子じゃ、少なくとも現代知識を駆使して大金持ち・・・なんてことは出来なさそうだな。残念だけど・・・」

ラノベの世界では、地球にある技術を異世界で再現して、その異世界で暮らす人の生活レベルを向上させる、というような話はまぁまぁあるが、それと同じことが出来るほどこの世界は甘くないらしい。九十九は、そう悟った。

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作家A(多分本物)

暇つぶしで小説を書いている者です。 あくまでも、まず自分自身が面白いと思えるような小説を書くことをモットーにしているため、読んでくださっている皆様の嗜好には合わないかもしれません。 また、執筆作業に飽きてしまったら、投げやりのまま途中で終わりにすることも全然あり得ます。 そんな適当な作家が書いた適当な小説でよろしければ、ご覧ください。

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