手術をしたら、普通に歩けるようになると思っていた。だが、それは違った。
入院したころには、院内も寒くなり、冬服をもってきていなかった私は、ベッドの上で震えていた。手術は主治医がするのかと思ったら、他に担当医がいて、その担当医が術前、術後の説明に来てくれた。女医さんだった。前に胆のうを摘出する手術をした時は、腹腔鏡手術で、10日で退院し、傷も薄くなり完治したが、今回は、開腹手術だったので、いまでも傷が残っている。だが、お尻のほうなので、温泉にでも行かない限り、人に見られることはない。手術は午前中に行われた。麻酔を腕から入れられる全身麻酔だった。麻酔が腕に入る圧力みたいなのが感じられて、それを感じながら、私は眠った。
目が覚めたら、暗い部屋のベッドに寝かされていて、声が出なかった。すぐに激しい痛みが襲ってきて、ナースコールを押した。看護師が来てくれたので、痛みを訴えると痛み止めをくれたが、痛み止めは6時間に一回しか服用してはいけないとのことだったので、薬を飲んでも痛みが全然おさまらなかったので、心の中でもがきたおすくらい痛かったが、どうすることもできなかった。看護師に時間を聞いたら、夜中だった。看護師のシフトが変わるまで大分時間があった。近くでおばあさんらしき人のうめき声が聞こえていて、痛みでイライラしていた私は、そのおばあさんの声をうるさく感じた。
朝になって、もう一度薬をもらえて、気持ち的に楽になったが、朝ご飯が出てきて、病院の食事でも割と食べられるお粥(塩分などの味なし。その頃はパンが苦手だった)が出てきたが、食欲がなく食べられなかった。看護師のシフトが変わって、4人部屋のもとの部屋に帰ってこれた。
病気の右足は、おしりから膝くらいまで、包帯でぐるぐる巻きにされていて、膝より下は、手術する直前に履いた圧縮靴下をそのまま履いていた。三日くらい経って、痛みが和らぎ包帯がはずされた。包帯を外されたら、足が自由になって、ついついお姉さん座りをしたりして、看護師にみつかると、すぐに怒られた。ほかにも正座や体育座りとか、右足の爪を暫くは切っては駄目と言われた。
後から、聴いた話だが、私がしてもらった手術のスタイルがアメリカ式らしく、そもそも正座やお姉さん座りを普通の生活でするように考えられていないので、本来ならば、退院したら、前と同じ普通の生活ができるはずらしい。
トイレに行くときは、必ず看護師を呼んで車椅子を押してもらっていかなければならなかった。大学病院に入院中は、病室に洗面台がついていたので、歯磨きや洗顔などはそこでできたが、最初は、ベッドから起きられなかったので、顔は暖かい布巾できれいにし(毎朝介護士の人が患者のところにもってきてくれいた)、歯磨きも歯磨き用の水をベッドまで介護士の人がもってきてくれていた。精神病院より待遇がいいと思った。お茶も一日6回くらいコップにいれにきてくれた。談話室にはウオータークーラーもついていた。精神科で、水分を制限されていたのは、本当に飲みすぎで、体調が悪くなる人がいるんだろうなあとその時思った。父が腎臓が悪くて、腎機能が落ちている人は、水分を控えなければいけないので、そういう人もいるのかもなとも思った。
足がベッド上である程度動くようになったら、私は、誰かに頼めばいいのに、横着をしてしまい、カーテンを閉めるためにベッドに横向きに座ったまま、足を少し開き、伸ばして(カーテンから見ると)後ろを向いたままカーテンを閉めようとして、股関節を動かしてしまい、ごきっという音がして、すごい痛みがきた。やってしまったと思い、これは看護師にばれたらまずいと思いなんとか平静を装ったが、トイレに行くときに車椅子に乗り移る時、看護師の顔色が変わり、「レントゲンオーダーしてもらうよう先生に言って」と他の看護師に言い、私になんでこんなふうになったん?と厳しい口調で聞いてきて、私はすいませんと言うしかなかった。看護師は、私に触ることもなく、動きで股関節が外れていることに気がついたのだ。検査室に連れていかれたら、担当医がきて、股関節が抜けているのを確認すると、私の右足を思いっきり引っ張った。それでも、股関節がはまらなかったので、検査技師が、私の頭を引っ張り、担当医が足を引っ張って両方から引っ張ったが、それでもだめで、最後に主治医がそろそろ俺の出番かなみたいなかんじで登場してきて、足を担当医と一緒に引っ張ったが、はまらず、明日の朝、朝一で手術をしようということになった。私は、じっとしていたら痛くなかったが、少しでも動いたら、激痛が走った。次の日、朝一で手術をすると言っていたので、食事は抜きだった。しかし、結局夜の9時頃に再手術が行われた。主治医は、人気と信頼の厚い医師で毎日忙しいようで、急に途中で、私の手術をいれてもらうことはできなかった。
手術は無事終わり、ほっとしたが、看護師の監視の目がきつくなった。
洗面台に行けるようになったら、自分で歩けるようリハビリのため、腕を支えて立って歩く機械を使って少しずつ歩いた。シャワーは、最初はお風呂に入る用のベッドに寝かされて二人の看護師に全身洗ってもらった。恥ずかしかったが、清潔にしておかなければいけないので仕方がない。立てるようになったら、椅子があるシャワールームで、看護師が支えてくれながらも、自分で体や頭を洗ったが、立つ時にふらついたら、無理して立たないでと看護師に怒られた。
それから週2回20分リハビリすることになったが、大学病院は、手術するところで、リハビリ用の病院にすぐ転院しなくてはいけなくて、ケースワーカーに。(当時)去年改築したばかりのきれいな病院があるからここが絶対いいよと言われたが、聞いたこともない名前の病院で、不安だった。私の家の近くのリハビリ病院は、全部満床だった。
大学病院に入院したのは、10日間くらいだった。リハビリも4回くらいマッサージみたいなのをやる程度だった。転院する日、スーツケースの中身がなぜか多くなっていて、優しく接してくれていた看護師に最後、スーツケースの上に乗ってもらって、無理矢理閉めてもらった。看護師もあたしならできる自信があるといって、閉めてくれた。
余談だが、私が入院した病棟の看護師は、皆美人だった。採用基準に容姿端麗も入っているのではないかと思うほど美人揃いだった。師長さんもマダムといいたくなるような品と余裕があった。