向田邦子のエッセイを、私は30年くらい前によく読んだ。
「父の詫び状」「眠る盃」「無名仮名人名簿」など。
ユーモアにあふれていて、時々難しい言葉が出てきたりするのだが、
それを辞書で調べたりして、勉強になったし、
何より読んでとても楽しかった。
しかし最近はさっぱり遠ざかっていた。
今回ベストを買って読んだのは、偶然中古本を見つけて、
懐かしさを感じて買ったのだが、改めて読んでみると、
やっぱりこの方の本は面白いなあと思った。
向田邦子は、1929年生まれで、第二次世界大戦を体験している。
その頃の体験も書いており、
私は多くの事を知ることができた。
例えば東京大空襲。向田邦子は修羅場と表現しているが、
邦子は布を水で濡らし家中火の粉を消して回ったという。
三方を火に囲まれ、もはやこれまでという時に、
急に風向きが変わり、生き延びたという。
リヤカーで逃げようとしたが、次々と火の手が上がり、
荷物を捨ててゆく人もいて、おばあさんまで、
置き去りにした人。内緒で飼っていた犬を連れて逃げられないため、
繋いだままだったのか、犬とは思えない凄まじいケダモノの声がしたが、
やがて消えていった事。
壮絶で体験した人でないと書けない文章だと思った。