ルールはいたってシンプルです
にたりとピエロは笑った
あなたの願いを叶えましょう
あなたが願った通りに。
世界は自分の意識の反映そのもの
シュレディンガーの猫をご存じですか?
あなたが見なければ毒ガスが入っているかもしれない箱の中の猫は
生きているのか死んでいるのかわからない
あなたが見た瞬間にその生死が決定づけられる
あなたが見なければ世界は存在しているのかいないのか
存在そのものが消えたり現われたり
全てはあなた次第なのですよ
ピエロはくるりと回って見せた
そう主人公はあなたです
そしてそれを選んだあなたは責任を負わなければならない
がやがやと話声が入り混じる
ここはどこだ
ああ高校の入学式
校長先生の挨拶だ
大人とは何だか知っていますか
それは自由とともに責任が伴うということです
わたしは君たちを大人として扱います
自分の全言動に責任を負いなさい。
静かに穏やかに力強く響いた声は私に決意をみなぎらせた
私は決めた一日も休まずに通うこと
なりたいものはいくらでもある。
なんにでもなれるように自分のベストを尽くすこと
賢く明敏でどこまでも優しくあること
あの時
自分の敵は自分であるとしたんだ
毎日授業が始まる30分前に教室に入る。
それから神に祈るんだ
兄や姉父や母おじちゃんおばちゃんおじいさんおばあさん親類の一人一人の名を挙げて事件事故病気天災災害あらゆる災厄に出会わないようにお救い下さい。家が火事になったりしませんように姉の乗る飛行機が墜落したりしませんように姉の荷物が盗まれたりしませんように母が買い物でけがをしませんように部屋の鍵をかけ忘れたりしませんように。泥棒が入りませんようにジュリーが雷で怖い思いをしていませんように。授業中眠くなったりしゃっくりが止まらなくなったり鼻血や鼻水が出たりしませんように。お腹が鳴ったりしませんように机やいすを動かす音がおならだと勘違いされませんように。シャーペンの芯がくるくる回って書きづらくなりませんように授業に集中できますように。不安なこと、授業に集中できなくなりそうなことを延々と祈り続けた。
それを毎時間休み時間に繰り返す。
授業が始まってからはメモを取り続けた先生の雑談も書き留めた
教師にもなりたかったから
教え方を細かくメモした
私は予習はしない。授業が始まってからが戦闘開始だ。先生の話を聞きながら教科書を読み進めていく
分からないことや先生が言ったことと教科書の相違点を書留め質問を整理してメモってから手を挙げる
新しい知識に触れる楽しさに満ちていた。
ゲームのようなものかもしれない
黒板の板書を一目見て覚えてノートに書き写す。何行一回で覚えて書き写せるか。そんなゲームをしていた。
帰りは家まで歩く。歩きながら今日の授業を頭の中で再現する。先生がポイントだと言ったところ、チョークの色が変わったところ先生が振りむいた所、お芝居を見るように先生の授業を記憶して頭の中で繰り返した。
家に帰ってからは何もしない。お昼寝をする。
支配的な薬を飲んでいてもそこまでコントロールできた。
意志とはそういうものだ
五体不満足、生きてます15歳、にシンデレラ、そんな本ばかり読んでいた私は障碍者に憧れを持っていたのかもしれない逆境を乗り越え名を遺す彼らに価値を見出していた
私の意志が私を障碍者にしたんだ。かっこいいことだと思っていたから、その欠点が人から好かれる唯一の方法のようにも思えたから
私は愚かだった。受け身だった。生きたいと思える環境を手にする努力を放棄してた。それなのに社会を変えると息巻いたあの頃の自分を恥ずかしく思う
ピエロは私の願いを叶えてくれた
私を主人公にしてくれた
怖いほどに。
普通が一番難しい。
自分が決めるということ、私の人生は私のものだと思えること自分が自分を導き守るということそれを愚直に繰り返した人が普通の幸せを手にしてる主体性を持つということ私たちは主人公ではない。けれど、主体性、それぞれの役割を全うする時幸せになれるんだ
今誓うよ
社会の歯車になれるものなら。
ねえもう一度願うよ。