今回は、心に残った映画作品を紹介する。女優(今は俳優というのか?)のアンジェリーナ・ジョリー初監督作品である「最愛の大地(In the Land of
Blood and Honey 2011年作品)である。アンジーは女優業より、監督業のほうが向いていて才能があるなと感じた作品である。
原題の意味は「血と蜂蜜の地にて」で、観る前に少し勉強が必要である。この作品は、1992年から1995年までにあったボスニア・ヘルツエゴビナで起きた民族紛争、ボスニア戦争を背景にセルビア人(正教会)の兵士とボシュニャク人(イスラム教徒)で画家である女性が紛争によって引き裂かれ、その紛争でお互いの愛を疑い、民族戦争という愚かな戦いに二人が翻弄される作品である。史実をベースに描かれたフィクションだ。実際の戦争被害者である役者が演じているところも白熱した演技でみどころである。「Blood」(血)は、ボスニア戦争で流された多くの命を象徴し、作品中にも出てくるが、性暴力など、戦争の残酷さを表している。
「Honey」は、わたしも知らなかったが、ボスニアは自然豊かで美しい国で「蜂蜜のように甘美な地」と呼ばれていたが、紛争によってその美しい土地が血に染まってしまったという皮肉が含まれている。
恋人であった兵士の彼と画家の彼女が、ダンスバーで仲良く踊っている最中に、いきなり戦争が始まるという見ているほうも一気に混乱してしまう場面から始まる。二人は訳も分からず、必ずまた会おうと約束して、必死で逃げる。
しかし、二人で会う状態ではなくなり、お互いを心配するしかなくなった。
やがて、セルビアのほうが優勢になり、ボシュニャク人の彼女は捕虜となり、収容所にいれられる。しかし、将校の息子であった彼氏は、彼女を特別扱いし、自分の管理するベッドのある一人部屋に移す。彼氏のほうは、彼女を守りたいというより、彼女を支配し、ここに入れておけば自分の思い通りになるとでもいうように彼女をベッドのある部屋に監禁していた。彼女は、毎日絵を書いていたが、彼が来ると、ベッドにいかなければならない。このころには、彼女に、もう彼氏への愛はなくなってしまっていたかもしれない。。
そんな中、彼氏が部屋を見ていない間に他の兵士が部屋に入り、彼女をレイプした。そのことをのちに知った彼は、そのレイプした兵士を静かな場所に呼び出して、銃殺する。このレイプシーンはボスニア戦争を語るにあたって絶対になければいけなかったかもしれない。女性を戦略的にレイプする性による戦争が行われ、被害者は約2万人以上ともいわれているのだが、決して許せないが、彼氏は味方の兵士を裏切ったことになる。権力によって支配することを愛と勘違いしはじめていた。このころから、彼は戦争に染まっていく。戦争だから人を殺してもいい、何をしても構わないんだと、どんどん狂っていった。そして、彼は自分を愛しているならできるだろうと、ボシュニャク人の彼女を収容所から解放し、ボシュニャク人の領土に、いついつどこどこを爆撃するから、君はそこにいないようにと言って彼女を帰した。セルビア側の彼は、ボシュニャク人が集まるところに爆撃しようとしたのだ。
だが、彼女は、仲間と集まった時、仲間を裏切れないと思い、何回か、爆撃させて、彼に自分を信頼させたが、最後の大きな爆撃の時は、仲間に逃げるように言って、逆にセルビア人領土を爆撃させた。彼は、なんとか助かったが、彼女の裏切りを知り、それがどうしても許せず、(彼女が死を覚悟で最後に「ごめんなさい。」と一言言ったが、それは彼を裏切ったからではなく、仲間を裏切れなかったからだと私は思った。)彼は、自分を裏切るのが信じられないというかのように激高し、彼女を撃ち殺した。
あまりにも残酷で、胸が苦しくなる彼女の最後だった。まだ、観ていない方
のために最後はネタバレしない。最後を見て、改めて戦争の愚かさや、人間を狂わしてしまう意味のない戦いに、多くの人が死ぬまで苦しむことになるんだなと思った。
この戦争では、約10万人以上の死者が出て、難民が約200万人以上でた。
この映画をボスニア戦争を知るために観るのも良いが、戦争の愚かさに目を背けず戦争ってなにかを知るために観てほしい。無意味な破壊や人道的に逸脱した行動、最後に残る虚しさから、未来に戦争が起こらないことを願ってほしい。


現在のボスニアヘルツェゴビナ