令和七年の夏、青森県八戸市で開催された三社大祭を見学した。東北を代表するこの祭りは、例年多くの観光客を魅了するが、今年は特に記念すべき出来事があった。龗(おがみ)神社に所蔵されていた山車人形「太公望」の修復が完了し、実に六年ぶりに三社大祭の行列に加わったのである。
この「太公望」は、江戸時代末期に制作された貴重な文化財であり、長らく保存状態の悪化が懸念されていた。今回の修復にあたっては、衣装や装飾品に対して丁寧な処置が施され、特に衣装には天然染料が使用されていることが確認された。修復作業は専門家の手によって慎重に進められ、その費用は国庫補助および文化庁の支援を受けて賄われた。
修復後、「太公望」は市民に広く披露される場も設けられた。八戸市教育委員会の主催により、お披露目会が開催され、多くの市民や祭り関係者がその精緻な姿に見入っていた。時代を超えて今に蘇った人形は、地域の歴史と文化の象徴として、三社大祭に新たな華を添えたのである。
今年の三社大祭では、他にも見応えのある山車が多く登場した。なかでも第二位を獲得した下組町の山車は、「源平合戦」を題材としたものであった。この源平合戦は、古くから山車の題材として人気があり、武者たちの躍動感ある造形や物語性の強さが、多くの観客の関心を引いていた。実際、会場は大勢の人で埋め尽くされ、熱気と興奮に包まれていた。
また、今年の山車の中には、色使いに独自の美を感じさせるものもあった。ある山車では、グレーを基調とした配色が印象的で、その静かな色調が山車全体に落ち着きと品格をもたらしていた。派手さではなく、調和と陰影で魅せるその表現は、美術的にも極めて完成度が高く、美しさに心を奪われた。
さらに、日本神話を題材とした「スサノヲ」の山車も心に残った。配色は比較的単調でありながら、その厳かな佇まいと造形からは、崇高で荘厳な空気が漂っていた。色彩を抑えることで、神話に込められた力強さや神聖さが際立ち、まさに神々しい存在感を放っていたのが印象的であった。
全体を通じて、今年の山車には日本神話や歴史的戦記を題材としたものが多く見られた。これらの主題は、地域の文化的背景や人々の信仰、そして長年にわたる山車制作の伝統に根ざしたものである。すなわち、人々の想いや歴史観が、山車というかたちで表現されているのだ。
一方で、個人的な感想として述べれば、もっとアニメやサブカルチャーとコラボレーションした山車が登場してもよいのではないかと感じた。そういえば一昔前にピカチュウがひょっこり一匹山車に乗っていた。三社大祭のような伝統行事が、現代の大衆文化と交わることによって、若い世代の関心を呼び起こすきっかけにもなるはずである。西の弘前ねぷたは初音ミクとコラボしたりいろいろ活発である。とはいえ、そうした新たな試みに挑戦できる町も限られており、伝統を重んじる風土の中でバランスを取るのは容易ではない。良い証拠となる事例が今後現れることを期待したい。
