映画「ブロークダウン・パレス」を紹介する。主演は、のちにテレビドラマのヒット作「ホームランド」の主演を務めることになるエミー賞（ドラマ界のアカデミー賞）主演女優賞を複数回受賞するクレア・デーンズである。
（１９９９年 アメリカ映画）
高校の卒業旅行に親友同士で、タイへ行くことにした女の子二人。お互いの両親には、ハワイへ行くと嘘をついていくことにした旅だった。
楽しく観光をしていた最中、二人はホテルで同じ年頃のオーストラリア人男性と知り合う。そして、テンションが上がっていた二人に、彼は香港旅行に行かないかと誘ってくる。主人公は、警戒するが、親友のほうが彼に好意を持ち、主人公に行こう、行こうとけしかける。そして、なんとなく主人公は流され香港に行くことになる。その時に、彼から、この荷物を一緒に持って出国してくれと言われ、ある荷物を持たされる。親友はなんの疑いも持たず、荷物を受け取り、持っていこうとする。主人公は、ここでも、中身が何か気にするが、結局荷物を親友と分けて持って出国することにする。
彼は、違う日に、飛行機で先に香港に行っていると言って、二人は後から彼が手配してくれた飛行機に乗ることになった。乗る直前、空港の薬物検査で、二人が持っていた荷物からヘロインが発見される。二人は驚愕し、これは、友人に頼まれて持たされたものだと、必死で無実を訴えるが、タイの警察は二人の言い分を全く聞いてくれず、タイ警察に拘束される。二人は、オーストラリア人の男に騙されて、ヘロインの密輸犯にされてしまったのだ。逮捕された二人は、警察書で、英語の通訳も不十分なまま、タイ語で書かれた供述書にほぼ強引に署名を求められる。「署名をすれば、釈放される」と勝手に思い込んだ二人は、署名してしまうが、それは、自白書だった。
何も分からないまま裁判が開かれ、あっという間に裁判は終わり、二人には、懲役３３年の刑が言い渡された。タイの麻薬法は厳しく、外国人もタイの法の下で同等に処罰される。裁判や取り調べでは、十分な通訳がなく、不利な状況に置かれることが多いという。無実の証明には、「自分で証拠を集める」必要があり（弁護士や家族などに頼む）、時間や費用もかかり、高校を卒業したばかりの彼女達は、あまりにも無知だった。死刑や終身刑を免れて、懲役３３年は、タイではまだ軽い罪と言える現実がある。
二人は、タイの女子刑務所に収監される。この刑務所のことを「ブロークダウン・パレス」という。
劣悪な環境の刑務所で、二人はすし詰め状態の鉄格子の中に入れられる。
二人は、なんとか外のアメリカ人と繋がり、アメリカ大使館を通じてアメリカ人弁護士と出会う。この弁護士が、いろいろ調べてくれて、オーストラリア人の男は、国際的な麻薬密輸業者であることを突き止めるが、本人がみつからず、二人は絶望的になる。二人は、刑務所内で励ましあうが、不安やストレス、疲れから言い争いをするようになる。
タイの刑務所は、不衛生で食事も劣悪で、腐敗しきった看守にも直面する。
減刑や釈放のためには、「片方が罪を認め、もう片方を釈放する」というめちゃくちゃな司法取引しかないと、タイ警察側に告げられる。二人は互いに相手を守ろうとするが、精神面で壊れかけていた親友を見ていた主人公は、最終的に私が罪を認めると言って、親友は釈放される。ふらふらになり、泣きながら主人公に謝り続けながら、刑務所を出ていく親友を主人公はずっと見ているところで、この作品は終わる。
私は、この作品を見て、絶望的な気持ちになった。主人公は、５０歳を過ぎるまで、このひどい刑務所にいなければいけないのだ。異国の地で３０年以上閉じ込められて過ごさなければいけない状況は、死んだも同然である。軽い気持ちで行った異国で、えん罪に合い、人生がいっぺんしてしまった。その後アメリカに帰国した親友はどんな気持ちで生きていくのだろうか。自分だけ、大学生になり、将来は結婚し、子供を産んでなんて幸せな将来を夢みることはできないだろう。
あの終わりかたでは、主人公は多分３３年の刑に服すのだろうなと思った。友情と自己犠牲でなりたったこの話に私は主人公の身にも親友の身にもなれないと思った。
この映画を観てから、四半世紀が経つが海外に行く時は、安全と衛生はお金で買ってでも得なければいけない大切なものだなと思った。この作品を観てから、タイには絶対に行かないぞと思ったし、とにかく後味がものすごく悪い映画だと思った。
