たとえばテレサ・テンに提供した「つぐない」や「時の流れに身をまかせ」など、その作風をみて行くとやはりロマンチストだったのではないかと思われる、作曲家・三木たかしさん。
アイドル・ポップスから歌謡曲・演歌、さらには「アンパンマンのマーチ」などのアニソン・特ソンや劇団四季のミュージカルの楽曲(『ユタとふしぎな仲間たち』の「友だちはいいもんだ」は今回、クレイジーケンバンドによるカバーで収録)などなど、テレサ・テンのための一連の作品だけでなく、さまざまなタイプの楽曲を遺した三木たかしさん(2009年没)。その、まとまった形では初となる3枚組アンソロジーが発売された。
《『三木たかしソングブック』曲目リスト》
ディスク1 ヒット・ソングス
01 恋はハートで/泉アキ、ザ・レインジャーズ
02 夕月/黛ジュン
03 禁じられた恋/森山良子
04 みずいろの手紙/あべ静江
05 あなたにあげる/西川峰子
06 木枯しの二人/伊藤咲子
07 哀愁のシンフォニー/キャンディーズ
08 津軽海峡・冬景色/石川さゆり
09 ブーメラン ストリート/西城秀樹
10 思秋期/岩崎宏美
11 氷をゆらす人/野口五郎
12 つぐない/テレサ・テン
13 愛人/テレサ・テン
14 待ちくたびれてヨコハマ/柏原芳恵
15 時の流れに身をまかせ/テレサ・テン
16 想いで迷子/チョー・ヨンピル
17 竜二/八代亜紀
18 追憶/五木ひろし
19 花挽歌/香西かおり
20 夜桜お七/坂本冬美
ディスク2 レア・ソングス
01 破れハートに風が吹く/榎本健一(エノケン)
02 シャム猫を抱いて/浅丘ルリ子
03 神戸で死ねたら/西田佐知子
04 忘れないわ/尾崎紀世彦 ※カバー
05 恋人の世界/北美奈々
06 愛々時代/岡崎友紀
07 純愛/片平なぎさ
08 大した娘(こ)だよキミは/ずうとるび
09 お元気ですか/清水由貴子
10 あざみの生活/由紀さおり
11 夜はくりかえす/勝新太郎
12 ふぁど(Fado)/伊東ゆかり
13 心の瞳/坂本九 ※九ちゃんの遺作
14 雨に咲く傘の花/欧陽菲菲
15 椅子(シリャ)/冴木杏奈
16 ダブル ゲーム/南野陽子
17 セピア/西村知美
18 My Love of Destiny/本田美奈子
19 涙が迎えに来てるから/小柳ルミ子
20 花の時・愛の時/古内東子 feat. 前川清 ※オリジナル・アーティスト参加によるカバー
ディスク3 テーマ・ソングス(CMソング、映画・ドラマ主題歌など)
01 ふり向くな君は美しい/ザ・バーズ ※高校サッカーのテーマ
02 夜はドラマチック/しばたはつみ
03 嗚呼/谷村新司
04 赤い運命/山口百恵
05 さくらの唄/美空ひばり
06 愛されてセレナーデ/ヤン・スギョン
07 めだかの兄妹/わらべ
08 もしも明日が…。/坂本冬美&藤あや子 ※カバー
09 黎明/石原裕次郎
10 北の螢/森進一
11 星の王子さま プチ★プランス/鈴木賢三郎
12 アンパンマンのマーチ/ドリーミング
13 友だちはいいもんだ/クレイジーケンバンド ※カバー
14 二つの祖国/野村玲子、志村幸美
15 二人の世界/樋口麻美、木村花代
16 あなたを求めて/石丸幹二、保坂知寿
17 南十字星/阿久津陽一郎、大平敦子
☆以下、ボーナス・トラック
18 ラブソングは夜霧がお好き(未発表曲)/テレサ・テン
19 恋のとりこ/渡辺 筐(三木たかし)
20 夜汽車の女/三木たかし
21 薔薇とワイン(デモ音源)/三木たかし
というわけで、テレサのポップな未発表曲など、内容的にはおおむね納得のゆくものではあったが(個人的には、美空ひばりさんの「さくらの唄」がおすすめ)、残念というか惜しいところもいくつかあった。
たとえば三木さんは、ひとりのアイドルに比較的長い期間、楽曲を提供することが多く、男性ではヒデキこと西城秀樹さん。
「ラスト シーン」「若き獅子たち」など傑作揃いだが、今回収録されたのは「ブーメラン ストリート」。これは文句のないところだろう。
一方、女性アイドルでは「冬の星」「きみ可愛いね」などを提供した、伊藤咲子さん。
個人的にはやはり、ペギー・マーチの「忘れないわ」(後述)をアップデートしたような《史上最強の号泣ソング》こと「乙女のワルツ」一択、となるのだが、今回はセールス面の要素が重視されたのか、提供楽曲の中でもとりわけポピュラーな「木枯しの二人」が収録されることになった。まぁ、妥当なセンではあるけれども、やっぱり残念な思いは残る。
そして、つい先ほども少し話題にした「忘れないわ」。
今回、尾崎紀世彦さんによるカバーで収録されているのだが、ここはやはりオリジナル……映画『天使にラブソングを…』でも使用された「アイ・ウィル・フォロー・ヒム」で有名なペギー・マーチが日本&日本語でレコーディングし、静かに長く浸透していったもの(このタイプの楽曲としては珍しく、サブスクで聴取可)なので、もし事情が許すのならば、ここは彼女の歌唱を収録するべきだったのではないかと思ってしまった。
その「忘れないわ」については、また改めて……。(了)