いくつも羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
黒田家のある住宅地(朝)
「2014年 12月」
高校二年生、制服姿の黒田紡(17)、家の近くの坂道を下りていく。
途中でふと立ち止まり、降り始めた雪に気が付く。
嬉しそうに空を見上げてから、さっきよりも少し駆け足に坂道を下りていく。
高校の通学路(朝)
黒田紡、通学路を駆けて行く。
歌を歌いながら誰かを待っている藤沢哲(17)
紡が目の前にやってくる。ワクワクした顔でこっちを見ている。
哲、有線のイヤホンを外しながら、
哲「おはよう」
紡「雪だね」
と、すごく楽しそうで、嬉しそう。
哲「(笑いをこらえて)今日寒い」
自転車を押しながら、並んで歩きだす二人。
紡、今にもスキップをしそうな軽い足取り。
哲、それをちょっと心配そうに見守りながら歩く。
紡「積もるかな」
哲「(降ってきた雪を見て)積もりそうだね」
紡「公園で遊んで帰る?」
哲、「はいはい」という感じで笑って受け流す。
紡「雪だるま、校庭で作ったことある?」
哲「…ん?」
紡「雪だるまって、ほら、転がして大きくして。二つ作って、乗っけて」
紡「作ったことあるけど、泥んこで茶色」
哲「作ってみなきゃ分かんない!」
紡「(吹き出して笑って)そうだね」
哲「公園に雪積もってるかな、見に行ってみる?」
愛おしそうに紡を見て、微笑む哲。
紡、突然人差し指を口の前に置いて、
紡「しッ!」
と、静かにするよう促す。
哲、よくわからないから、とりあえず喋る。
哲、耳を澄ませてから、
哲「静かだね、雪降ると静かだよね」
と、やっぱり楽しそうで、嬉しそう。
哲、紡の後ろ姿がかわいくて、笑うだけ。
哲「ね、静かだよね、ね」
と、声のボリュームが上がる。
紡「(笑って)うるさい」
哲「ん?」
紡「てっちゃん、うるさい」
紡、わざと声を大きくして、
紡「哲、静かだね」
哲「うるさい!!」
笑う二人。
雪の降り積もった植木
雪がしんしんと降っている。
紡のアパート(早朝)
「2022年 10月」
外では雨が強く降っている。
紡(25)、ベッドから体を起こし、寝ぼけ眼で窓の外を見る。
激しい雨音に目を覚ます。
体を起こして、つけっぱなしになっているスマホの画面を見る。
ネッ友の松「雨すごいね」
紡「ね」
松「何時?」
紡「5時」
松「寝よ」
紡「うん」
二度寝する二人。
偏頭痛がひどくて、
紡「(こめかみを抑えて)…うるさい」
「suddenly」
紡のアパート(朝)
紡、カーテンを開けて、
紡「あ、やんでる」
先に起きていた松、出勤の準備を終えて、
松「仕事終わったら連絡するね」
と、玄関で靴を履く。
松「(笑って)いつも通りで大丈夫」
紡、松に小さく手を振って、
紡「じゃ、いってらっしゃい」
松「いってきます」
部屋を出ていく松。
松「…ニヤニヤしてるよ」
紡「(自分のほっぺを軽く叩いて)してないよ」
冷蔵庫の音が響く誰もいない部屋
小さいCDショップ
音楽が鳴り響く店内。
弓枝(38)、近付いてきて、
弓枝「紡ちゃん」
紡「お久しぶりです」
弓枝「大学楽しい?」
紡「楽しいです。やりたいことをやっている毎日です。」
弓枝「(微笑んで)良かった」
紡「(微笑み返して)はい」
?「(1枚の紙を差し出して)ん」
紡「ん?(と受け取る)」
?「こんなCDの売れにくい時代だけど…」
紡「この手があったか」
?「前向きにご検討ください」
紡「検討します!」
と、頭を上げる。
紡(……哲だよね)
誰かの手によって運命が書き変えられている。
紡はまだ、そのことを知らない。
