いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
山形学園高校・三年四組・中
「2014年 10月」
考査期間中、午前の考査が終わり、生徒たちが帰り始めている。
青いイヤホンをつけて教室を出て行く哲。
紡「……」
紡、哲の背中を目で追う。
紡モノローグ「いつも後ろ姿を追っていた」
教室を出て行く紡。
紡モノローグ「なんて名前を呼んだらいいんだろう、友達の彼氏だったら…」
[回想]同・高校の通学路
紡、名前を呼んで、哲に駆け寄る。隣まで来て。急に
紡「好き。付き合ってください」
哲、聞こえなかった様子で、
哲「(青いイヤホンを外して)ん?何ですか」
紡「えっと、何聞いてるの?」
二人、並んで歩き出し、
哲「SnowMan」
紡「お、スノ?いいよね!かっこいい」
哲「うん、好き」
紡「好き好き、学園ドラマの主題歌の」
哲「俺も出…」
紡「ね!」
哲「うん」
紡「うん」
哲、少し考えて、悩んで青いイヤホンのコードをいじってみたりして、
哲「ねえ」
紡「なに~?」
哲「好き。付き合って」
紡「え!?」
哲「(さっきよりはっきりと)付き合って」
紡「え、聞こえてる…聞こえてるけど…」
哲「え、もう一回言いましょうか」
紡「言って…いい…あ…やっぱり…あ、言っとく?言う?どうぞ」
哲、何も言わずに笑う。
紡「ちょっと待って。(スマホを出して)…ど、どうすればいいの?連絡先…とか?」
哲、紡の様子を「おもしろいなぁ」と思って笑顔で見つめるだけ。
紡「…あれ?答えるやつ?」
哲「答えるやつ」
紡「なんて答えればいいの?」
哲「俺が決めていいですか」
紡「決めていいよ」
哲「よろしくお願いします」
紡「よろしくお願いします」
哲「おっけー」
紡、照れて目をそらす。髪を耳にかける。
哲、それを見て、
哲「はい」
と、哲の青いイヤホンを紡の耳につける。
されるがままの紡。
SnowManを再生して、ウォークマンを紡のポケットに入れる。
紡「(少し聞いて)聞いたことない。映画の主題歌?好き」
哲、紡の手を握る。
紡、されるがまま、手を繋いでいる。
[回想]黒田家・紡の部屋(夜)
ベッドに寝転んで電話している紡。
紡モノローグ「長電話をした、何回も」
折り紙でツルを折りながら話す紡。
哲「その子絶対朝日のこと好きだよ」
電話越しに「お兄ちゃーん」と声が聞こえて、
哲「(恥ずかしそうに)あっ、ちょっと待って…」
紡、笑いを堪えて、
紡「お兄ちゃん!?待ってる。」
哲「やめて」
紡、ついニヤニヤしてしまう。
紡モノローグ「いつも哲の家族は仲がいい。我慢強い哲が好きでどうしようもなかった」
[回想]マクドナルド(夜)
向かい合って座る紡と哲。
紡モノローグ「クリスマスにプレゼントを交換しようって話してた。予算を決めて、交換したら、同じイヤホン。色も一緒だった。笑えるよね」
かわいい包装紙のプレゼントを交換して、同時に開ける。
紡にも黒、哲にも黒の同じイヤホン。
目を開き、顔を見合わせて笑う二人。
紡モノローグ「ほんとに交換しただけだねって言って、笑った」
[回想]黒田家・紡の部屋(夜)
「2015年 4月」
紡「高校を卒業して、大学進学して。哲から貰ったイヤホンを毎日使っていた」
紡、虚ろな表情で、哲にもらったイヤホンで音楽を聞く。溜め息。
スマホにLINEの通知。
慌ててスマホを手にして、愕然とする。
哲から【好きな人ができた。別れたい】と。
紡モノローグ「心が海の底に沈んでいくようだった。文字を見せられて関係が終わった。最後にあの声を聞くことすら出来なかった、ずっと心のどこかに引っかかったままだった」
有線のイヤホンのコードを引っ張り、耳から外す。
イヤホンをウォークマンに巻き付ける。
山形駅・改札前(夕)
紡モノローグ「イヤホンを早く変えたかった。イヤホンから音が出なくなった」
紡、小さく溜め息をつく。
有線イヤホンを耳につけて、周りの音を聞かないようにしている。
改札へ入り、一人電車で帰っていく。
同・駅前通り
紡モノローグ「あなたには、大切にしたい恋人がいますか」
哲、本を読みながら誰かを待っている。
駒場(26)、駆け寄ってきて、哲の前にしゃがみ、笑顔を見せる。
駒場に笑顔を返す哲。
駒場「お待たせ」
哲、駒場のバッグのチャックを慣れた様子で閉める。
並んで歩きだす二人、幸せそうな恋人同士のよう。
紡モノローグ「その場を離れなければいけなかった、好きな人の恋人なんて見たくなかった」
フットサル場・コート(日替わり)
哲、同級生たちがフットサルをしているのをコートの外で見ている。
芦川、やってきて、一緒に少し眺めて、
芦川「見つかったか?藤沢」
哲「(笑って)本気で探してないですよ」
芦川「そっか」
哲「紡と話したいことがあります。ちょっと思い出しただけです。」
芦川「高校の時、遊びに行ったりしたんでしょ」
哲「よく行きました」
芦川「会いたいなら、実家行ってみ。高校の時に出掛けたところに行ってみるとか」
哲「行きましたよ、音信不通になったころ」
?「運命とはそういうものです」
哲「お母さんが、元気だから気にしないでって。でも気になって。紡の大学まで行って、ちょっと話したんですけど、ほんとに元気だったからしょうがないなって。向こうが関係切りたいならどうにも」
?「紡さん、なんて言ってました?」
哲、思い出して、視線が落ちて、
哲「哲いらないって」
?「(哲から目をそらす)」
哲「俺もう黒田いらないから、やるよ、あげる」
?「俺が貰います」
哲「この話聞かれたら、私はモノじゃないってキレられそうですけど」
と、笑い話にしようとする。
哲、芸能事務所に入って、スマホを見る。
【最近どう?】と送ったLINEに、【静かです】と芦川から返信。
小さなCDショップ・店内
にぎやかな店内。
?、だらだらと近付いてきて、
?「黒田さん、黒い服着てるんですね」
紡「本当です」
?「朝の番組に出てるの知ってますか?」
紡「藤沢くん、月曜日だっけ」
?「違います、自分で調べてください」
紡「あー。(いろいろ思い出して)後で調べます」
?「分かりました」
二人から少し離れたところ、高校の制服姿の男女がスマホで音楽を聞いている。
紡「…」
紡、視界に入れてしまう。
?もそれを見て、
?「戻りたいなぁ、高校生」
紡「…」
?「黒田さん、仕事辞めたいです」
まだ高校生たちを見ている紡。
紡は何も知らない。この人物が誰なのか、なぜ紡に近づいたのかを。
