suddenly⑤

いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて

山形学園高校・三年四組・中

「2014年 10月」

考査期間中、午前の考査が終わり、生徒たちが帰り始めている。

青いイヤホンをつけて教室を出て行く哲。

紡「……」

紡、哲の背中を目で追う。

紡モノローグ「いつも後ろ姿を追っていた」

教室を出て行く紡。

紡モノローグ「なんて名前を呼んだらいいんだろう、友達の彼氏だったら…」

[回想]同・高校の通学路

紡、名前を呼んで、哲に駆け寄る。隣まで来て。急に

紡「好き。付き合ってください」

哲、聞こえなかった様子で、

哲「(青いイヤホンを外して)ん?何ですか」

紡「えっと、何聞いてるの?」

二人、並んで歩き出し、

哲「SnowMan」

紡「お、スノ?いいよね!かっこいい」

哲「うん、好き」

紡「好き好き、学園ドラマの主題歌の」

哲「俺も出…」

紡「ね!」

哲「うん」

紡「うん」

哲、少し考えて、悩んで青いイヤホンのコードをいじってみたりして、

哲「ねえ」

紡「なに~?」

哲「好き。付き合って」

紡「え!?」

哲「(さっきよりはっきりと)付き合って」

紡「え、聞こえてる…聞こえてるけど…」

哲「え、もう一回言いましょうか」

紡「言って…いい…あ…やっぱり…あ、言っとく?言う?どうぞ」

哲、何も言わずに笑う。

紡「ちょっと待って。(スマホを出して)…ど、どうすればいいの?連絡先…とか?」

哲、紡の様子を「おもしろいなぁ」と思って笑顔で見つめるだけ。

紡「…あれ?答えるやつ?」

哲「答えるやつ」

紡「なんて答えればいいの?」

哲「俺が決めていいですか」

紡「決めていいよ」

哲「よろしくお願いします」

紡「よろしくお願いします」

哲「おっけー」

紡、照れて目をそらす。髪を耳にかける。

哲、それを見て、

哲「はい」

と、哲の青いイヤホンを紡の耳につける。

されるがままの紡。

SnowManを再生して、ウォークマンを紡のポケットに入れる。

紡「(少し聞いて)聞いたことない。映画の主題歌?好き」

哲、紡の手を握る。

紡、されるがまま、手を繋いでいる。

[回想]黒田家・紡の部屋(夜)

ベッドに寝転んで電話している紡。

紡モノローグ「長電話をした、何回も」

折り紙でツルを折りながら話す紡。

哲「その子絶対朝日のこと好きだよ」

電話越しに「お兄ちゃーん」と声が聞こえて、

哲「(恥ずかしそうに)あっ、ちょっと待って…」

紡、笑いを堪えて、

紡「お兄ちゃん!?待ってる。」

哲「やめて」

紡、ついニヤニヤしてしまう。

紡モノローグ「いつも哲の家族は仲がいい。我慢強い哲が好きでどうしようもなかった」

[回想]マクドナルド(夜)

向かい合って座る紡と哲。

紡モノローグ「クリスマスにプレゼントを交換しようって話してた。予算を決めて、交換したら、同じイヤホン。色も一緒だった。笑えるよね」

かわいい包装紙のプレゼントを交換して、同時に開ける。

紡にも黒、哲にも黒の同じイヤホン。

目を開き、顔を見合わせて笑う二人。

紡モノローグ「ほんとに交換しただけだねって言って、笑った」

[回想]黒田家・紡の部屋(夜)

「2015年 4月」

紡「高校を卒業して、大学進学して。哲から貰ったイヤホンを毎日使っていた」

紡、虚ろな表情で、哲にもらったイヤホンで音楽を聞く。溜め息。

スマホにLINEの通知。

慌ててスマホを手にして、愕然とする。

哲から【好きな人ができた。別れたい】と。

紡モノローグ「心が海の底に沈んでいくようだった。文字を見せられて関係が終わった。最後にあの声を聞くことすら出来なかった、ずっと心のどこかに引っかかったままだった」

有線のイヤホンのコードを引っ張り、耳から外す。

イヤホンをウォークマンに巻き付ける。

山形駅・改札前(夕)

紡モノローグ「イヤホンを早く変えたかった。イヤホンから音が出なくなった」

紡、小さく溜め息をつく。

有線イヤホンを耳につけて、周りの音を聞かないようにしている。

改札へ入り、一人電車で帰っていく。

同・駅前通り

紡モノローグ「あなたには、大切にしたい恋人がいますか」

哲、本を読みながら誰かを待っている。

駒場(26)、駆け寄ってきて、哲の前にしゃがみ、笑顔を見せる。

駒場に笑顔を返す哲。

駒場「お待たせ」

哲、駒場のバッグのチャックを慣れた様子で閉める。

並んで歩きだす二人、幸せそうな恋人同士のよう。

紡モノローグ「その場を離れなければいけなかった、好きな人の恋人なんて見たくなかった」

フットサル場・コート(日替わり)

哲、同級生たちがフットサルをしているのをコートの外で見ている。

芦川、やってきて、一緒に少し眺めて、

芦川「見つかったか?藤沢」

哲「(笑って)本気で探してないですよ」

芦川「そっか」

哲「紡と話したいことがあります。ちょっと思い出しただけです。」

芦川「高校の時、遊びに行ったりしたんでしょ」

哲「よく行きました」

芦川「会いたいなら、実家行ってみ。高校の時に出掛けたところに行ってみるとか」

哲「行きましたよ、音信不通になったころ」

?「運命とはそういうものです」

哲「お母さんが、元気だから気にしないでって。でも気になって。紡の大学まで行って、ちょっと話したんですけど、ほんとに元気だったからしょうがないなって。向こうが関係切りたいならどうにも」

?「紡さん、なんて言ってました?」

哲、思い出して、視線が落ちて、

哲「哲いらないって」

?「(哲から目をそらす)」

哲「俺もう黒田いらないから、やるよ、あげる」

?「俺が貰います」

哲「この話聞かれたら、私はモノじゃないってキレられそうですけど」

と、笑い話にしようとする。

哲、芸能事務所に入って、スマホを見る。

【最近どう?】と送ったLINEに、【静かです】と芦川から返信。

小さなCDショップ・店内

にぎやかな店内。

?、だらだらと近付いてきて、

?「黒田さん、黒い服着てるんですね」

紡「本当です」

?「朝の番組に出てるの知ってますか?」

紡「藤沢くん、月曜日だっけ」

?「違います、自分で調べてください」

紡「あー。(いろいろ思い出して)後で調べます」

?「分かりました」

二人から少し離れたところ、高校の制服姿の男女がスマホで音楽を聞いている。

紡「…」

紡、視界に入れてしまう。

?もそれを見て、

?「戻りたいなぁ、高校生」

紡「…」

?「黒田さん、仕事辞めたいです」

まだ高校生たちを見ている紡。

紡は何も知らない。この人物が誰なのか、なぜ紡に近づいたのかを。

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ゆり子

SnowManのファンです。よろしくお願いします。

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