いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
藤沢家・玄関前
【藤沢】と表札のある一軒家。
哲の実家にやってきた紡。
緊張して手が震える。
一息ついて、チャイムを鳴らす。
妹「はーい」
と、玄関の戸を開ける哲の妹・藤沢サキ(19)
紡「久しぶりですー!」
哲「(誰かわからず)…はい」
紡「あ、わかる?高校の紡」
哲「(思い出して)あ、紡?」
紡「うんうん。久しぶり」
哲、紡を警戒する。
哲「…どうしたの?」
紡「今、実家に帰ってきてるんだ!」
哲「そうなんだ~」
紡「哲いるー?って思って、寄ってみたんだけど」
哲「今日忙しくて、これから遊びに行くんだ」
紡「そっか~。哲の連絡先分かんなくなっちゃってさ」
哲「え?」
紡「スマホ、データ飛んじゃって。聞こうと思って…」
哲「(少し考えて)紡?」
紡「うん」
哲「知ってる?」
紡「何?」
哲、察してもらおうとする。
紡、何の事か分からないまま、
紡「ああ、哲の、うん、知ってる」
哲、少し緊張がとけて、
哲「そっか…」
紡「うん…」
哲「じゃあID教えるよ、スマホスマホ」
と、家の奥へ。
紡、だましたようで申し訳ないと思いつつ、
紡「ありがと」
哲、声を張って、
哲「よかったよー、お兄ちゃん高校の友達、卒業してすぐ全切りで」
紡「(苦笑いで)お兄ちゃんになってるよ」
哲、スマホを操作しながら玄関に戻ってきて、
哲「新しい友達作ってないし」
紡「(え?)」
動揺し、返答できない紡。
哲、スマホを見て紡の様子に気付かないふり。
哲「これこれ」
と、番号をメモしながら、
紡「人に甘えられないよね」
哲「ご相談があります」
紡「どのようなご用件でしょうか、旦那様」
哲「かわいいって言って」
紡「もう少ししたら…」
小さいCDショップ
紡、音楽を聞いている。
?、紡の顔を覗き込んで、
?「大丈夫?」
紡「(?に気付いて)…あ。(笑って誤魔化して)すみません」
SnowManの特集コーナー。
紡が聞いていた試聴機の5曲目が再生されている。
黒田家の近くの道
哲の母・藤沢茜(48)、買い物からの帰り道。
向かいから歩いてくる紡。
茜、紡とすれ違い、すぐに振り返る。
茜「…(紡さん?)」
紡、気付かずに歩いて行く。
藤沢家・リビング
茜、玄関を上がってすぐ、
茜「サキ、誰か来た?」
ソファでスマホをいじっているサキ、スマホを見たまま、
哲「んー、紡さん」
茜「…(やっぱり)」
哲「(振り向いて)覚えてる?」
茜「…何しに来たの?」
哲「連絡先聞きに」
茜「え?」
哲「高校の友達に教えてなくて」
?「へー」
哲「なに」
?「教えたんですか」
哲「うん」
通り
紡、早足に駅へ向かう。
鼓動が速まり、足を止めて、深呼吸する。
スマホに哲から着信。
躊躇い、出ない紡。電話が切れた。
高校の近くのイオン・フードコート
紡「…出ないや」
紡、スマホを見ながら、コンビニのパンを食べる。
哲、机を挟んで紡の前に座って、
哲「俺、彼氏だよね」
紡「うん」
哲「ご相談があります」
紡「どのようなご用件でしょうか、旦那様」
?「いいですね、旦那様って響き」
哲「毎日話したい」
紡「私、長電話が好きなんです。話すと楽しいし」
哲「じゃあ、週末の夜できる?」
?「この女、成人式ですごいことするんだよなあ」
帰りの電車を待つ哲。
重いLINEを送ろうとするが、悩んで書いては消しを繰り返す。
哲「高校の時、付き合ってる人いた?」
紡「成人式で再会して…」
哲「どんな人?」
紡「優しい人」
哲「なにそれ」
紡「怒らないでください」
哲「生き辛そうですね」
紡「(苦笑い)」
?「その時の彼氏がSnowMan好きなんだ?」
紡「え?」
哲「前に言ってた…」
紡「SnowMan、好きでした。昔の。」
?、CDショップの前を通り、ふと足を止め、店のほうを見る。
?「……」
諦めたように視線をそらし、また歩き出す。
?「あ、元カレですか?」
紡「昔付き合ってました」
?「元カレじゃん」
紡「好きでした」
仙山線・電車内(日替わり)
紡、電車に揺られながらぼんやりと窓を眺める。
紡モノローグ「もう二度と話したくない。元気だった。ただそれだけだった。」
終わったと思った関係が続くことになるとは、誰も思わなかった。
?は黒い翼を広げ、夜の街へと繰り出した。
