いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
山形駅・改札前
改札を出てくる紡。
バス停へ向かい歩きながらバッグから白いイヤホンを出す。
片耳に付けようとしたとき、人とぶつかる。
「最悪だ…」と、足を進める。
紡「あ、すみません」
と、顔を上げる。
本を読みながら誰かを待っていた哲。
目が合い、お互いに気づく。
紡「…(え?)」
哲「…」
紡「…藤沢君」
駆け寄ろうとした瞬間、逃げるように逆方向へと去っていく哲。
通行人とぶつかり、本を落とすが、気に留めず歩いて行く。
紡「まって」
と、哲を追いかけ、後ろから話しかける。
紡「お久しぶりです」
答えず、逃げるように足を速める哲。
紡「ねぇ…藤沢君だよね」
哲「違います。人違いです」
紡「ねぇ」
と、哲の腕を取る。
ようやく立ち止まり振り向く哲。
じっと紡を見るだけで何も言わない。
紡「無視することないじゃん…」
哲「(紡から目をそらす)…」
紡「あの後、心配したんだよ!何かあったのかと思って…怒ってるとかじゃないんだけど。話そうよ!」
と、一生懸命に明るくふるまう紡。
哲、何か言いたげだが、言わない。
紡、様子がおかしいと思いつつ、
紡「私と話すの嫌ですよね、帰ります」
哲、躊躇ってから、
哲「話しかけないで」
紡、すぐに理解できず、
紡「…え?」
哲「一生懸命話されても、何言ってるかわからない。楽しそうでいいですね」
紡「え」
紡、動揺して、
紡「ちょっと待って」
と、哲の手を両手で握る。
哲、紡の手を振りほどく。
お互いに泣きそうになりながら見つめあって、話し続ける。
哲「なんで電話に出なかったのか、別れたのか、これで分かったろ?もう話したくなかったんだよ。一緒に音楽も聞くことはないし、長電話をすることもない。一緒にいることなんてつらかった。好きだった。会いたくなかった。嫌われたかった。忘れて」
涙を溜めて哲を見つめる紡。
紡、用事を思い出す。
スマホを見る。
紡に【着いたよ。ゆっくりでいいから、気を付けてきてね】とLINE。
LINE、既読無視。
通話をかけようか考えながら、ぼんやりと天を仰ぐ。晴天。
藤沢家・哲の部屋
哲の実家。哲の部屋。物は少ないが家具がそのままになっている。
茜、簡単に掃除機をかける。
ベッド下に掃除機をかけると、段ボールが掃除機の先に引っかかる。
茜「…?」
?「あ、また見つかってしまいましたね」
段ボールを引き出し、中を開ける。
ケースが無残に割れた大量のCDの端に、1万年の契約書。
開いてみると、また契約済。
やはり契約書の初めには【転生したら、悪魔だった件】。筆者は【村上サディウス】。
2つ目のパンドラの箱を見つけたのは、茜でした。
山形駅・改札前
哲との待ち合わせにやってきた紡。
哲の読んでいる本が落ちていて、拾う。
辺りを見渡すと、哲が誰かに話している。
近づこうとするが、読んでしまって。
紡「面白い」
哲に話しかける。
紡「…ごめん、読んじゃった。待って」
と、バッグの中を探す。
哲「何言ってるか、わかんない」
紡、手を止めて哲を見る。
哲「もう話さない」
と、踵を返し、歩いていく。
紡、追いかけて、哲の腕をとり、
紡「待って…」
哲、紡の手を振り払う。
紡「…」
哲「うるさい」
紡「…」
哲「お前、うるさいんだよ」
と、哲の目からも涙が溢れる。
紡を置いて一人歩いて行く。
その場に立ちすくむだけの紡。
もう一度「藤沢くん」と呼ぼうと思う。
[回想]山形学園高校・校庭
「2015年 3月」
高校の卒業式当日。
式を終えて、生徒たちが帰り始めている。
哲、黒いイヤホンを付け、一人帰っていく。
校舎から出てきた紡、辺りを見渡す。
哲を見つけて、
紡「藤沢くん!」
哲、黒いイヤホンを外し、振り返る。
二人、照れくさそうに笑って、
紡「電話するね」
哲「電話するね」
と、手を振り合う。
歩いていく哲。少しして振り返る。
紡がまだそこにいて、二人目があって笑い、また手を振る。
紡、哲の後ろ姿を見つめる。
山形駅・駅前
振り返らず、歩いて行く哲の後ろ姿。
紡、哲を見る。
哲、徐々に足が止まる。
?「これは昔好きって言っただけで、心なんてないですね」
?「それなのに、どうしてこんなに気になってしまうんでしょう」
[回想]山形学園高校・三年四組・中
4階廊下の突き当り、生徒会室。紡と哲の二人きりになった。
紡、英語のプリントを解いている。
哲、紡の前の席の椅子に座り、見守っている。
紡、問題が解けなくて、手が止まって、
紡「ねぇ、これ分かる?(と呟く)」
哲、プリントを半分に折りたたみながら、ふざけながら笑う二人。
哲モノローグ「どうでもいい話をしてた、あの時。くだらない話をしてた、あの場所。話の内容にすべて意味があって、ただ好きな人と話している時間が良かった」
?、教室の外から紡と哲を真顔で見ている。
哲、?に気付き、紡に「ねぇ」と。
紡、ようやく?に気付きビクッと。
?「(溜め息をついて)部活引退して、進路決まって、残りの高校生活で恋愛か…完璧ですね」
紡哲「「…ありがとうございます」」
?「幸せになってください」
哲、紡に「帰ろ」と。
紡、?を気にして「いいのかな」となりつつ帰る支度をする。
気にせず話し続ける?。
?「二人が付き合いだして学校中が失恋ですよ。自分がモテるって自覚ありますか?自覚のないモテるやつ、嫌いです」
紡と哲、そそくさと教室を出て行く。
?「離れて歩きなさい」
紡と哲、思わず笑ってしまう。
廊下に出て歩いて行く二人。
哲、?が見えなくなったのを確認してから、紡の手を取る。
紡「ほんとに繋ぐのか」
哲「顧問の指示」
笑って歩いて行く二人。
照れくさくなって、つないだ手をぶんぶんと振り回す紡。
哲モノローグ「特別なものが欲しかった。このままがよかった」
?「ぶち殺したくなりますね、やってらんなくなります」
こんな日々がいつまでも続くと思ったら大間違いだ。
この物語が続くように、紡と哲の人生も続いていく。
