いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
[回想]黒田家・紡の部屋(数日後)
紡モノローグ「それから藤沢くんは、電話に出てくれなかった」
LINEの通知があり、慌ててスマホを手に取る。
哲から【好きな人がいる。別れたい】
山形駅・駅前通り
振り返らず、歩いて行く哲の後ろ姿。
紡、哲を見て、涙が溢れる。
哲、徐々に足が止まる。
紡、涙を拭う。駅へ向かい踵を返す。
朝日、哲の元へ駆けて行く。
哲の肩を叩く。
哲、朝日の手を払う。
朝日「…」
哲、振り向いて朝日だと気付き、顔を背けて涙を拭う。
朝日「落ちてたよ(と本を渡す)」
哲、無言で受け取る。
朝日「大丈夫?」
哲「…」
紡「…」
哲「つむ?大丈夫?バス乗れる?」
紡「…」
哲「今どこ?」
紡「(無理に笑って)大丈夫」
哲「お迎え行くから待ってて」
紡「待ってる」
哲「電話切ったらこの動画見て」
紡「SnowManじゃん」
哲「それ。分かった?」
紡「分かった」
哲「電話切るよ」
紡「分かった」
紡、電話を切る。
一呼吸おいて、スマホに目を落とす。
哲、深呼吸し歩き出す。
スタバ・店内
向かい合って座る哲と朝日。
朝日「落ち着いた?」
哲「(頷く)」
朝日、心配そうに哲を見る。
哲、ポケットに手を入れて、紡のイヤホンを返していないと気付く。
哲「(イヤホンを見つめて)…」
朝日、それを見て、
朝日「拾ったの?交番届ける?」
哲、首を横に振り、「よく見て」とイヤホンを机の上に置く。
朝日、手に取ってみて、イヤホンと分かり、
朝日「どうしたの?」
哲「…彼女の。返しそびれた」
朝日「さっきの子か」と察して、言及しない。
イヤホンをまじまじと見て、スマホで何か調べだし、
朝日「4万くらいだね」
同じ機種のイヤホンの値段を検索している。
哲「4万…?イヤホン?そんなする?(実は彼女とお揃い)」
朝日「知らないよ」
哲「…」
朝日「相当の音楽好きか。お金持ち?」
哲「(彼女の趣味に合わせたんだ~)」
哲「返さないと」
朝日、会ってほしくなくて、
朝日「お金持ちだよ。新しいの買うよ」
哲「音楽好きだから、返さないと」
朝日「…」
山形駅・駅前通り
哲、慌てた様子で駅を出て、辺りを見渡す。
ベンチに座ってスマホを凝視している紡。
哲、紡を見つけて、少しホッとして、ゆっくりと近づく。
紡のスマホを覗き見て、
哲「推しいる?」
と、紡の隣に座る。
紡、哲に気づいて顔を上げ、
紡「この人」
紡ぐのスマホには、音楽番組の動画が流れている。
哲「俺に似てね?」
紡「たしかに目の感じが…あれ、鼻も…」
哲、バッグを開けながら
哲「ココアとカフェラテどっちがいい?」
紡「ココア」
哲、笑顔でバッグからココアを出す。
紡、気が抜けて、少し笑う。
哲「ちょっとぬるいかも。はい」
と、缶の口を開ける。
哲、紡に缶を持たせる。
スタバ・外
店から出る哲と朝日。
朝日「イヤホン返す時聞いといて」
哲「?」
朝日「高いイヤホンだといい音するの?って」
哲「なんで?」
朝日「ただの嫌味」
哲「言わないよ」
朝日「説明して」
哲「?」
朝日「ワイヤレスイヤホンとの違い」
哲「え?」
朝日「ちゃんと説明して」
と、にっこり笑う。
哲のアパート・中(夜)
哲、紡が心配で連絡しようとスマホを手に取ると、LINEの通知。
恐る恐るLINEを開くと哲からのメッセージ、既読がついている。
数日前に送った【久しぶり。元気?】だけだったトーク画面に、【黒田の連絡先わかる?】
紡のアパート・中(夜)
紡、テレビと、ラジオと、スマホから音が流れる部屋で一人ぼんやりとしている。
上の住人の足音、外から人の話す声、いろんな音が耳に入ってくる。
スマホにLINEの通知音。
驚きつつ、スマホを手に取る。画面を見て固まる。
【藤沢哲】から【イヤホン返したい】と。
2025年、仕事をする?。
?「悪魔に転生するの、この二人でいいんだっけ」
??「?さんを見守ってなきゃだめだ」
新たに??が現れた。
?「ワイヤレスイヤホン欲しい」
??「あるよ」
?「ください」
??「将来」
?「将来!?」
やってらんねえー、と仕事に向かう村上サディウスであった。
